「その話は、他言無用のはずだったんだけどね」
と鼎はすました顔をして、多恵を見ながら、話します。
「姉さんから、手紙でも受け取ったかい?」
と、鼎は多恵の表情を見ながら話します。
「そう。さすが、鼎さん・・・」
と、多恵は、言うと、少し上気させた頬を更に赤く染めます。
「わたしが、子供の頃から、鼎さんを慕っているのを、知っていた姉は、もちろん、そんな話は、絶対にしませんでした」
と、多恵は、子供の頃を思い出すように話します。
「鼎さんが、私の家に来ると、いつも楽しかったことをおぼろげに覚えている。いつも何か、私たちが楽しくなるようなことを一杯してくれた」
と、多恵は、なつかしい話をしています。
「まあ、あの頃は、多恵ちゃん達は、ほんとに、かわいいお子ちゃまだったからねー。まあ、俺もあの頃は、お子ちゃまっただったし」
と、鼎も、遠い昔を思い出しています。
「私達、姉妹が隠密修行で、伊賀に行ってからも、年に一、二度、訪ねてくれて、それが、私達には、ほんとうに楽しい時間だった・・・」
と、多恵は、その頃のなつかしい時間を思い出しています。
「そうだな。俺も、二人に会うのは、気分転換みたいな感じだったから、お互いにとって有意義な時間だったんだな」
と、鼎は、素直に思ったことを口にしています。
「わたし、小さい時から、鼎さんを好きだった・・・それと同じ様に、姉も、あなたのことを慕っていた・・・」
と、多恵は、少し哀しそうな顔をしながら、話すと、
「その姉さんから、届いた手紙には、自分の正体を感づかれているかもしれない、ということが書いてあった。もし、それが本当なら、そしたら・・・」
と、多恵は、言葉を切ると、鼎を見つめます。
「わたしが、鼎さんのものと、なって、鼎さんのために、仕事をすることになるって、書いてあった・・・」
と、多恵は、鼎の目を見つめます。
「あなたが、なぜ、ずーっと独身で、女性っけもないのか、その秘密が、書いてあった」
と、多恵は、なぜか、涙をその目から、流しています。
「あなたは、生き神様を、しているって、姉は書いていた・・・」
と、多恵は、強い視線を鼎に送ります。
鼎は、少し苦笑しますが、黙って聞いています。
「伊賀組のくノ一をも、束ねるあなたは、能力のあるくノ一の隠れ夫となり、そのくノ一に一生を捧げる、と」
と、多恵は、そこまで、話すと、涙を流します。
「公方様のために、それこそ、自分の人生を犠牲にして、この日本の平和を考えているのが、鼎さん、あなた、だって、姉は、書いていた・・・」
と、多恵は、涙を流しながら、続けます。
「だから、あなたは、好きになる女性も作らず、日本の各地で、働くくの一の心の支えとなり続けている生き神様をやっている。そうでしょう?鼎さん」
と、多恵は、大好きなひとが、自分のためでなく、将軍家のために、身を捧げている事実に、涙を流します。
「まあ、ありていに言えば、そうだね」
と、鼎は、特に深刻ぶらずに、うなづきます。
そして、手酌で、酒を盃につぐと、くいっと、干します。
「彼女たちは、常に戦場で、体を張ってる。時には、敵に肌をまかせなくっちゃいけねえこともある」
と、鼎は、静かに話し始めます。
「そんなとき、彼女達の中に、ひとつだけでも、信頼できるものをつくっておいてやらねえと、よ。いくらなんだって、かわいそうじゃ、ねえか」
と、鼎は、まじめに、話します。
「彼女達は、俺の命令で、動いている。それこそ、死をも、厭わねえ。もう、それで、何十人も、死んでらあ。ひとりひとりの顔が、今でも、浮かんでくる」
と、手酌で、さらに酒をつぎ、くいっと、飲み干す鼎です。
「彼女たちは、それは、それは、むごい殺され方をするんだ。俺は、それを知っている。だが、彼女達のような仕事が、最も必要とされる時代になっちまったんだよ」
と、鼎の酒は、止まりません。
「だから、彼女達のために、俺は、生き神でなけりゃあ、いけねえんだ。彼女達が、仕事の合間にでも、俺を思い出してくれりゃあ、俺はそれだけで、本望なんだよ」
と、鼎は、少しだけ、目を赤くしながら、話しています。
「鼎さんは、それほどに、将軍家を・・・、この日本を・・・」
と、多恵は、改めて見直すように、鼎を見ます。
「俺はよ、悪が、許せねえんだよ。そのためには、この身なんて、厭わねえのよ」
と、鼎は、いつのまにか、ギラギラした目で、闇夜の一点を見つめていました。
