「ゆるちょ・インサウスティ!」の「海の上の入道雲」

楽しいおしゃべりと、真実の追求をテーマに、楽しく歩いていきます。

「弱虫やくざと家出少女の物語」(18)

2010年10月19日 | 過去の物語
「俺とマツは、幼馴染みだったんでさ」

と、邦衛は、前を見て車を走らせながら、話します。

由美は、そんな邦衛の横顔を静かに見ています。

「奴んところも、父親がいなくて、なんとなく境遇が一緒でやしてね。それで、いつの間にか仲良くなってたんでさ」

と、邦衛は静かに話します。

「母親が一生懸命働いてくれて・・・それで、俺達を食わしてくれて大きくしてくれた・・・それも一緒でね。母親に頭があがらねえ」

と、少し苦笑しながら、話す邦衛です。

「奴とはなぜか、ウマが合いましてね。小学校、中学校、いつも放課後は、一緒につるんでやした。興味を持つものも一緒で・・・」

と、思い出を思い出すように話す邦衛です。

「あいつ、子供の頃から、黄色が、好きでして・・・なんでも、黄色いモノ集めてましたよ。黄色いキャップ、黄色いTシャツ、黄色いレインコート・・・」

と、少し笑顔になりながら、言う邦衛です。

「あー、なるほど、そうか。だから、黄色いシビックが、マツさんの車だって、わかったのね!」

と、由美は、黄色いシビック事件の謎を解いています。

「ま、あいつは、昔から、おバカでしたからね(笑)」

と、笑う邦衛です。

「高校は別々になりました。俺は、商業高校へ、奴は工業高校へ行きました。あいつの行った高校は、グレてる奴が多かったですよ。おもしれえ奴が多かった」

と、邦衛はその頃に戻りながら話します。

「俺が高校二年の時、好きな女ができた・・・好美っておんなでしてね・・・ちょっと気が強いおんなでしたけど・・・人気があるおんなでした・・・」

と、邦衛は遠い目をしながら、話します。

「同じ頃、マツも、そのおんなに眼をつけてましてね・・・はじめて、本気で、争いました。まあ、好美をとりあったんでさ・・・本気で・・・」

と、邦衛は、静かな目をしながら、話します。

「殴り合いも、しましたよ。おんな取るために、本気でね・・・。でも、そんなことしても、意味ねえって、わかって・・・」

と、邦衛は、遠い目をしながら、話します。

「そして、好美は、俺を選んでくれたんでさ・・・もう、天にも登るつもりでしたよ・・・はじめてキスした日のことは、今でも・・覚えていやすねえ・・・」

と、邦衛は少し甘い感じで、話します。

「しかし、マツとの友情は、それによって、壊れちまった・・・間の悪いことに、ちょうどその頃、奴のところと、うちの高校が、抗争をはじめちまったんでさ」

と、邦衛は、真面目な表情で、話します。

「俺は、ある抗争の場で、奴と出くわしました・・・俺の方は傷を負ってた・・・奴は黙って俺を見過ごしてくれた・・・それが奴のやり方でした・・・」

と、邦衛は、静かに話します。

「そんな時でした。好美のお腹の中に、子供ができちまったんでさ・・・俺、実はあいまいにしか覚えてなかったんですが・・・酒に酔ってあいつを勢いで抱いちまったようなことがあって・・・」

と、邦衛は苦そうな顔で言います。

「でも、俺はそんな俺がいやになって、しばらくの間、好美と会わなかったんです・・・というより、会えなかった・・・そんなことをした自分が許せなくて・・・」

と、邦衛は、苦そうな表情で、話します。

「俺は、観念して、好美に会って、「俺は高校やめておめえたちのために、働く」って、言ったんでさ。そしたら、好美の奴、なんて言ったと思います?」

と、邦衛は、前を向きながら、由美に質問します。

「好美さん、なんて、言ったの?」

と、由美は、聞いてあげます。

「「ごめんなさい。この子は、あなたとの子じゃない。別のひととの子よ。だから、あなたは、関係ないの」って、しれっと言われたんでさ」

と、邦衛は、苦い思い出を、思い出しながら、話します。

「俺は、どうしたらいいか、わからなくなりやして・・・ちょうど工業高校との抗争があるってんで、勢いで、その場に出て、あっちのヘッドを、半殺しにしちまいましてね・・・」

と、邦衛は、静かに言います。

「好美が、妊娠していることも、学校に発覚して、俺は退学・・・それから、俺は、まともな道を歩けなくなったんでさ・・・」

と、邦衛は、自分が今の境遇にいる理由を話したのでした。

「好美さんは、その後、どうなったの?」

と、由美が、邦衛に聞きます。

「好美の両親と学校とで、話し合いの結果、好美は、退学したそうです。それから、かわいい女の子を生んだそうで・・・20歳の時、結婚しやした」

と、邦衛は、知っている限りの話をします。

「相手は、うちの高校の同じクラスで、学級委員をやってた奴で・・・珍しく大学にも行って・・・親父が手広く商売やってたんで、大学卒業後は、そこの社長に納まりやしたよ」

