『そぞろ歩き韓国』から『四季折々』に 

東京近郊を散歩した折々の写真とたまに俳句。

読書感想229  ブラッディ・カンザス

2018-03-14 14:58:55 | 小説(海外)

画像サラ・パレツキー

読書感想229  ブラッディ・カンザス

著者      サラ・パレツキー

生年      1947年

出身地     米国。カンサス州で育つ。

出版年     2008年

訳者      山本やよい

邦訳出版年   2009年

邦訳出版社   (株)早川書房

 

☆感想☆☆☆

2000年代の米国中西部のカンサス州の農業地帯が舞台になっている。

カンサスでは1850年代に準州が州に昇格するときに自由州にするか奴隷州にするかをめぐって流血事件が起きた。千人もの奴隷制反対派の移住者が殺され、「血を流すカンザス」の呼び名が生まれた。その後、南北戦争のさなかにも奴隷制支持派が何百人もの奴隷制反対派を虐殺した。グルニエ家、シャーマン家、フリーマントル家の3軒の家は1855年に奴隷制反対派の開拓者として出会い、奴隷制支持派の襲撃から身を守り、助け合ってきたのだ。

今、グルリエ家は、当主のジムと、妻のスーザン、高校3年生のチップ、高校1年生のラーラの4人家族。共に150年前に入植したフリーマントル家は当主の老婦人がなくなり、現在誰も住んでいない。そして、シャーマン家は祖母のマイラ、その息子の当主、アーニー、高校3年生のジュニア、高校1年生のロビーの4人家族。グルニエ家は農作物を栽培しているが、シャーマン家は酪農を専業にしている。グルニエ家とシャーマン家は仲が悪い。とくにシャーマン家がグルニエ家を憎んでいる。かつては教会も同じメソジスト派だったが、マイラがシャーマン家をキリスト教原理主義ともいうべき「イエスの血による救済聖書教会」に変更させた。一方、スーザンもグルニエ家の祖先の女性が創設に尽力した「キリストの河畔合同教会」にグルニエ家の人々を参加させた。

そこにニューヨークからフリーマントル家の遠縁のジーナ・ヘリングがフリーマントル屋敷に引っ越してくることになった。フリーマントル屋敷はチップとラーラの秘密基地でいつも忍び込んでいた。一方、シャーマン家には赤毛の子牛が生まれ、聖なる牛としてユダヤ教徒のラビが3年後に生贄のために引き取ると約束ができたが、ただ不浄な女に見せてはならないと釘を刺された。その子牛の世話をするのはロビ。

登場人物はいろいろなイデオロギーの影響を受けている。スーザンはグルニエ家の初代のアビゲイルに心酔している。そして大義名分のある活動が大好きで、共同販売からイラク戦争反戦運動まで携わっている。アーニーは保安官助手として「共産主義者」のスーザンを目の敵にしている。ホームレスのような生活をしているエレイン・ローガンは1970年代の「自由コミューン」の参加者。ジーナ・ヘリングもキリスト教ではなく、古代のスウェーデンの女性だけが参加する篝火祭を催している。「救済聖書教会」は異端なセックスと他宗派の者との恋愛を厳しく取り締まることを使命にしている。ナボ牧師はその先頭に立っている。

農業が大変だし、キリスト教の諸宗派が人々を結び付けたり、排除したり社会に強い影響力を発揮している一方で、都会的で教養のある人々のそれに対する反発も強いことがわかる。銃社会が栄光の歴史と結びついていることから、銃規制は都会ではできても地方では難しいかもしれないという印象をもった。


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