おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

シコふんじゃった。

2019-07-12 10:07:27 | 映画
「シコふんじゃった。」 1991 日本


監督 周防正行
出演 本木雅弘 清水美砂 竹中直人
   水島かおり 田口浩正 宝井誠明
   梅本律子 松田勝 宮坂ひろし
   片岡五郎 六平直政 村上冬樹
   桜むつ子 柄本明

ストーリー
キリスト教系の教立大学4年の秋平は、父親のコネで就職も決まり、残りわずかな大学生活を思いっきりエンジョイしていた。
ある日、卒論指導教授の穴山に呼び出される秋平。
授業に一度も出席したことのなかった秋平は、穴山から卒業と引き換えに、彼が顧問をしている相撲部の試合に出るよう頼まれ、仕方なく引き受けてしまう。
ところがその相撲部の部員は8年生の青木ひとりだけ。
相撲を心から愛しているものの一度も試合に勝ったことがない。
やがて秋平と同じようにデブのクリスチャン田中と、秋平の弟・春雄が入部。
さらに春雄に思いを寄せるデブ女の正子がマネージャーとして参加。
このメンバーで団体戦に出場するが惨敗し、秋平は思わず「今度こそ勝ってやる!」とOB達に宣言。
こうして3カ月後のリーグ戦を目指すことになってしまう。
そんな秋平らを見守る名誉マネージャーの夏子。
それにイギリスからの留学生スマイリーも加わるが、人前でお尻をさらけ出すことを拒むスマイリーは、まわしの下にタイツをはく始末。
名門相撲部復活をかけて厳しい練習の毎日が続き、そして夏合宿を経てようやくリーグ戦出場。
秋平らは何とか勝ち進んでいくがやや苦戦気味。
スマイリーも彼らの奮闘する姿に圧倒され、ようやくタイツをはぎ取り試合に出場する・・・。


寸評
本質的にはコメディなのだが、それでいて結構シリアスな場面もあってホロリとさせられたりするのが心地よい。
ドタバタ部分は竹中直人が一手に引き受けているが、このキャラは誰にでもできるものではない。
相撲部存続のためのボランティアで入部してきたと言う秋平に、「ボランティアっつうのはな、なんの見返りもない奉仕活動のことを言うんだよ。どういう条件だしたかはしらねーけど、とにかく試合終わるまではお前、相撲部員なんだ。それまではオレのやり方に従ってもらうからな」と青木は言うのだが、言葉だけ聞いているといっぱしの先輩なのだが青木は試合で一度も勝ったことがない。
相撲を愛し相撲通の青木が見せる理論と実践のギャップが可笑しいのだが、竹中・青木の態度を笑えるかどうかでこの作品に対する評価が分かれるのではないか。
バカバカしいと感じるならこの作品を楽しめないだろうが、僕は楽しめた。

ジャパン・アズ・ナンバー・ワンと言われた時代で、日本企業は世界を席巻していて、外国不動産なども買いあさっていた時代の作品なので、スマイリーを寮費なし、食事代なしの条件で入部させた秋平が、「だけどさ、札ビラで横っ面張り倒したみたいで、思いっ切り日本人しちゃったよな」とつぶやくのはくすぐったい。

あとひとり負ければ三部リーグ敗退となる絶体絶命の場面。
副将・青木の出番であるが、案の定、緊張のピークからゲリピー。
しかし奇跡が起こり、青木が腰砕けで勝利すると、OBの熊田が「最後まで情けねえ野郎だあ」と笑うのだが、 青木に人一倍手厳しかった強面OBが一番喜んだというもので、僕は笑いながらも目頭が熱くなった。
OBと後輩の関係が分かるし、本当に心配し愛情を注いだ者に対してつい表してしまう人間の照れ隠しを感じた。
穴山教授が「明日の試合は恥をかくかもしれない」というと、熊田は「監督はお前だ」と優しく言う。
熊田はすっかりいいOBになっていた。

監督の穴山は入れ替え戦で秋平だけにアドバイスを与える。
「相手は強い。お前が平幕なら向こうは横綱だ。しかしだからこそ勝機がある。向こうは勝って当たり前だからな」
「たぶん突き放してくる。素人とやる時は離れて勝負を着けたいもんだ。喰い付け。我慢して我慢して喰い付け」
「何も言わずにと思ったけど、お前ならもしかしてと思ってな。忘れるな、前みつを掴んだら絶対に離すな」
「安心しろ、オレはここまでこれただけで十分満足している。あとはお前が、満足するかどうかだ」
最後の言葉はラストシーンに持っていくための伏線だが、「もうズルするのはやめた」という秋平の言葉と共にこの作品の最後を締めくくった。
本木雅弘がしこを踏み、入り口に清水美佐がたたずんでいる。
上からは陽光が燦々と降り注いで清水美佐を浮かび上がらせている美しいシーンで、彼女が相撲部に現れた女神であることが感じ取れ、その後の清水美佐の一言にニンマリとしてしまう。

おおたか静流の歌う「悲しくてやりきれない」と「林檎の木の下で」が妙にインパクトがある。
心地よいし、なぜか心に響いてくる。
これを挿入してくるセンスに僕は感心してしまった。