と、邦衛は、淡々と話します。

「要は俺は、捨てられたんすよ。将来望みのある奴のほうに、好美は、乗り換えてたんだ・・・それを知らなかった、俺も馬鹿だった・・・若かったって、ことす」

と、邦衛は、複雑な笑顔を由美に見せながら、少し寂しげにします。

「いいおんなだったんすけどね・・・とても、そんなことのできるような、おんなじゃなかった・・・やさしくて、俺思いの・・・」

と、邦衛は、その頃の思いに浸ります。

「だから、俺は、ショックで・・・。まあ、そんなこともあってか、俺も道を踏み外しちまったんでさ」

と、邦衛は、少し笑うと、普通に前を向いて、運転します。

「そういうことだったの・・・」

と、由美は邦衛の秘密を聞いたようで、少しビックリしています。

「で、実は・・・」

と、邦衛は、自分のバックから、封筒と数枚の便箋を出します。

「もう、何年にも、なりやすが・・・その好美から、手紙が、来ましてね。近くに来たら、寄ってくれって、書いてあるんでさ」

と、邦衛は、封筒と便箋を由美に渡します。

「超久しぶりだったすから、なんだか、うれしくなっちまいまして・・・」

と、邦衛は、うれしそうにします。

由美は、封筒の後ろを見てびっくりします。

「これ、秋田から、じゃない・・・じゃあ、その好美さんに会うために、日本海側を走っているの?」

と、由美は驚いています。

「いや、行こうとか、そう思っているわけじゃねえんですよ。ただ・・・好美の暮らしている、秋田って街がどんなだか、見てみたいだけでさ・・・」

と、邦衛は素直に言います。

「そう・・・その気持ちなんだか、わかるわ・・・」

と、由美も素直に言います。

「今は、会わねえほうがいい。どうせ、あいつは、しあわせに暮らしているにちげえねえ。お金持ちの奥様になって、しあわせに・・・」

と、邦衛は、静かに言うと、遠い目をするのでした。


「っと、いけねえ、ガソリンが、切れちまいそうだ」

と、燃料計に、赤ランプが灯っています。

と、由美は、素早く、自分の財布を確認すると、

「ねえ、邦衛、お金、もう、あまりないわよ。補充しないと、東京へたどり着けないわ」

と、素直に言います。

「ガソリン入れたら、終わりっすね・・・組に、電話しやしょう」

と、邦衛は言うと、最寄りのガソリンスタンドに、入っていきます。


「・・・・」

ガソリンスタンドから、紅色金魚組に電話する邦衛ですが、珍しく誰もでません。

「どういうこった・・・こんな大事なときに、誰も出ないなんて・・・」

と、邦衛は情け無い顔をしますが、どうしようもありません。


邦衛は少しの間だけ、考えます。

そして、ある考えが、浮かびますが、首を振って、その考えを忘れようとします。

「そりゃあ、やばいだろ・・・やっぱりよう・・・」

と、邦衛はつぶやきながら、それでも、考えるのをやめないのでした。


「仕方ない。これ以上、逃げさせるわけにも、いかんしな」

と、警視庁地域特別対策課、課長の克実大悟は、札幌署の会議室で、大きな決断をしていました。

「これより、公開捜査にする。容疑は誘拐。マスコミに全ての情報を流すんだ!」

と、克実警部は、部下にそう指示すると、どっかと自分の椅子に座り込みます。

「ったく、手をわずらわせやがって!」

と、強い口調で、言いながら、傍らにあるコーヒーを一気に飲み込みます。

「うわっちっちち!」

と、その熱いコーヒーを吐き出す克実警部なのでした。


邦衛は、考え事をしながら、車に戻ると、ちょうどガソリンが入れ終わったところでした。

「はい、ガソリン代」

と、スタンドの人間に代金を手渡すと、運転席に戻ります。

と、そこへ、トイレに行っていた由美も戻ります。

「邦衛、大変!わたし、あなたに誘拐されたことになっているわ!」

と、由美が邦衛に、そう告げます。

「え?なんですって?」

と、邦衛も驚きます。

「スタンドの待合室のテレビで、誘拐事件としてやっているのを見たのよ!」

と、由美もあわてています。

「ど、どういうこってすか!お嬢ちゃんの家族が、被害届でも、出したすか?」

と、邦衛は、由美に、聞きます。

「おかしいわね・・・そんなはずないはずだけど・・・」

と、由美は言うと、

「何か別の何かが、わたしたちを、追っているんじゃない?誘拐って、その方便なんじゃないかしら!」

と、言い切ります。

「別の何かが・・・ですかい」

と、邦衛は首をかしげますが、よくわかりません。

「と、とにかく、ここは、出ましょう・・・」

と、車を発進させる邦衛です。


「ところで、お金は、入金してもらえるの?」

と、由美は、お財布係として、邦衛に聞きます。

「いや、それが、うちの事務所、誰も出なかったんで・・・」

と、少し青い顔で、返す邦衛です。

「やくざの組事務所に、誰もいないなんて、そんなこと、ありえるの?」

と、由美が聞くと、

「いや、ありえねえっすよ。普通は・・・」

と、邦衛が言います。

「もしかして、あなたのところも、黒鮫組に狙われているんじゃないの?」

と、由美は推理します。

「そうかもしれねえ・・・なんだか、いろいろ大変だって、前に電話したとき、言ってたすから・・・黒鮫と抗争でも、勃発したか!」

と、邦衛は、本気で心配しています。

「でも・・・それより、お金、どうにかしないと・・・」

と、由美は、邦衛に相談です。

「ああ・・・それだったら、ひとつだけ、手がありやす・・・」

と、邦衛は、残念そうに、言います。

「ひとつだけ・・・」

と、邦衛は言うと、言葉少なになるのでした。

そんな邦衛を由美は静かに見つめるのでした。


「あいつ・・・好美の家に、向かうつもりだろうなあ・・・」

と、黄色いシビックを運転するマツは、ポツリとつぶやきます。

「え、なんですかい?その好美ってのは」

と、トミーが、そんなマツのひとりごとを、追求します。

「いや、いいんだ。単なる古い知り合いだ・・・」

と、マツは言うと、まずそうに、煙草を吸って、その煙を、まずそうに、吐くのでした。


黄色いシビックは、日本海側に向かって走っていくのでした。


(つづく)

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