ここは、江戸城小柄の間。将軍家がお忍びで、家来と談合したり、時に酒を酌み交わす10畳ほどの小さい間でした。
ここは、将軍家以外は、特別な人間しか、入れず、警護も特別で、どんな秘密も漏れることは、ありませんでした。
そこでは、八代将軍宗春と、酒井雅楽守が、珍しく酒を飲んでいました。
「なにやら、苦い酒じゃのう」
と、宗春は、静かに、言います。
「御意」
と、答える雅楽守も、神妙な表情です。
「今日、鼎は、お喜美の妹の生き神になるのか・・・。男としては、微妙な心持ちだろうな、鼎は・・・」
と、つぶやく、宗春です。
「御意」
と、雅楽守も、言葉少なです。
「お喜美は、鼎も気に入っていたし、ゆくゆくは、鼎も、今の役を解き、もっと高所から、この日本を守る役目につけたかったのだが・・・」
と、素直に話す宗春です。
「そうとなれば、お喜美も、隠密を引退させ、晴れて夫婦ということにも、できましたでしょうに」
と、雅楽守も、素直に答えています。
「鼎は、あれで、自分の悔しさを外に絶対に見せない男だからな。まあ、今までも、似たようなことは、何度もあったが・・・」
と、宗春は、いつもより、盃を干すのが、早めです。
「いくら、鼎の精神力が強いとは言え・・・少しむごすぎるかもしれませんなあ。あのお役目は・・・」
と、雅楽守も、鼎のことを、心配しています。
「だが、雅楽守。鼎以外に、あの役目をできる人間が、この江戸城にいるか?」
と、宗春の厳しい目が、雅楽守に、注がれます。
雅楽守も、一瞬、その目に目をあわせますが・・・、首をふりふり、視線を外すと、
「御意。鼎以外に、務まるものは、おりません」
と、深々とお辞儀をする雅楽守です。
「だから、な。奴の心根を思うと、不憫なんだよ・・・」
八代将軍宗春は、鼎のことを、思いながら、苦い酒を、飲み続けるのでした。
ここは、料亭旅籠「無音屋」の離れ、汐入の間。
暗闇の中、小さな行灯だけが、二人の裸身を照らしています。
「ああっ」
と、多恵は、鼎の愛撫に、全身を反応させながら、時折硬直させています。
鼎のやさしい愛撫は、時に多恵を、絶頂に誘い、多恵の息は、あがるばかりです。
「か、鼎さん・・・」
と、息も絶え絶えの多恵は、それでも、視線の先に、にこりと笑う鼎の姿をとらえます。
色白で、筋肉質の鼎の体には、脂肪ひとつついておらず、筋肉の筋一筋一筋まで、見えるほど、鍛えこまれています。
「伊賀では、こちらの技も徹底的に叩き込まれたはずだけど?多恵ちゃん?」
と、にこりとさわやかに、笑う鼎です。
「ああ、そこは・・・」
と、上気した多恵は、もう、何を考えていいのか、わからないくらい、感じすぎていました。
「多恵ちゃん、男は、俺がはじめて、かい?」
と、鼎が、やさしい表情で、聞くと、
「は。はい。女の師匠ばかりが、相手だったから、男は、鼎さんが、はじめて」
と、多恵は、気を失うほど、気持ちよくなりながら、なんとか、答えます。
「そうかい。じゃあ、体の力を抜いて・・・そう。そうだ、ゆっくりと、ほら・・・」
と、鼎は、多恵の足をゆっくりと開かせると、ゆっくりと多恵の中に入っていきます。
「ほら・・・どうだい、痛くないかい?」
と、ゆっくりと体を多恵の中にうずめます。
鼎が、やさしそうな表情で、多恵を見ると、多恵は、満足そうなしあわせそうな表情で、
「わたし、鼎さんと、ひとつに、なれたのね。やっと、ひとつに、なれたのね・・・」
と、素直な表情で、話します。
多恵の小さな頃からの夢が、今、実現したのです。
鼎は、多恵のその表情をみると、やさしく、その口を吸ってやります。
多恵も、しあわせそうな、表情で、鼎の唇を吸い返します。
そして、二人はゆっくりと動きながら、絶頂へと登りつめていきます。
「鼎さん、わたし、今日のことは、絶対に忘れない。わたしは、鼎さんのために、死ぬ気で、命令を果たすわ」
と、力強く動く鼎を、抱きしめながら、多恵は、いつのまにか、叫んでいました。
「わたしは、あなたのために、この日本を、絶対に守ってみせる。悪の手から、絶対!」
多恵は、あまりの気持ちよさに、気絶しそうになりながら、絶叫しています。
「わたしは、あなたのものだから!あなた、ひとりの、ものだから!」
そのとき、二人は、高い山の頂きを乗り越え、その先にある、絶頂に登りつめていました。
そんな、二人を、月だけが、見ていました。
