「ゆるちょ・インサウスティ!」の「海の上の入道雲」

楽しいおしゃべりと、真実の追求をテーマに、楽しく歩いていきます。

「月夜野純愛物語」(ラブ・クリスマス2)(20)

2013年12月17日 | 今の物語
ミウへのサトルの電話が無くなって・・・長い時間が経っていた。


それはある天気のいい日曜日の午前中だった。10時少し前・・・ミウは自宅アパートで、なんとなくボーっとしていた。


ぷるるるる・・・と、ミウの携帯電話が鳴る。


相手表示に「鈴木サトル」の文字が表示された。


ミウは急いで携帯に出る。


「もしもし、サトルくんなの?」


と、ミウが言葉にすると、


「ええ、ミウさん、サトルです・・・」


という言葉が返ってくる。


「よかった・・・心配したのよ、サトルくん・・・」


と、ミウは心底ホッとしたように言葉を出す。


「自殺でもしたかと思いました?」


と、サトルは言葉にする。


「ええ・・・正直思ったわ・・・あまりの忙しさに、サトルくん、自殺しちゃったんじゃないかって・・・」


と、ミウは言葉にする。


「電話が無くなる、直前の頃のサトルくん・・・少しノイローゼ気味な感じがしていたから・・・」


と、ミウは言葉にする。


「そう感じてましたか・・・ご心配をおかけしましたね・・・でも、僕は自殺はしませんよ・・・ただ・・・それに近いことになってるかな・・・」


と、サトルは言葉にした。


「サトルくん・・・自殺に近い状況って、どういうことなの?」

と、ミウは戦慄しながら、言葉にする。

「有り体に言えば・・・バックレたんです。仕事を・・・」

と、サトルは言葉にする。

「気がついたら、仲間に「父が危篤だ」って嘘言って、名古屋から自分の独身寮に逃げ帰ってたんです」

と、サトルは言葉にする。

「サトルくん・・・」

と、ミウは言葉に出来ない。

「僕の仲間は僕が早くに母親を亡くしているのを知っていたので・・・父の危篤話は、僕が現場を離れるのに十分な言い訳になりました」

と、サトルは言葉にする。

「そして、すぐに課長に電話して・・・嘘をついた事を謝り・・・精神的にボロボロになっている事を話したら、次の日に、産業医に診察を受けるよう指示されて・・・」

と、サトルは言葉にする。

「産業医の見立てでは「鬱病」・・・数ヶ月以上の加療が必要・・・僕はそれ以来、近所の心療内科に通い・・・休職している・・・そういう状況です」

と、サトルは自分の状況を客観的にミウに報告した。

「システムエンジニアの現場を離れて・・・かれこれ、一ヶ月になりますが・・・やっと最近精神的にも安定してきて・・・やっと電話が出来るようになったんです」

と、サトルは過去、けっこうひどい状態だったこともミウに明かした。

「そうだったの・・・そんなことがあったの・・・」

と、ミウは相槌を打つので瀬一杯だった。


「ミウさんの住んでる場所の空って、今、何色ですか?」

と、サトルが突然聞いてきた・・・なんとなく、いつもより、のんびりした感じで、言葉が出てくる。

「僕、久しぶりに空を見たんです・・・僕の独身寮の部屋って・・・南向きで・・・窓から江ノ島が見えるんです。全景が・・・」

と、サトルは少しのんびりとした雰囲気でしゃべっている。



「その江ノ島を見ながら、いつもがんばってきた僕がいた・・・でも、今日は空が見えたんです・・・・湘南の空が・・・」

と、サトルはのんびりとしゃべっている。

「名古屋の空に比べて・・・随分と明るくて青いことに気がついて・・・そんな事にも気づけない程、僕は切羽詰まった生き方をしてきたんだなあって今気づきましたよ」

と、サトルは少し笑っているよう。

「ミウさんの住んでいる街は・・・月がきれいなんでしたよね?」

と、サトルは言う。

「うん、わたしの住んでいる街は「月夜野」って言う街なの・・・」

と、ミウは明かしていなかった、自分の住む街の名を明かした。

「へー、ロマンチックな地名ですね。「月夜野」・・・」

と、サトルは言う。

「そう思う?実際、月は綺麗に見える場所よ・・・少し離れたところに丘があって・・・そこから見える月が一番綺麗かなあ・・・」

と、ミウは言う。

「僕の住んでいる街は藤沢です。最寄り駅は藤沢本町・・・小田急線で藤沢から北へ一個の駅で・・・海からの、気持ちのいい風が吹き抜けていく街ですねー」

と、タケルは言う。

「仕事から一ヶ月も離れたことが無かったんで・・・なんだか変な感じがしますよ。というか、いろいろな束縛から少しずつ自由になっていく感じです」

と、タケルは言う。

「現場から逃げ出した直後は、罪悪感で一杯で・・・皆大変でもシステムエンジニアの仕事をやってるのに、僕だけバックレて・・・何やってんだって自分を責めて」

と、タケルは言う。

「サトルくん、それは仕方ないわよ・・・あの仕事量は尋常じゃなかったもの・・・私の友達も言ってたけど、普通逃げ出すわ・・・」

と、ミウが言う。

「そうですね・・・今の僕は自然にそう思えるようになりましたけど・・・一ヶ月くらい前の僕は自分を責めて責めて・・・結果、誰にも会えなくなりました」

と、サトルが言う。

