その時、僕は土スタ大河ドラマスペシャルを皆で楽しむ為に、大河ドラマ好き3人娘、マキちゃん(30)、アミちゃん(29)、
そして、アイリちゃん(28)の3人とアイリちゃんのマンションでテレビを見ながら、シャンパンその他を楽しんでいました。
「まあ、だいたい毎年、土スタではこの時期に大河ドラマ・テコ入れ番組を放送するんだよね」
「今年は主人公吉田松陰の妹、文役の井上真央ちゃんと高杉晋作役の高良健吾くんか・・・いいねえ」
と、僕。
「昨年もアイリのこのマンションで皆で見てたわよね・・・ま、いっつもこの時期・・・特に戦国大河以外は」
「視聴率が伸び悩むのよね・・・」
と、皆の姉役・・・ちょっと宝塚のオトコ役入ってるマキちゃんが言う。
「でも、今年はその中でも視聴率一桁・・・かなり厳しい数字ですね」
と、アイリちゃんが言う。アイリちゃんは末娘らしく、しっかり者だ。
「まあ、幕末大河ドラマはどうしてもわかり難いから視聴率があがらないのはお約束って事かしら」
「それにある意味、ここのところ、主人公が久坂玄瑞だから・・・この人正直、人気あんまり無いからね・・・」
「いくら売り出し中の東出昌大さんを持ってきても・・・ちょっと弱いかしら」
と、大河ドラマにはうるさい、アミちゃんが言う。
「わたし、東出昌大さんの芝居が・・・なんか考えこむんだけど、それはわかるんだけど、どういう思いに辿り着いているのか」
「よくわからないのよね・・・さっきだって、せっかく妻であるお文さんが戦場まで来て、激励してくれているのに」
「明確な反応を返していないっていうか・・・このオトコ、いっつも煮え切らないでしょう?」
と、マキちゃん。
「マキは煮え切らないオトコが一番大嫌いだもんね」
と、アミちゃん。
「まあ、演出なのかどうかなのか・・・自分の意見を明確に持っていない人間は大嫌いなの」
「まあ、彼は若いって言う設定だとは思うけれど、この時期、彼は思想的に長州及び京都の公家達を焚き付けて」
「破約攘夷の方へ持っていってるでしょう。つまり、指導的立場にあるのなら、明確なビジョンがなければ」
「人々をリードできないはずなのよ。なんか軍師官兵衛とは全く逆のあり方で・・・勝つビションも無く」
「ただ、威勢よく攘夷論をかざしてるだけなのよね。だから、わたしは高杉晋作派だわ」
と、マキちゃん。
「わたしは、まず、前回の「花燃ゆ」で、フランスの軍船に長州が下関砲台から攘夷決行の先駆けとして、砲弾を浴びせたシーンを」
「映像で見られた事は大河ドラマファンとしてすごい嬉しかった。それはここに言っておきたいの」
「だって今までこのシーンって・・・回想シーンで処理されるのが普通だったもの」
「そこに久坂玄瑞がいて、他の松下村塾の仲間がいて・・・砲撃のシーンが表現された事はとても評価すべきだと思った」
「ただ、わたしは久坂玄瑞的なやり方があったからこそ、高杉晋作の行動にも意味が出来たんだと思ってるの」
「確かに劇中の高杉晋作が言うように勝てないのは確かだし、その後、四カ国艦隊に逆襲されて砲台は落ちるけれど」
「わたしはそれでも撃ちかけた久坂玄瑞の魂は買えると思う」
と、アミちゃん。
「これっていじめる側といじめられる側の心理にあるのよ。いじめっこって、いじめて反抗してくる子にはいじめを続けないの」
「いじめてもいじめても反抗してきて、こちらに手傷を追わせるような相手は、やがて自分と同等と認め、やがていじめは止まる」
「逆にいじめればいじめる程、泣き叫び、謝り続ける人間からの搾取は止まらないものだもの」
「だから、堂々と反抗してきた長州は・・・欧米側は「あいつらやりよるな。同じ人間だったか」」
「「じゃ、今後の為にも、実力を見せてやれ」と言う思考に進むのは当然よね」
と、アミちゃん。
「それじゃあ、それまでは、日本人は同じ人間と思われていなかったって事?」
と、アイリちゃん。
「そういう事よ。欧米人は自分は神だと考えているから、日本人を同じ文化人だとはどうしても思わないわ」
「それは今回のイルカ漁の件でも同じじゃない?奴らはバーバリアンのくせに自分たちの文化を勝手に押し付け」
「他の文化をサル視することで、自分アゲを図っているに過ぎないわ。彼らはだって日本人を未だにイエローモンキーって」
「思っているモノ・・・」
と、アミちゃん。
「じゃあ、それってモラルハラスメントって言う事?高橋ジョージ的な?」
と、マキちゃん。
「自分が育ってきた文化を相手に押し付け、相手を否定する・・・モラルハラスメントそのものじゃない?」
