読書感想177 二都物語
著者 チャールズ・J.H.ディケンズ
生没年 1812年~1870年
出身地 英国ポーツマス
出版年 1859年
翻訳者 中野好夫
邦訳出版社 (株)新潮社 新潮文庫
邦訳出版年 1967年
感想
小学校時代にダイジェスト版の「二都物語」を読んだことがあり、愛する人のためにその夫の身代わりに断頭台の露に消える男の物語に衝撃を受けた記憶がある。それで今回いい機会なので全部読んでみた。いろいろな人やいろいろな事件がどう関連していくのかわからないまま引っ張られ、最後で集中していろいろな謎が解き明かされていく。ダイジェスト版のほうがスピード感があり、主要人物に的が絞られていて一気に読ませる。
時代はフランス革命で、バスチーユの監獄に18年間囚われていた医師のマネット老人と、その娘のルーシーはイギリスで暮らしている。そしてフランスの侯爵でありながら家名を捨ててイギリスで自活しているチャールズ・ダーニーとルーシーは結婚する。もう一人ルーシーに想いを寄せる放蕩無頼の弁護士シドニー・カートン。フランス革命のさなか、チャールズは侯爵家の家宰を救うために、フランスへ戻り、そこで父や叔父の過去の悪事によって告発される。チャールズとシドニーは他人の空似でよく似た容貌の持ち主だった。シドニーはルーシーのためにチャールズの身代わりとなって断頭台の露となる。
シドニーとルーシーの関係がシドニーに命を投げ出させるほどのものかと思ってしまう。二人の関係はずいぶん淡々としているし、シドニーがルーシーのどこに惹かれているのかが、よくわからないからだ。あまりにも通俗的な美しい美貌と父親にたいする献身では、シドニーの失恋の痛手は軽くルーシーの代わりが見つかりそうに思える。シドニーが放蕩でダメな人間だと自分で言っているだけで、実際は有能な弁護士であることが随所にでてくる。シドニーの自己犠牲的な騎士道精神の根拠がわからない。たとえばスコットの「アイバンホー」だったら、騎士の名誉にかけて恩義のある女性のために戦うというのは騎士道精神ゆえだと納得できる。しかし、シドニーの自己犠牲は理解しがたい。小学校時代から持ち越した、シドニーという人物に対してもシドニーとルーシーとの関係も絵空事という印象だ。今回も気味が悪かったのが復讐の鬼と化している革命派の女が編み物にギロチンで殺される貴族の記録を編み込んでいく姿だ。復讐に燃える民衆も、革命という大義名分を得た狂乱の渦に飲み込まれている。