おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

それでも夜は明ける

2019-09-25 09:26:11 | 映画
「それでも夜は明ける」 2013年 アメリカ


監督 スティーヴ・マックィーン
出演 キウェテル・イジョフォー
   マイケル・ファスベンダー
   ベネディクト・カンバーバッチ
   ポール・ダノ
   ポール・ジアマッティ
   ルピタ・ニョンゴ
   サラ・ポールソン
   ブラッド・ピット
   アルフレ・ウッダード

ストーリー
奴隷制度が広がっていた1841年、ニューヨーク州サラトガのソロモン・ノーサップは自由黒人のヴァイオリニストで、妻と子供2人と順風満帆な生活を送っていた。
ある日、彼は二人組の男たちから金儲けができる周遊公演に参加しないかと誘いを受けた。
ある晩、二人組の男たちにノーサップはアメリカ南部ニューオーリンズの奴隷商に売られることとなった。
彼は自分は北部の自由黒人だと主張するが、材木商のウィリアム・フォードに購入される。
フォードは信仰心が篤く温和な性格の農園主だった。
奴隷となったノーサップは知能と知識を使って、材木の水運を提案する。
これが成功しフォードに目をかけられるが、農園の監督ジョン・ティビッツにねたまれる。
いやがらせを受けたノーサップは逆上して鞭で打とうとするティビッツからこれ奪い暴力を振るってしまう。
ノーサップはティビッツに報復行為として木につるされる。
ノーサップの身の危険を悟ったフォードは、仕方なしに資金面で世話になっている別の農園の支配人のエドウィン・エップスにノーサップを売ってしまう。
フォードと異なりエップスは狂信的な選民主義者で非常に陰湿で残忍な性格の持ち主だった。
綿花栽培のノルマに達成しない奴隷や気分が悪いときは平気で鞭打つなどしていた。
ある日奴隷として白人であるアームスバイがやってくる。
自分と近い境遇に親近感を覚えたノーサップはアームスバイを信用し、友人へ手紙を送るよう懇願するがアームスバイは裏切り、ノーサップはエップスに責め立てられるが機転を利かし難局を乗り切る。
その後も長い奴隷の時を過ごすが、カナダ人で大工のサミュエル・バスと出会ったことから風向きが変わる。


寸評
映画の冒頭は、すでに奴隷となって過酷な生活を送るソロモンの姿。
そこから観客は彼の12年間に渡る痛みや苦しみを追体験することになるのだが、元々のノーサップは自由黒人のバイオリニストで、白人の友人もいる普通の生活をしていたことが分かる。
自由黒人がいるということは不自由黒人がいるということで、不自由黒人とは奴隷のことなのだろう。
映画は不自由黒人である奴隷の過酷で悲惨な姿をノーサップを通じてこれでもかと描き続けていく。
黒人差別の映画は今までにもたくさんあったと思うが、ここまで奴隷として徹底的に差別される姿を描き続けた作品は少なかったのではないか。

最初に売られた先の農場主はまだマシだった。
教養を身に着けているノーサップの能力を評価するし、彼を目の敵にする監督官からも守ってやろうとしている。
ノーサップが縛り首のリンチにあい、首に縄をかけられたまま爪先立ちの姿勢で放置されているのを救ったのもこの農場主なのだが、しかしその農場主ですら、主人であるにもかかわらず白人である監督官の奴隷殺害を制止できないでいるし、さらに借金のかたとして別の農場主にノーサップを売り渡さねばならない。
奴隷は人間の形をした単なる商品に過ぎないと知らされる。
売り渡された先では地獄のような農場主が待ち構えていて、ここでの壮絶すぎる体験は目を覆いたくなるものだ。
特に恐ろしいのがムチ打ちで、ノーサップや女性のパッツィーに対して行われる。
血が飛び、肉がえぐれる痛すぎる映像が展開され、けっして気持ちのいいものではない。

恐ろしいのは奴隷を虐待するという行為だけではない。
ノーサップは逃亡を計った時に黒人奴隷の処刑場面に出会うが、自分が生き延びるためには処刑される奴隷を見捨てるしかなく、逃亡もあきらめる。
ムチ打ちの刑を命じられればパッツィーに対しても行わねばならないし、自分の身が危険になっても他の奴隷たちが助けに来てくれるわけではない。
奴隷たちは自分の命を守ることで精一杯なのだ。
女性奴隷は主人の愛人となって命を長らえているのだが、彼女たちは性奴隷としての愛人生活がいいのか、勤労奴隷としての過酷な労働がいいのかの二者択一を迫られ、当然のように黒人のメイドを使える愛人生活を選んでいるし、パッツィーは嫉妬する農場主夫人の虐待にも耐えねばならない。
白人女性も奴隷たちに対しては男たちと大して変わりはないのだ。
人間のエゴと環境に染まってしまう怖さを感じる。

ノーサップの前に映画のプロデューサーでもあるブラッド・ピット演じる進歩的なカナダ人が現れ、奴隷制度の非を語るが、その正論すらなにか白々しいと感じてしまう。
それほど描かれ続けた黒人奴隷たちの姿はひどかったのだ。
それでも題名通りノーサップに夜明けが来るのだが、そのシーンを見ても僕の心に感動は起きなかった。
映画は「二度とこんなことをしてはいけない!」と語り、現代社会の差別や虐待にも同様のメッセージを発していると思うが、それにしても気が重くなる映画で、この作品にアカデミー作品賞をよくぞ与えたものだと思う。