おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

ジャージー・ボーイズ

2019-07-20 10:14:32 | 映画
「ジャージー・ボーイズ」 2014年 アメリカ


監督 クリント・イーストウッド
出演 ジョン・ロイド・ヤング
   エリック・バーゲン
   マイケル・ロメンダ
   ヴィンセント・ピアッツァ
   クリストファー・ウォーケン
   マイク・ドイル
   レネー・マリーノ
   エリカ・ピッチニーニ

ストーリー
ベルヴィル。そこは犯罪が日常茶飯事というニュージャージーの最貧地区。
フランキー・ヴァリ(ジョン・ロイド・ヤング)、ボブ・ゴーディオ(エリック・バーゲン)、ニック・マッシ(マイケル・ロメンダ)、トミー・デヴィート(ビンセント・ピアッツァ)の4人はそこで生まれた。
1951年、イタリア系移民が多く住むこの街で、しがないチンピラ暮らしをしているバンドマンのトミー・デヴィートは、美しいファルセットを響かせる少年フランキー・カステルチオ(のちのヴァリ)を自分のバンドに迎え入れる。
フランキーの歌声は地元マフィアのボス、ジップ・デカルロ(クリストファー・ウォーケン)をも魅了し、彼はサポートを約束する。
最初は鳴かず飛ばずの彼らだったが、才能豊かなソングライター、ボブ・ゴーディオとの出会いによって大きな転機を迎える。
ヴォーカルのフランキー、ギターのトミー、ベースのニックに、キーボードと作曲を担当する最年少のボブが加わり、バンド名を“フォー・シーズンズ”と改め、希望のない町に生まれた4人は、『シェリー』、『恋はヤセがまん』、『恋のハリキリ・ボーイ』、『悲しき朝焼け』、『悲しきラグ・ドール』、『バイ・バイ・ベイビー』、『愛はまぼろし』、『君の瞳に恋してる』といった数々の名曲をヒットさせ、音楽界に不滅の伝説を打ち立てていく。
しかし、そのまばゆいばかりの栄光ゆえに、裏切りと挫折、別離、家族との軋轢といった不幸が彼らを襲う…。


寸評
イーストウッドは音楽に造詣が深い監督だが、80歳の半ばになって瑞々しいミュージカルと言ってもいいような作品を撮りあげたことに感嘆の声をあげずにはいられない。
物語進行もよどむことなく的確で間延び感がないし、何よりもドラマから音楽シーンへの移行がなめらかだ。
メンバーの一人が観客席のこちらに話しかけてくる演出も、目にしたことはあるのに新鮮にさえ感じてしまう。
金庫を盗もうとした車で宝石店に突っ込んでしまうコメディ調のようなシーンもありながら、一転したシリアスなシーンも当然見せ場として描き込んでいる。
家庭不和を初め、悲しい場面もあるが、それを次のシーンへとだらだら引っ張っていないことがテンポを生み出していたのだろうと思うと、舌を巻くのはイーストウッドの円熟した演出だ。

60年代は僕が洋楽に目覚めた時代で、フォー・シーズンズの「シェリー」は自然と耳に入ってきた。
フランキー・ヴァリの甲高い声が今でも耳に残っているし、ニック・マッシの低音も魅力的だった。
主演のジョン・ロイド・ヤングの歌声は、フランキー・ヴァリを知る人にとっても違和感のないものだったと思う。
この作品のすべてにおいて違和感を感じさせなかったことが、日本人の僕に心地よさをもたらした原因だろう。
ジョン・ロイド・ヤングを初めとするキャストが、フォー・シーズンズを感じさせたこと。
よくあるミュージカル映画のように、突然歌いだしたり、ありえない場所で歌い踊ることがなかったこと。
ストーリを彩る出来事が変化に富んでいたことなどで、音楽映画ファンでない人も楽しめる内容になっていた。
この映画自体が優れたライブショーのようになっていると言っても過言でない。

メンバーたちはいつも誰かが刑務所に入っていて、その間の出来事が面白おかしく描かれる。
ジャズメンだけでなくニュージャージーの不良少年たちだからジャージー・ボーイズでもある。
フランク・シナトラがマフィアと関係があったと噂されているが、かれらも同様にデカルロと言うマフィアの庇護を受けることになり、その経緯も青春映画そのものだ。
シナトラの名前も随所で使われ、フランク・シナトラとの対比が匂わされる。
しかし、ビーチ・ボーイズやビートルズの名前は出てこなかった。
フランキーは知り合った美人のメアリーと結婚するが、メアリの提言によりヴァリの綴りをイタリア系らしいという理由でVallyからValliに代える場面は、メアリーの性格を表すエピソードとして僕は面白く感じた。
子供も生まれ幸せな結婚生活だと思われたが、公演旅行などによる長期不在で軋轢が生じてくる。
その間の深刻な家庭崩壊を描かずに、それを感じさせる上手い演出が見て取れる。
末娘を可愛がっていることも描かれ、それがラストの「君の瞳に恋してる」の熱唱につながる。
フランキー・ヴァリはここで彼の特徴ともいえる高音に対応するために作り出す裏声としてのファルセットを使わないで歌い上げている。
ラブソングとしてヒットしたこの曲なら、本来はファルセットを駆使したはずである。
あえてファルセットを使わないで歌った姿と、君の瞳によせるフランキー・ヴァリの心痛が伝わってきた。
彼の思いとは別に、ラブソングとして絶大な拍手を受ける姿にほっとする。
それにしても「Can't Take My Eyes Off You」という原題を「君の瞳に恋してる」とは名訳だ。
ラストはものの見事に締めくくっている。 お見事!