「この日本では既にそういう行為をする個人を、理解力の無いバーバリアンとして認めているんじゃなくて?」
「そう。個人の問題なのよ。個人間の問題で、どういう行為をしたら、アウトか・・・文化人でない単なるバーバリアンか」
「すでに日本社会はそれについて答えを出しているでしょう?文化は毎秒進んでいくの。幕末頃と同じ価値観を持っている」
「人間なんて、ここ日本では人間として価値を持たないわ」
と、アミちゃん。
「さすがアミちゃん・・・人権問題に詳しい女性としては、そういう結論になるんだろうね」
と、僕。
「人権問題はすでに個人間の問題に移っているわ。それを理解しなければ、世界ではやっていけないんじゃないかしら?」
「他国の人間を味方につける事も出来ないわ。もっともその国全部がバーバリアンなら、バーバリアンの味方をするでしょうけどね」
と、アミちゃん。
「話を変えましょう。アイリは、前回の放送で気になった事はある?」
と、アミちゃん。
「えーと、わたしが気になったのは、高杉晋作さんが、「敗けるのわかってるから、出家」みたいな意識を持っていた事かな」
「それって今の20代前半世代以下の人間の考え方に酷似しているような気がしたの」
と、アイリちゃん。
「それってどういう事。具体的には?」
と、マキちゃん。
「つまり、高杉晋作さんは敗ける事がわかっていたから、砲撃には加わらなかったんでしょう?」
「つまり、「負けるのわかっているから、やらないんだ」って言う言い訳する様が・・・今の若い子にそっくりなのよね」
と、アイリちゃん。
「よく若い子に聞くと、「車なんてローンで買わなくても公共交通機関があるじゃないですか?それで充分ですよ」」
「って言われるの。それって「面倒には関わりたくない」って言う意識が露骨に出ているっていうか・・・」
「そういう事を言う人間って、「自分は頭がいいから、面倒には関わらなくても絶対にしあわせになれる」って」
「考えている人だと思うんですよ。でもそういう人って、自分たちより先輩が皆、そういう意識を持っていたから」
「結果、何の経験もせず、その為に一切の成長も出来ず、能力も身につかず・・・結果、つまらないサラリーマン生活に」
「日々疲れ・・・ストレスにより殺されていく、平凡な不幸な生活に落ちていくと言う、平凡なふしあせスパイラル」
「になることを予見していない・・・そういう事なんですよね」
と、アイリちゃんは丁寧に言葉にする。
「それってどう思います?マキはどう思う?」
と、アイリちゃん。
「若い子は・・・今、目の前にある現実を理解しないのじゃない?」
「年を取ったサラリーマンが決してしあわせでない情景を見せているのに、あえて見ないというか・・・」
「自分は決してああならないって言う、根拠の無い自信しかないのよ、きっと・・・」
と、マキちゃん。
「で、話を大河ドラマに戻すけど・・・高杉晋作は・・・負けた後の事を考えていたんじゃないかしら」
「高杉晋作は・・・実際がどうあれ、この大河ドラマでは、久坂玄瑞より、思考が一歩深い人物として設定されているでしょう?」
「彼は負ける事がわかっていたから、そうなった時の対処方法を絶対に考えていたはずなのよ」
「だって、長州の尊王攘夷派って、言わば長州のエースでしょう?」
「そのエースが負けたら・・・絶対に自分にお鉢が回ってくるってわかってたんじゃない?」
と、マキちゃん。
「え?っていうと、高杉晋作が出家して東行になったのも、四カ国艦隊との戦いに参加していなかったと言う」
「言わば、アリバイを作ると同時に、身を清めていた・・・そういう事?高杉晋作は」
と、アイリちゃん。
「なるほど・・・それは充分あり得るわね。彼は長州が負ける事を知っていたから、その後の」
「戦後処理に自分が必要とされる事も知っていた・・・戦後処理の中で、彼のことを魔王と言った、アーネスト・サトウとの出会いが」
「見ものね・・・もっとも描かれるかどうかわからないけど・・・異人の前で、古事記を語った「魔王」高杉晋作の姿は」
「ぜひ見たいけれどね・・・」
と、アミちゃん。
「話を戻します。「やらない理由ばかり考えて、やらない事に逃げ込む人間こそ、ふしあわせスパイラルに陥る」」
「・・・これってゆるちょさんの提唱する「「逃げ込み者」はふしあわせスパイラルに落ち込む」って言う話」
「そのものじゃないですか?」
と、アイリちゃん。
「そうだね。僕は今まで言い訳に逃げ込むばかりで口だけの「逃げ込み者」をたくさん見てきたし」
「そういう人間は必ず「ふしあわせスパイラル」に落ち込んでいったよ。結局、言い訳を言うだけの人間って」
