蟋蟀庵便り

山野草、旅、昆虫、日常のつれづれなどに関するミニエッセイ。

初めての入院・手術(その1)

2013年03月02日 | つれづれに

 「……さ~ん、分かりますか?」遠くから聞こえる声に闇の世界から覚醒し、真っ先に尋ねたのは「いま、何時ですか?」
 11時半だった。手術室に運ばれたのが8時半。テレビや映画の世界の美しく清潔な手術室と違って、何だか雑然とした台所みたいな印象だった。想像したより狭い手術台、前日はいった6人部屋の病室で聞いた噂通り、何故か美しく可愛い女性ばかりの麻酔医と看護婦。(私たちの世代には、どうしても「看護師」という呼び方が馴染まない。白衣の天使は、やっぱり「看護婦」と呼んでしまう。)2枚のごわごわの布を脇で張り合わせただけの術衣の下は何もつけてないから、何となく落ち着かない。…と思ったのも一瞬で、点滴に麻酔薬が落ち始めたら、数秒で闇に落ちた。

 また意識が消え、次に気付いたら廊下を運ばれていた。「レントゲン撮りますからネ」…そしてまた闇。その後はっきりと目覚めたのは12時15分、既に病室だった。三角巾で吊られた上からバストバンドで胸に固定された左腕がズシンと重い。痛みは殆どなかった。全身麻酔に加え、肩から腕の付け根辺りの神経叢近くに差し入れられた針から麻酔が落とされている。前日の説明に「伝達麻酔」とあった。
 2012年12月19日、F大学病院の整形外科に入院、翌20日の朝一番で手術。「左長頭腱亜脱臼、左肩甲下筋断裂の修復手術」…命には障りないから、初めての入院手術にも緊張や不安はなく、どちらかと言えば好奇心の方が勝っていた。(だから、家族も深刻な心配はしてない。)加えて、肩の権威と評判高い執刀医の教授が、たまたま私の高校の同窓生の整形外科医の教え子だったこともあり、彼の「よろしく」と声を掛けてくれたひと言で、一段と信頼感・安心感が増して、何の不安もなく手術に臨んだ。
 同室の同じような手術を受けた先住患者たちは、数日痛みに呻吟したというのに、翌日には鎮痛消炎抗菌の点滴も終わり、鎮痛剤の服用も必要ないほど術後の痛みは殆どなかった。そして、何よりもの不快感と苦痛は、差し込まれた尿管カテーテルだった。術日の夕飯(2食絶食の後、いきなりのトンカツ!)を済ませて、ようやくカテーテルを抜かれるときの怖気立つほどの不快な痛みと屈辱感、翌日まで続いた排尿時の痛みの凄まじさが、今回の手術初体験で一番の印象だった。

 数日後、担当医から映像を見ながら手術の説明があった。
 「亜脱臼していた上腕2頭筋の1本は、修復不能の為切り落としました。力瘤が少し下に落ち、左腕の腕力が10%ほど弱くなりますが、日常生活には影響ありません。肩の関節内の切れた腱板は、4ミリの関節内視鏡を入れてチタンのビス4本を骨に埋め込み、それぞれ4本の糸で縫い寄せて縛り付けています。2週間は絶対に左腕を自力では動かさないでください。また切れたら、今度は関節を切開しますから悲惨ですよ。」
 左肩に開けられた5つの小さな穴は、手術翌々日には5枚の小さな絆創膏だけになり、1週間後には抜糸された。「五つ星(ファイブスター)」などとふざけながら、6人部屋でクリスマスを迎え、9時消灯後の個人テレビで大晦日の紅白歌合戦を観て、2013年の元旦を迎えた。
 明けて1月4日にリハビリ専門の病院に転院するまで、この病棟で様々な人間模様を見て、想定外の経験を重ねることになる。
 そして、長い長~いリハビリ入院が待っていた。66日間の入院から還り、ようやくPCに向かって蟋蟀庵のくぐり戸をくぐった。
           (2013年3月:写真:クリスマス・ディナー)

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