蟋蟀庵便り

山野草、旅、昆虫、日常のつれづれなどに関するミニエッセイ。

Great white shark

2005年07月10日 | つれづれに

半年間待ち続けていた鮫の歯のペンダントが届いた。Great white shark ホオジロザメ。言うまでもなく、かつての話題作「ジョーズ」で名を馳せ、日本にも誕生したテーマ・パーク・ユニバーサル・スタジオの恐怖を演出する主役のひとつである。冷たい目と圧倒的なスピードで、その凶暴さにおいて他に類を見ない。
 いつの頃からかその歯が欲しいと思うようになった。理由は自分でも解らない。何故かあの猛々しく鋭い歯に惹かれていった。
 昨秋カリフォルニア州ロングビーチの娘のもとを訪ねたとき、ダイビング仲間であり娘のサルサのパートナーでもあるマサ君の胸にGreat white sharkのペンダントが巻かれているのを見た。色、形、大きさ共に見事な逸品だった。その夜から娘のパソコンでインターネットを開き、オークションにかけられた数々の鮫の歯をむさぼるように見つめる毎日が続いた。「たかが鮫の歯、されど鮫の歯」日本円で数千円から数十万円まで、涎が出るような品々が並んでいた。ダイビング仲間との交流で目の肥えたマサ君と娘に「向こう一年間時間をあげるから、これぞという物を手に入れて欲しい」と頼んで帰国した。
 スキューバ・ダイビングのライセンスを目指して今年も沖縄・慶良間諸島の座間味島に一週間の泊まり込みを予定していたが、五月のアラスカ・クルーズで散財して今年は断念。いずれ潜れるようになったとき、ホオジロザメの歯をお守りとして首に巻こうと考えている。
 マサ君が「カリフォルニアの海でライセンスを取りませんか?私が教えますよ」と勧めてくれて、勤めているダイビング・ショップからプロ用のシュノーケルとマスクを家内と私に持ってきてくれた。二人からのプレゼントだという。しかし冷たい海流と岩場とケルプのカリフォルニアの海はけっこう厳しいもがあるようだし(しかも英語でのレッスンには自信がないので)、この年齢には穏やかな沖縄の海で取るのが無難だろう。いずれはメキシコやカリフォルニアの海で、娘達と潜る夢を叶えたいと思っている。滞在中、ダイビング仲間から2匹の大きなロブスターを手に入れてくれたマサ君が、見事な包丁捌きで活き作りや塩焼きやフライに調理してくれて、ワイン片手に豪勢なディナーを楽しんだ。苦みが廻らないように、ロブスターの髭を差し込んで内臓を抜き取る秘技を見せてくれたのが圧巻だった。
 1週間遅れの父の日、待ち望んだ鮫の歯のペンダントが届いた。年を経たホオジロザメの精悍な歯である。娘は「ン万かな?」とボカして本当の値段を教えてくれない。メキシコ、ロス・カボスで買ってきたTシャツにペンダントを巻きながら、サンゴ礁の海の匂いを想い出していた。
 旱魃を心配していたのが嘘のように、激しい雨が降りしきっている。季節が「程良さ」を喪ったのはいつからだろう?
       (2005年7月:写真:ホオジロザメの歯のペンダント)