「行動を拒否し、成長を拒否していると言う人間になるからね。成長しなければ、所属ステージもそのままで・・・」
「結果、つまらない毎日を過ごすだけの一生・・・と言う結果を引き出すからね。そういう人生はつまらないだろうね」
と、僕。
「それに比べれば・・・行動した長州のエース達は、やるべき事はやったと言う事になるのかしら?」
と、マキちゃん。
「この後、四カ国艦隊にコテンパンにやられるんだけどね。でも、やらないよりはマシだったってわたしは思うわ」
「そこに交渉上手な高杉晋作と言うコマがあったから・・・」
と、アミちゃん。
「あ、でも・・・」
と、アミちゃん。
「どうしたの?」
と、僕。
「井上聞多は、伊藤と一緒にもう長州ファイブ化してたから・・・魔王「高杉晋作」の出番はないかも」
「井上聞多が開国派と見られて攘夷派に襲われて、全身切り刻まれるエピはないですから・・・」
と、アミちゃん。
「そっか。それって高杉晋作の戦後処理の動きに始まるエピだもんね」
「そっかー。そのあたり、僕も見たかったけどね」
と、僕。
「でも、この事で、長州が四カ国艦隊に敗北した事は、どういう意味があるとお考えですか?」
と、アイリちゃん。
「二者が戦うと言う事には意味がある。この「和を以て貴しとなす」の国、日本では戦う事はダメみたいな風潮があるけど」
「それこそダメで・・・喧嘩だってやり方があるわけ。それを知らないママ達がそんな事を言うと怒りそうだけど」
「どうも今の学校界はいろいろな知恵を無くしてしまったらしい。教育機関としてまともじゃないから」
「将来作りなおすか・・・自前の教育機関を整備する以外ないだろうね」
と、僕。
「二者が戦う事にどういう意味があるんですか?」
と、アミちゃん。
「二者が戦うと言う事は、勝ち、負けを決めると言う事だ。そこに秩序を作ると言う事だ。もちろん、そこに秩序を作ると言う事は」
「世界平和を作る事と一緒だ。だが、現実には、秩序化出来ていない、ダメ・コミュニティがあると言う事だ。ダメ・コミュニティは秩序化」
「出来ていないばかりか他のコミュニティの秩序化も破壊しようとしている。それはそのコミュニティのメンバーの遺伝子作りに失敗したと言う事だ」
「まあ、その話はいい。二者が戦えば、勝ち、負けと言う、ちゃんとした結果が出ると言う事が大事だ」
「結果が出たら、勝った人間は、さらなる飛躍を目指して「勝って兜の緒を締めよ」だし、負けた人間はとりあえず」
「その相手に勝つ為の方策を練り、相手に勝てる為の自身を作ると言う・・・「成長」物語を歩く必要があると言う話になる」
「つまり、この世で最も大事なのは、「成長」だと言う事になり、「成長」の無いコミュニティ、「成長」の無い国」
「「成長」の無い個人は不幸になる・・・そういう話になるんだ」
と、僕。
「だから、戦いを拒否する人間と言うのは・・・結局、成長出来ないと言う事になるんだよ」
「誰かに負けるのが怖い。否定されるのが怖い。・・・そんな事言ってたら、一生成長出来ないし、一生不幸のまま」
「死んでいく事になる・・・それがこのスパルタンな国、日本の正体なんだ」
と、僕。
「なるほど・・・そういう意味で言えば、一歩踏み出した長州は、成長物語に踏み出したも同じ・・・そう捉えていいんですね?」
と、アイリちゃん。
「僕はそう思う。マキちゃんはどう思う?」
と、僕。
「そういう話なら、納得出来ますね。長州は成長する・・・でも、そこに人材がいたから」
「・・・成長出来たって言う側面もありませんか?」
と、マキちゃん。
「それはそうよね。もちろん、高杉晋作以外にも、いろいろな人材がいて・・・コミュニティのチカラかしら、それって」
「長州と言うコミュニティのチカラ・・・その原動力って何かしら?」
と、アミちゃん。
「日本を中国のような植民地にしてたまるか・・・たとえ自分が倒れても、日本だけは守る・・・その強い意識?」
と、アイリちゃん。
「オールジャパンの思想ってところかしら。なんだか、現代日本は、国立競技場ひとつ作るのにも、オールジャパンになれてないところが」
「あるように思えるけど」
と、アミちゃん。
「でも、結局、それって日本の最高正義が「和を以て貴しとなす」だからじゃないですか?」
「皆が納得して、次の日本を作り出す・・・それが日本人の生きる道ですから・・・」
と、アイリちゃん。
「いいね。それ、いい結論じゃん・・・その気持ちを持って、今後も大河ドラマを楽しんでいこう」
と、僕が結論を言うと、皆が納得してくれた。
(おしまい)