おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

シベールの日曜日

2019-07-17 06:44:38 | 映画
「シベールの日曜日」 1962年 フランス


監督 セルジュ・ブールギニョン
出演 ハーディ・クリューガー
   パトリシア・ゴッジ
   ニコール・クールセル
   ダニエル・イヴェルネル
   アンドレ・オウマンスキー

ストーリー
戦争中パイロットだったピエールは戦線で少女を射殺したと思いこみ、それ以来、みずからインドシナ戦争での激しい戦に加わり、墜落のショックで彼は記憶喪失性となった。
同棲しているパリの病院に勤める看護婦マドレーヌの愛情も、友人である芸術家カルロスの友情もピエールの孤独な心を救えなかった。
あるたそがれ時、ピエールは町で一人の少女に会った。
少女の名はフランソワズといい、父親から見捨てられて寄宿学校に入れられていた。
二人は日曜日ごとに会い、互に孤独な二人の間には汚れのない愛情が生れていった。
ピエールはマドレーヌがいない日曜日毎にその少女--フランソワーズを外出に連れ出して森の中で一緒に遊んでいたのだが、この日曜日を守るために、彼等は周囲に嘘をいわねばならなかった。
だが周囲の人々はそんな二人の姿に不信感を抱き始めていた。
クリスマスがやってきて、いつものように二人は池の畔で楽しいクリスマスイブを過ごしていた。
いまはピエールを唯一の友人と思っている彼女は、はじめて本当の名前はシベールだと告げるのだった。
一方、マドレーヌはピエールの不在に気づき相談相手の医師ベルナールに助けを求めた。
ピエールを頭から変質者扱いにしている彼は早速警察に連絡した。
警察もベルナールと同じく父親でもない男が少女と恋人同士のようにしている姿に少女の危険を感じた。
警官達は二人の楽しいクリスマスの現場に踏み込んできた。
彼等はピエールにピストルを向けた・・・。


寸評
学生時代のことである。
映画仲間の友人がこの作品を激賞していたので名画座か何かでこの映画を見たという記憶がある。
丁度1970年の万博が開かれていた時期で、僕がフランス館でフランソワ・トリュフォの「大人は判ってくれない」を見て間もない頃だったと思う。
少年が海辺を走り続けストップモーションになる「大人は判ってくれない」のラストシーンに感動したのだが、この「シベールの日曜日」のラストシーンも相手が少女になっているが同様の衝撃を受けたのだった。
後年になってスタッフの名前を確認したら、両作品とも撮影はアンリ・ドカエだった。
不明の致すところだったが納得である。
戦争被害者でもある純真無垢なピエールがあてもなく街を歩く。
彼の心中を描写するかのようなカメラアングルが次から次へと続き見事だ。

物語は子供の心を持った青年ピエールと、大人の心を持った少女フランソワーズの交流を描いている。
ピエールのジェット戦闘機のコックピットからこの映画は始まるのだが、オープニングのハイキーな白黒映像のタイトルから息をのみ、ただ事ではない雰囲気が最初から漂う。
少女を撃ち殺したトラウマにより記憶喪失となり、恋人の看護師マドレーヌと田舎町で生活しているのだが、そのトラウマがピエールに重くのしかかっていることが物語の背景にある。
記憶を蘇らせるわけではないが、湖で荒れ果てた小屋を発見し戦争時の爆撃を感じる場面が生きている。
少年のようなピエールと、彼に父親や恋人を重ねていく少女なのだが、清廉潔白な二人というわけではない。
思春期の少女の小悪魔的な要素なのか、フランソワーズの言動はきわめて大人びていて嫌味すら感じる。
ピエールは純真だがカルロスの家からクリスマスツリーを盗み出すし、教会の風見鶏を取り外して持ってくるような無軌道な行為を行っている。
むしろ温かい心を見せるのはピエールの恋人マドレーヌの方だ。
カルロスに言わせればピエールがマドレーヌを必要としているよりも、マドレーヌがピエールを必要としているのだろうが、彼女のピエールへの愛は献身的である。
マドレーヌはピエールを疑い後をつけて湖までやって来るが、そこで繰り広げられているピエールと少女の戯れを見て、まるで子供同士だと微笑む。
マドレーヌの一瞬の微笑みが彼女を聖母マリアの如くに思わせた。

水墨画を見るような湖の景色は水面に映る二人の姿を含め美しい。
モノトーンの作品がその美しさを引き出している。
風見鶏をくれたら教えると言っていた本名がクリスマス・プレゼントとしてマッチ箱に入れられてピエールに贈られ、フランソワーズの名前が「シベール」だと分かる。
ラストで名前を聞かれ、シベールは名乗らず「名前なんてずっと前からない」と泣きじゃくる。
マドレーヌはベルナールに「あなたは賢いが自分の基準以外の者を異常者と見る」と責めていた。
他者から見ればおかしいと思われた二人の清い心は報われることがなく悲劇を生んだという切ない物語だ。
マドレーヌとカルロス、カルロスの妻とベルナール、ちょっと単純すぎる性格付けだったけど・・・。