渡りの途中だったのだろうか、数日、石穴稲荷の杜で「キョロロロロロ♪」と尻下がりの綺麗な囀りを聴かせていたアカショウビンが北に旅立った。もう15年ほど昔、「古事記」の故郷を訪ねる旅の途中、霧島高原で聴いた。翡翠色のカワセミ、地味なヤマセミ、そして赤褐色の羽毛に真っ赤な嘴を持ったアカショウビン…いずれも森林に棲みつくカワセミの仲間である。飛んだ時に腰の水色がよく目立つというが、まだその姿を見たことはない。それに、この太宰府で聴いたのは初めてだった。
雨の匂いが濃くなり、庭のアマガエルが静かになった。もう雨呼びをしなくてもいいということだろう。
時折日差しがこぼれる下を日田に走った。週末の大分道も、観光端境期の今は車も少なく、小一時間で日田市民会館(パトリア日田)に着いた。開館10周年記念に催された「坂東玉三郎舞踊公演」、1008席をほぼ満席にする二日間公園の初日である。
冬の酷寒、夏の酷暑…県内最低と最高でニュースに登場することの多い気候が育んだ日田杉や檜をふんだんに使った美しい大ホール「やまびこ」だった。
ちょっと寄り道して「道の駅」で野菜を買い込み、帰り着いた太宰府は34.2度!7月の声を待っていたように、駆け足で夏が走り込んで来た。今年の足音は、一段と荒々しい。まだまだ夏はこれからが本番というのに……(溜息)。
一夜明けた今朝、今年初めて玄関先でニイニイセミが羽化し、強い日差しの中で初鳴きを聴かせてくれた。昨年は6月29日にヒグラシが羽化し、初鳴きを聴かせてくれた。今年は、まだヒグラシの声が聴こえてこない。その年ごとの微妙な天候が、こんな変化を見せてくれる。
今年も懐中電灯を手に、八朔の下で羽化を数える季節がやって来た。毎朝回収していた抜け殻(空蝉)を、今年は回収せずに枝に残してみようと思う。100匹を越す抜け殻が八朔に鈴生りになる……これを気持ち悪いと感じるか、楽しいと感じるか、人それぞれでいい。
いずれにしろ、今年の八朔は裏作、実は皆無に近い。ひと夏、この1本の八朔は、セミ達の誕生の褥、そしてアゲハチョウやクロアゲハを育てる揺り籠となる。
東京都議選の速報が始まった。都民ファーストの大勝と自民党の過去最低を下回る大敗。当然の結果だろう。傲慢不遜な宰相のもとに集った愚かな大臣たちが、自らの足を引っ張って自滅したに過ぎない。
彼らに走り迫る夏の足音は、最早荒々しささえ過ぎて、まるで大鉈を振りかざして殴り込むような勢いである。しかし、それを悔いて身を改める期待は、もう彼らに持つべくもない。怒りが諦めに代わった時、人はどう行動すればいいのだろう。
藤井聡太四段の連勝記録が、今夜29勝で途切れた。此処にも波乱がある。それもいい。若者は、挫折の度に更に強くなる。一強が過ぎたら、ろくなことはない。それは、国会が反面教師として毎日見せつけてくれている。
その政界と違うのは、将棋界には藤井君に対抗できる強力なライバルが何人もいるということ……見え透いた嘘や強弁が入り込む余地がない真剣な切磋琢磨が、きっとまた私達に楽しい夢を見せてくれることだろう。
さて八朔の下に、夏の足音を聴きに行ってみよう。
(2017年7月:写真:アカショウビン ネットから借用)