(つづく)
と鼎はすました顔をして、多恵を見ながら、話します。
「姉さんから、手紙でも受け取ったかい?」
と、鼎は多恵の表情を見ながら話します。
「そう。さすが、鼎さん・・・」
と、多恵は、言うと、少し上気させた頬を更に赤く染めます。
「わたしが、子供の頃から、鼎さんを慕っているのを、知っていた姉は、もちろん、そんな話は、絶対にしませんでした」
と、多恵は、子供の頃を思い出すように話します。
「鼎さんが、私の家に来ると、いつも楽しかったことをおぼろげに覚えている。いつも何か、私たちが楽しくなるようなことを一杯してくれた」
と、多恵は、なつかしい話をしています。
「まあ、あの頃は、多恵ちゃん達は、ほんとに、かわいいお子ちゃまだったからねー。まあ、俺もあの頃は、お子ちゃまっただったし」
と、鼎も、遠い昔を思い出しています。
「私達、姉妹が隠密修行で、伊賀に行ってからも、年に一、二度、訪ねてくれて、それが、私達には、ほんとうに楽しい時間だった・・・」
と、多恵は、その頃のなつかしい時間を思い出しています。
「そうだな。俺も、二人に会うのは、気分転換みたいな感じだったから、お互いにとって有意義な時間だったんだな」
と、鼎は、素直に思ったことを口にしています。
「わたし、小さい時から、鼎さんを好きだった・・・それと同じ様に、姉も、あなたのことを慕っていた・・・」
と、多恵は、少し哀しそうな顔をしながら、話すと、
「その姉さんから、届いた手紙には、自分の正体を感づかれているかもしれない、ということが書いてあった。もし、それが本当なら、そしたら・・・」
と、多恵は、言葉を切ると、鼎を見つめます。
「わたしが、鼎さんのものと、なって、鼎さんのために、仕事をすることになるって、書いてあった・・・」
と、多恵は、鼎の目を見つめます。
「あなたが、なぜ、ずーっと独身で、女性っけもないのか、その秘密が、書いてあった」
と、多恵は、なぜか、涙をその目から、流しています。
「あなたは、生き神様を、しているって、姉は書いていた・・・」
と、多恵は、強い視線を鼎に送ります。
鼎は、少し苦笑しますが、黙って聞いています。
「伊賀組のくノ一をも、束ねるあなたは、能力のあるくノ一の隠れ夫となり、そのくノ一に一生を捧げる、と」
と、多恵は、そこまで、話すと、涙を流します。
「公方様のために、それこそ、自分の人生を犠牲にして、この日本の平和を考えているのが、鼎さん、あなた、だって、姉は、書いていた・・・」
と、多恵は、涙を流しながら、続けます。
「だから、あなたは、好きになる女性も作らず、日本の各地で、働くくの一の心の支えとなり続けている生き神様をやっている。そうでしょう?鼎さん」
と、多恵は、大好きなひとが、自分のためでなく、将軍家のために、身を捧げている事実に、涙を流します。
「まあ、ありていに言えば、そうだね」
と、鼎は、特に深刻ぶらずに、うなづきます。
そして、手酌で、酒を盃につぐと、くいっと、干します。
「彼女たちは、常に戦場で、体を張ってる。時には、敵に肌をまかせなくっちゃいけねえこともある」
と、鼎は、静かに話し始めます。
「そんなとき、彼女達の中に、ひとつだけでも、信頼できるものをつくっておいてやらねえと、よ。いくらなんだって、かわいそうじゃ、ねえか」
と、鼎は、まじめに、話します。
「彼女達は、俺の命令で、動いている。それこそ、死をも、厭わねえ。もう、それで、何十人も、死んでらあ。ひとりひとりの顔が、今でも、浮かんでくる」
と、手酌で、さらに酒をつぎ、くいっと、飲み干す鼎です。
「彼女たちは、それは、それは、むごい殺され方をするんだ。俺は、それを知っている。だが、彼女達のような仕事が、最も必要とされる時代になっちまったんだよ」
と、鼎の酒は、止まりません。
「だから、彼女達のために、俺は、生き神でなけりゃあ、いけねえんだ。彼女達が、仕事の合間にでも、俺を思い出してくれりゃあ、俺はそれだけで、本望なんだよ」
と、鼎は、少しだけ、目を赤くしながら、話しています。
「鼎さんは、それほどに、将軍家を・・・、この日本を・・・」
と、多恵は、改めて見直すように、鼎を見ます。
「俺はよ、悪が、許せねえんだよ。そのためには、この身なんて、厭わねえのよ」
と、鼎は、いつのまにか、ギラギラした目で、闇夜の一点を見つめていました。