「周囲すべてが僕を嫌っているように非難しているように感じて・・・怖くて怖くて独身寮のベッドの上で体育座りして、ブルブル震えていました」

と、サトルは言う。

「電話も怖くて出れない・・・外になんか行けるわけがない・・・他人はすべて僕を非難している・・・そう感じてしまって・・・典型的な「鬱病」の症状でした」

と、サトルは言う。

「それでも・・・時が経つに連れて、少しずつ呪縛が解けて・・・僕は悪いことをしたんじゃない・・・まともな人間だったから、ああいう反応になったんだって思えて」

と、サトルは言う。

「少しずつ、自分も変わってこれて・・・やっと人とまともに話せるようになった・・・そういうことなんです・・・」

と、サトルは言う。

「空をのんびりとした気持ちで見れて・・・風を感じられて・・・太陽の光の素晴らしさに感動出来るようにまで、回復しました・・・やっとです」

と、サトルは言う。

「おかえり・・・サトルくん・・・サトルくんは、システムエンジニア病だったのかな?」

と、ミウが言葉にする。

「そうですね。多分そうです・・・僕は毒されていた・・・正常な感覚では、無かったですよ・・・今考えてみれば・・・」

と、サトルはため息をつきながら、そんな言葉にする。

「僕・・・最後の方は、「なんでこんな思いまでして、こんなに日々働かなくてはいけないんだろう?」ってずーっと思っていました」

と、サトルは言う。

「でも、周囲は皆がんばってる人間ばっかりだったんです。そんな場所で、「俺だけやーめた」ってどうしても言えなかった・・・」

と、サトルは言う。

「それは駄目な人間のすることだ・・・僕の「学級委員脳」の頭がずーっとそう主張していて・・・でも、ある時、もうひとりの僕が言ったんです」」

と、サトルは言う。

「「お前、その場所にいたら、殺されるぞ・・・それでもいいのか?お前はその会社にいる限り、しわせになれないぞ・・・それでもいいのか?」って・・・」

と、サトルは言う。

「僕はその言葉を聞いた瞬間に、現場から離れる決心をしたんです。勇気のいる事だったけど、とにかく僕は自分が大事だった・・・緊急避難的行動です。今考えれば」

と、サトルは言う。

「結果オーライだったと僕は思っています。今は・・・ああするしか他はなかったし・・・ああして、良かったと思っていますねー」

と、サトルは言う。


「まあ、でも、当分休職ですから・・・ちょっと新たに自分のこれからの人生を考え直したいと思います。もう、あそこには帰りたくないんで・・・」

と、サトルは言葉にする。

「サトルくん、脱サラ志望だったのよね?」

と、ミウが言葉にする。

「そうです。だから、改めて脱サラの道を考えていこうって、そう考えて・・・ミウさんも手伝ってください・・・」

と、サトルは言葉にする。

「わたしでよければ喜んで・・・あなたがいない間ずっと心配で、ずっと寂しかったんだから・・・」

と、ミウは言葉にする。

「サトルくんの大切さをしみじみと味わったから・・・」

と、ミウも言葉にしている。

「そうですか・・・それは僕的にも、よかったことのように思えます・・・」

と、サトルも言葉にしている。


「でも、ミウさん・・・今の僕にも、出来ることはあるんですよ!」

と、サトルは言う。

「え、なあに?」

と、ミウは言う。

「もし、ミウさんが・・・ミウさんの友達の方でもいいですけど・・・何か困ることがあったら、僕に言ってください。どうにでも、できますから」

と、サトルは自慢気に言う。

「え、どういうこと?」

と、ミウは不審げに聞く。

「僕のいとこがちょっとオールマイティーで・・・政府の仕事すら、やってるみたいで・・・「何かあったら俺に言え」って言ってくれてるんです」

と、サトルは言う。

「へー、そんなすごい、いとこがいるんだ。サトルくん」

と、ミウは感心する。

「ま、僕がすごいんじゃなくて、いとこがすごいんですけどね」

と、サトルは笑った。

「うん。じゃあ、何か緊急に頼みたいことがあったら、言うね、その時に」

と、ミウが言う。

「はい。僕もミウさんの為に、常にチカラになりたいと思っているんで、いつでも、言ってください。それ、すごく嬉しいと思うし、僕自身」

と、サトルは言った。


「でも、「月夜野」の街かあ・・・いつかその場所へ行って・・・ミウさんと手をつないで、丘の上から月を見てみたいですね・・・」

と、サトルが何の気無しに言う。

「そ、それは・・・そ、そうね・・・それが出来たら、いいわね」

と、ミウは言葉にする。

「ミウさん、僕を助けてくださいね・・・ミウさんと会話を交わしながら、僕は自分を治していきたいと思っているので・・・」

と、サトルは言葉にした。

「そうね・・・休職してるってことは、電話出来る時間がたくさん増えたことになるし・・・今はゆっくり休んで一緒に治していこう・・・今のサトルくんを・・・」

と、ミウも笑顔になった。

「もう二度とあんな生き地獄に戻るつもりは、僕にはありません・・・」

と、サトルは素直な自分の気持ちを吐露するのだった。

「もう二度と・・・」

と、サトルはもう一度、強い気持ちで言い直した。


つづく


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