おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

その土曜日、7時58分

2019-09-23 08:17:15 | 映画
「その土曜日、7時58分」 2007年 アメリカ / イギリス


監督 シドニー・ルメット
出演 フィリップ・シーモア・ホフマン
   イーサン・ホーク
   マリサ・トメイ
   アルバート・フィニー
   ブライアン・F・オバーン
   ローズマリー・ハリス
   マイケル・シャノン
   エイミー・ライアン
   サラ・リヴィングストン
   アレクサ・パラディノ

ストーリー
ニューヨーク郊外の小さな宝石店に男が押し入った。
銃を突きつけ店員の女性を脅しながら、次々と宝石を袋に詰めていく。
隙を見つけた店員が男に発砲。男も撃ち返す。倒れる二人…。
店の外で待っていた共犯者は、強盗が失敗に終わったことを知り、あわてて車を走らせる。
強盗3日前。
アンディ・ハンソンは、ある会社の経理の重役として勤務していた。
近いうちに財務の監査が入ることが明らかになったが、彼は内心焦っていた。
というのは、彼は従業員から金を横領しており、それを隠すための資金繰りに困っているのだ。
アンディの弟、ハンクもまた金に困っていた。
彼の娘の養育費と、娘が通っている私立学校の高額な授業料を払えずにいたのだ。
そんな最中、ハンクはアンディの妻、ジーナと長きにわたって不倫の関係にあった。
金に困り果てたアンディは、ハンクに自分たちの両親が経営する宝石店に強盗に入るという提案をする。
ハンクは嫌がったがアンディの説得に負け、渋々承諾する。
しかし、アンディの話は驚くべきもので、なんとアンディは近所に顔を知られているため正体がバレる可能性が高いため、ハンク一人で実行に移すというものだった。
しかしアンディが言うにはその日は両親が雇っているドーリスという老婆しか店にいない予定で、ハンク一人でも楽勝なこと、また保険に入っているため両親には実質的には損害はないということで、ハンクも承諾する。
かくして総額12万ドル、それぞれが6万ドルの財産が転がり込む予定の強盗計画は開始された。
しかしハンクが身勝手な行動をしたために強盗は失敗し、悲劇が悲劇を呼ぶ連鎖が始まってしまう。


寸評
犯行時を起点にして、時間を行きつ戻りつしながら、それぞれの登場人物の経緯を描き出して異様ともいえる緊張感を生み出している。
ささいなことから破滅へと突き進んでいく姿が痛々しい。
映画の冒頭でアンディ(フィリップ・シーモア・ホフマン)がベッドの上で美しい女性を相手にしたセックスシーンがリアルに映し出される。
女性はアンディの妻ジーナ(マリサ・トメイ)なのだが、倦怠期の夫婦が久しぶりに妻ジーナとの間でこんな激しいエッチが実現したのは、現実から逃避してリオデジャネイロに来ていたからだ。
どうもアンディは現実逃避したくなるような立場にいるようなのだが、それが会社の金を使い込んでいたことによるものだと判明してくる。
アンディの弟ハンク(イーサン・ホーク)は離婚していているのだが、娘の養育費を払えていないし、可愛い娘の遠足費も出してやれない金欠状態。
ハンクの離婚した元妻のマーサ(エイミー・ライアン)が会うたびに「カネ!カネ!カネ!」と言うのもハンクを追い詰めている。
お互いに金を必要としている立場の二人が実行するのが両親が経営する宝石店というとんでもない計画で、それを実行したとたんに破たんが訪れてしまう。
その状況を同じ場面を視点を変えて挿入しながら、時間軸を前後させて描いていくのだが、個々のシーンの映像もシャープでつなぎ方も実に巧みだ。

いきなりの強盗シーンで、おばあちゃんが予想外の反撃を加える。
犯人はドアの外へ吹っ飛び、それを見たハンクが慌てて車を走らせながら「何てバカなんだ!」と叫んで映画が始まるが、そこから日にちを前後させてそれぞれの行動をあぶりだしていく。
兄弟が追い詰められている状況、また計画が破たんしてしまう状況、事件のあとの戸惑いの様子などがサスペンスらしく緊張感をもって描かれていく。
同時に描かれていくのが彼らを取り巻く欺瞞に満ちた人間関係である。
ジーナは夫のアンディが何も話してくれないことで、常に「魅力的だ」と言ってくれるハンクに安らぎを覚え不倫をしていたことが明らかになる。
アンディと父チャールズ(アルバート・フィニー)との間には確執がある。
アンディは父が弟を可愛がり、自分は無視されていると思っているし、父親もアンディに期待をかけ過ぎたと許しを請うような状態だった。
そんな気持ちが内在していたのに、それを覆い隠して成立していた家族だったことも判明してくる。
やがて兄弟間にも隙間風が吹き始め、もがけばもがくほど、ますます泥沼に陥ってしまう。
破滅に向かう家族の姿を通して人間の持つか弱さと闇の部分をあぶりだしていく。
あまりにもあと味が悪い結末だが、ハンクは一体どうなったのだろう?
それぞれの役者は役柄の人物像を見事に演じ切っていたが、やはりアンディを演じたフィリップ・シーモア・ホフマンが何といっても秀逸だった。
シドニー・ルメット最後の輝きと言ってもいい作品になっていたと思う。