ここは、江戸城小柄の間。将軍家がお忍びで、家来と談合したり、時に酒を酌み交わす10畳ほどの小さい間でした。
ここは、将軍家以外は、特別な人間しか、入れず、警護も特別で、どんな秘密も漏れることは、ありませんでした。
そこでは、八代将軍宗春と、酒井雅楽守が、珍しく酒を飲んでいました。
「なにやら、苦い酒じゃのう」
と、宗春は、静かに、言います。
「御意」
と、答える雅楽守も、神妙な表情です。
「今日、鼎は、お喜美の妹の生き神になるのか・・・。男としては、微妙な心持ちだろうな、鼎は・・・」
と、つぶやく、宗春です。
「御意」
と、雅楽守も、言葉少なです。
「お喜美は、鼎も気に入っていたし、ゆくゆくは、鼎も、今の役を解き、もっと高所から、この日本を守る役目につけたかったのだが・・・」
と、素直に話す宗春です。
「そうとなれば、お喜美も、隠密を引退させ、晴れて夫婦ということにも、できましたでしょうに」
と、雅楽守も、素直に答えています。
「鼎は、あれで、自分の悔しさを外に絶対に見せない男だからな。まあ、今までも、似たようなことは、何度もあったが・・・」
と、宗春は、いつもより、盃を干すのが、早めです。
「いくら、鼎の精神力が強いとは言え・・・少しむごすぎるかもしれませんなあ。あのお役目は・・・」
と、雅楽守も、鼎のことを、心配しています。
「だが、雅楽守。鼎以外に、あの役目をできる人間が、この江戸城にいるか?」
と、宗春の厳しい目が、雅楽守に、注がれます。
雅楽守も、一瞬、その目に目をあわせますが・・・、首をふりふり、視線を外すと、
「御意。鼎以外に、務まるものは、おりません」
と、深々とお辞儀をする雅楽守です。
「だから、な。奴の心根を思うと、不憫なんだよ・・・」
八代将軍宗春は、鼎のことを、思いながら、苦い酒を、飲み続けるのでした。
ここは、料亭旅籠「無音屋」の離れ、汐入の間。
暗闇の中、小さな行灯だけが、二人の裸身を照らしています。
「ああっ」
と、多恵は、鼎の愛撫に、全身を反応させながら、時折硬直させています。
鼎のやさしい愛撫は、時に多恵を、絶頂に誘い、多恵の息は、あがるばかりです。
「か、鼎さん・・・」
と、息も絶え絶えの多恵は、それでも、視線の先に、にこりと笑う鼎の姿をとらえます。
色白で、筋肉質の鼎の体には、脂肪ひとつついておらず、筋肉の筋一筋一筋まで、見えるほど、鍛えこまれています。
「伊賀では、こちらの技も徹底的に叩き込まれたはずだけど?多恵ちゃん?」
と、にこりとさわやかに、笑う鼎です。
「ああ、そこは・・・」
と、上気した多恵は、もう、何を考えていいのか、わからないくらい、感じすぎていました。
「多恵ちゃん、男は、俺がはじめて、かい?」
と、鼎が、やさしい表情で、聞くと、
「は。はい。女の師匠ばかりが、相手だったから、男は、鼎さんが、はじめて」
と、多恵は、気を失うほど、気持ちよくなりながら、なんとか、答えます。
「そうかい。じゃあ、体の力を抜いて・・・そう。そうだ、ゆっくりと、ほら・・・」
と、鼎は、多恵の足をゆっくりと開かせると、ゆっくりと多恵の中に入っていきます。
「ほら・・・どうだい、痛くないかい?」
と、ゆっくりと体を多恵の中にうずめます。
鼎が、やさしそうな表情で、多恵を見ると、多恵は、満足そうなしあわせそうな表情で、
「わたし、鼎さんと、ひとつに、なれたのね。やっと、ひとつに、なれたのね・・・」
と、素直な表情で、話します。
多恵の小さな頃からの夢が、今、実現したのです。
鼎は、多恵のその表情をみると、やさしく、その口を吸ってやります。
多恵も、しあわせそうな、表情で、鼎の唇を吸い返します。
そして、二人はゆっくりと動きながら、絶頂へと登りつめていきます。
「鼎さん、わたし、今日のことは、絶対に忘れない。わたしは、鼎さんのために、死ぬ気で、命令を果たすわ」
と、力強く動く鼎を、抱きしめながら、多恵は、いつのまにか、叫んでいました。
「わたしは、あなたのために、この日本を、絶対に守ってみせる。悪の手から、絶対!」
多恵は、あまりの気持ちよさに、気絶しそうになりながら、絶叫しています。
「わたしは、あなたのものだから!あなた、ひとりの、ものだから!」
そのとき、二人は、高い山の頂きを乗り越え、その先にある、絶頂に登りつめていました。
そんな、二人を、月だけが、見ていました。
(つづく)