おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

社葬

2019-07-25 11:31:10 | 映画
「社葬」 1989年 日本


監督 舛田利雄
出演 緒形拳 十朱幸代 江守徹
   佐藤浩市 高松英郎 加藤武 
   藤真利子 吉田日出子 根上淳
   井森美幸 小松方正 加藤和夫
   中丸忠雄 芦田伸介 小林昭二
   イッセー尾形 船越栄一郎 
   北村和夫 野際陽子 若山富三郎

ストーリー
日本有数の大新聞「太陽新聞」のトップでは、会長派と社長派の間で権力争いが起こっていた。
関東の地方紙だったのを全国紙にまで発展させたのは現社長・岡部憲介(高松英郎)の父の大介(故人)と現会長・太田垣一男(若山富三郎)だった。
その会長派は太田垣の娘婿で専務取締役の添島(中丸忠雄)ほか松崎(根上淳)、栗山(小林昭二)、寺内(小松方正)、原口(加藤和夫)の各取締役で、一方の社長派は岡部憲介ほか息子の恭介(佐藤浩市)、谷(加藤武)、徳永(江守徹)、深町(菅貫太郎)、三宅(有川正治)の各取締役だった。
取締役販売局長として腕をふるう鷲尾平吉(緒形拳)は恭介の部下だったが、太田垣にも恩があり、派閥を嫌って中立的立場をとっていた。
ある日、定例役員会で谷から緊急議題として太田垣の代表権と名誉会長職の解任が提出され、鷲尾が棄権したために一票差で可決されてしまい、太田垣はショックで倒れ、病院にかつぎ込まれた。
社長派は皆勝ち誇った様子だったが、その晩岡部憲介が料亭で芸者(井森美幸)相手に腹上死してしまう。
通夜の臨時役員会では葬儀委員長と社長人事をめぐって紛糾、翌日、太田垣が代表取締役名誉会長に復帰し、社葬の葬儀委員長に就任したが、病気療養中のため実行委員長は鷲尾が務めることになった。
社長選出は無記名投票の結果、岡部恭介4票、添島隆治4票、白票3票で物別れとなった。
鷲尾は以前に穂積で飲んでから女将の吉乃(十朱幸代)と男と女のつき合いをしていた。
しかし、不倫旅行から帰ると、突然北陸の販売店が添島の差し金で納金拒否の態度をとった。
徳永の命令で鷲尾が何とか事態を収拾したが、添島は株の失敗で大穴を空けて自殺未遂。
憲介の死で社長派は劣勢、太田垣は病室に徳永を呼んで密約を交わした。
鷲尾は徳永からの辞表提出要求を拒否し、穂積で恭介と会った・・・。


寸評
監督の舛田利雄という名前は随分前から馴染みがある。
というのは「錆びたナイフ」や「赤い波止場」などの石原裕次郎主演作を何本も撮っていたからだ。
その頃はキャストだけが興味の対象だったが、監督舛田利雄の名はその登場回数の多さから自然と記憶した。
大作と呼ばれる作品も多く監督し、興行的にも成功する娯楽作品を安定的に手掛けていたと思うが、作品内容的にはいわゆるB級作品と呼ばれるもので通俗作ばかりだったような印象を持つ。
その中ではこの「社葬」が飛びぬけて面白く、彼の作品歴の中から一本をあげろと言われれば本作だろう。
「新聞はインテリがつくり、ヤクザが売る」と最初に出るが、いい得て妙なところがある。
僕は新聞配達のアルバイトをしていた時期があったが、確かに配達所の仕事はヤクザなものだった。
僕は4:00~6:00、15:00~17:00の2時間ぐらいで150軒から200軒を配達すればよかったが、所員の人は2:00ぐらいから織り込み広告のチラシを新聞に挟む作業をやっていて、すべて人力だった。
配り終わって睡眠をとった午後からは、持ち込まれたチラシをセット組し翌朝の折込に備えるという生活だ。
オマケに購読者の獲得競争もあり、さすがに映画で描かれたような掃除機や洗濯機の景品はなかったが、いろんな景品や無料購読期間などのサービス合戦があり、まさに仁義なき戦いが行われていた。

映画は販売担当重役の緒形拳の剛腕ぶりを描くとともに、新聞社における人事抗争を描いていく。
新聞社はその性質上、株式を公開しておらず役員会が事実上の株主総会を兼ねており、その場で会長派と社長派の抗争が勃発する。
虚々実々の駆け引きがあり社長派が勝利するが、オバカ役員が多数登場して喜劇映画の様相を呈してくる。
弁当の食あたりのエピソードなどは、果たして必要だったのかどうか。
社葬の会場で、課長が略式礼服なのに平社員がモーニングを着てきて一悶着あるなど滑稽な場面も多い。

鷲尾は社葬の実行委員長を命じられるが、僕も会長の死去に伴う社葬の実行委員長を仰せつかったことがある。
葬儀社との打ち合わせも大変だったし、予算との折り合いもあり社長の了解も得なければならないし、席順や焼香順も決めねばならない。
おまけにお通夜の読経時間にお坊さんが間に合わず、無音で焼香をしてもらうというハプニングも起きた。
伊丹十三の「お葬式」という傑作でも葬儀における滑稽な出来事を活写していたのに対し、この作品は社葬に伴う人事抗争をメインにしているが、それをお堅いものにしていないのは女優陣の踏ん張りだ。
十朱幸代の存在は勿論だが、鷲尾の秘書を務める藤真利子と、鷲尾の奥さんである吉田日出子が面白い。
藤真利子は鷲尾に思いを寄せているが、鷲尾の浮気のアリバイ作りに協力させられる。
それでも忠実な部下であり、鷲尾とは実に気安い関係だ。
吉田日出子は夫の浮気を疑っているのか知らぬふりをしているのか、ネアカでとぼけた奥さんである。
この二人の存在は作品のエンタメ性を高めている。
「社葬」というタイトルなのだから、社葬場面はもう少しリアリティがあっても良かったと感じる。
大新聞社の社葬なのだから、政財界からの参列者も多かったはずで、言っていたようにその席順の割り当ては大変だったと思うが、どうもそのような人は登場しなくて、社内の人たちだけだった。
参列者は多いように描かれていたが、すごい葬儀と感じさせなかったのは減点だ。