おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

それでもボクはやってない

2019-09-24 08:38:25 | 映画
「それでもボクはやってない」 2007年 日本


監督 周防正行
出演 加瀬亮 役所広司 瀬戸朝香
   山本耕史 もたいまさこ
   尾美としのり 北見敏之
   大森南朋 田山涼成 徳井優
   正名僕蔵 小日向文世
   大和田伸也 田中哲司
   益岡徹 山本浩司 高橋長英
   鈴木蘭々 野間口徹 光石研
   清水美砂 柳生みゆ 竹中直人
 
ストーリー 
就職活動中の金子徹平は、会社面接に向かう満員電車で痴漢に間違えられ現行犯逮捕されてしまった。
徹平は警察署での取調べで容疑を否認し無実を主張するが、担当刑事に自白を迫られ、結局拘留されてしまうことになる。
さらに検察庁での担当副検事の取調べでも無実は認められず、ついに起訴されてしまった。
徹平の弁護に当たるのはベテラン弁護士・荒川と、新米弁護士・須藤だ。
徹平の母・豊子や友人・達雄たちも徹平の無罪を信じて動き始めた。
やはり痴漢冤罪事件の経験者で今でも自分の無罪を訴え続けている佐田も協力を惜しまないと言う。
一同はまず事件当時、徹平のことを「犯人ではない」と駅員に証言した女性を探そうとするが、見つからなかった。
そんな中、ついに徹平の裁判が始まる。
幸運なことにこの裁判は、公平な判決を下すことで有名な裁判長が担当することになった。
そして荒川たちの追及によって明らかにされていく警察のずさんな捜査内容。
一見状況は徹平側に有利に進んでいるように見えた。
しかし、途中で裁判長が交代することになり、俄かに雲行きは怪しくなっていく。
何といっても刑事事件で起訴された場合、裁判での有罪率は99.9%と言われているのだ。


寸評
見せる。2時間半に及ぶかなりの長尺だが飽きさせない。取り調べから裁判にいたる出来事を淡々と描いているにもかかわらず、最後まで画面に引き付けられた。裁判の仕組みを知らないので、興味を持って見ていたことも理由の一つだが、全体の構成とシーンのメリハリ感が何よりだった。
例えば冒頭の現行犯逮捕される本当の痴漢の逮捕劇から、自白による釈放までを挿入する事で、主人公の否認をより一層浮かび上がらせていた。
あるいは、竹中直人が演じるアパートの管理人がコミカルな役を引き受けていたが、もたいまさこの母親から手土産を渡され態度が一変するのは、人が相手の行動や印象によって、その人への対応を変えるものだとの表現でもあり、家宅捜査中の刑事にふと漏らす何んでもない会話が、容疑者の証拠探しをする者には重要証言になってしまう危うさを現していて、ほんの少しの登場シーンだったが、決して息き抜き場面にはなっていなかった。
ことほど左様に作りが丁寧なのだ。それが最後まで引き付けた最大の理由だと思う。これぐらい丁寧に作られると、見ていて安心感が湧き出て肩がこらない。
反面、日本の刑事裁判の問題点を追及する姿勢が強いので、主人公を自白に追い込まれそうになる精神状態や、それに屈服しそうになる極限状態などは希薄だった。
それがグイグイ押してくるような迫力に乏しい理由だし、テーマの割には重苦しくしていない理由でもあったと思う。

僕は光石研が演じる、主人公の支援者になる佐田の存在が、主人公の孤独感や不安感をやわらげてしまっていて、むしろ登場させなくても良かったのではないかと思っている。もっとも、一方では、痴漢冤罪裁判を継続中の佐田夫婦を登場させて、免罪事件で戦う人々がいる事を訴えたかったのかも知れないなとも感じているのだが・・・。
痴漢をやる卑劣な男も許せないが、それ以上に冤罪で苦しむ男にも同情してしまう。控訴すると、あの被害者の中学生も再び裁判に付き合うことになるわけで、刑事裁判の難しさも想像できる。

裁判は真実を明らかにする場所ではなく、有罪か無罪かの判断をする場所なのだという事だけは知った。
警察は逮捕した人間が有罪である為にだけ動くし、検事はその犯人が有罪であるとの一方通行の仕事をやる。裁判官は検事の主張に同意できるかどうかだけを判断基準にしている。疑わしきは罰せずなのだろうが、人が人を裁く難しさを感じた。そのことは裁判官が正名僕蔵から小日向文世に代わっただけで、裁判の雰囲気が変わることで表現されていたと思う。
有罪に持っていくための警察の調書作りなどはテレビドラマでもよく見かけるシーンだが、無実を訴える被告に最初から示談を持ちかける当直弁護士や、裁判を早く終らせるために執行猶予をちらつかせ示談を提案する裁判官などの存在は理解し難い。警察、検察、裁判官の理不尽さ、あるいは制度の理不尽さを感じたけれど、正義の側として描かれた弁護士達が、本当の裁判でもあのように真剣に弁護してくれるものなのだろうかとの疑問も残った。ひとり弁護士だけが全くの正義であるとは信じる事が出来ないから。
母親、友人、冤罪被害者達など大勢の支援者も登場して救われる気もしたが、それでも何だか国家不信、人間不信に陥るような映画だったな。