おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

戦場のピアニスト

2019-09-11 05:09:14 | 映画
「戦場のピアニスト」 2002年 フランス/ドイツ/ポーランド/イギリス


監督 ロマン・ポランスキー
出演 エイドリアン・ブロディ
   トーマス・クレッチマン
   エミリア・フォックス
   ミハウ・ジェブロフスキー
   エド・ストッパード
   モーリン・リップマン
   フランク・フィンレイ
   ジェシカ・ケイト・マイヤー

ストーリー
1939年、ナチスドイツがポーランドに侵攻したとき、シュピルマンはワルシャワの放送局で演奏するピアニストだった。
ワルシャワ陥落後、ユダヤ人はゲットーと呼ばれる居住区に移され、飢えや無差別殺人に脅える日々を強いられる。
やがて何十万ものユダヤ人の移送が始まるが、家族の中でシュピルマンだけが引き離され、かろうじて死の収容所行きを免れる。
必死の思いでゲットーを脱出し、市内の隠れ家で息をひそめて生きるシュピルマン。
だが、ワルシャワ蜂起とともに街は戦場と化した。
砲弾と火の海をかいくぐり、心の中で奏でる音楽だけを支えに生き延びるが、ある晩、ついにひとりのドイツ人将校・ホーゼンフェルト大尉に見つかってしまう。
だが、彼はシュピルマンを殺す代わりにピアノの前へ連れて行き、何か弾くように命じた。
静かに演奏を始めるピアニスト。
暗闇に包まれた廃墟の街にショパンが響きわたる・・・・。


寸評
ひたすら物音をたてずに潜んでいたシュピルマンがドイツ人将校に発見されて、これが最後とばかりに覚悟を決め、また今までの物音を殺した生活を打ち破るように引くピアノの演奏シーンがたまらなく力強く印象深い。
そしてこのドイツ軍将校の存在がこの映画と物語を救いのあるものにしている。
彼はピアノ演奏の素晴らしさと、音楽の民族を超えた素晴らしさに心打たれ、ユダヤ人シュピルマンを見逃し、そればかりか救いの手を差し伸べたのだ。
「ナチス=悪」という常識とは違うドイツ軍将校の登場は、少々食傷気味なっているナチス告発映画と一線を画していた。
思えば、主人公シュピルマンは彼を取り巻くあらゆる人々から救いと援助をもらい生き延びている。
その救いと援助の積み重ねの展開は、見ているものを引き付け、2時間半の時間を感じさせない。

時折事件めいた出来事を挿入しながら物語を進めていくポランスキーの演出はすばらしい。
ユダヤ人に対する虐待や虐殺行為が日常茶飯事に描かれ、当然の如くそれらのシーンが処理されていくことに戦慄を覚える。
戦争も民族紛争も虐待も絶対によくない。
シュピルマンが生き延びる姿は、生き残るのも地獄と思わせるほどで、ただ一人身を潜めて逃げ続ける彼の恐怖と孤独が痛いほど伝わってくる。
僕には現実として迫り来る戦争の恐怖はないが、年齢を重ねてしまった今は生きたい思う気持ちが湧いた時のことを恐怖に思うようになった。
生と死の狭間は誰にでも訪れるが、このような状況だけは避けたいものだ。

エンディングのクレジットタイトルに重なる演奏シーンも、先の演奏シンに匹敵する盛り上がりを見せ感動ものだった。
振り返ると、主人公がピアニストなのにピアノの演奏場面が極端に少なく、それがかえって効果をもたらせて来たことに気づく。
隠れ家にピアノがあるのに、音を立てられないから弾くことはできず、鍵盤の上で弾くマネをするだけ。
こういう伏線があるから、クライマックスで久々にピアノを弾くシーンが、実に美しかったのだと思う。

それでもポランスキー作品としては「水の中のナイフ」や「反撥」、あるいは「吸血鬼」や「ローズマリーの赤ちゃん」などの初期作品の方が個人的には好きだし、印象的で脳裏に残るシーンが多い。
何年か経ってこの映画を思い出したとき、はたしてどのシーンを思い出すだろう。
今からの楽しみでもある。
私の場合の記憶に残るシーンは、例えば「水の中のナイフ」で、指を一本立てて片目を交互に閉じてヨットのマストを見ると、マストがその指の右に行ったり左に行ったりする、物語上何の影響もないシーンだったりするのだ。
そして、それは何年か経過しないと判らないことだけれども、振り返ってみた時、出来るだけたくさん思い出されるシーンを有している作品が、自分の中ではいい映画として思い出に残っている。