『そぞろ歩き韓国』から『四季折々』に 

東京近郊を散歩した折々の写真とたまに俳句。

読書感想156  ゼルプの欺瞞

2014-12-31 15:58:04 | 小説(海外)

読書感想156  ゼルプの欺瞞

著者      ベルンハルト・シュリンク

出身地     ドイツ

出版年     1992年

本書受賞    ドイツ・ミステリ大賞受賞

邦訳出版年月  2002年10月

出版社     小学館

訳者      平野卿子

 

★感想★

 私立探偵のゼルプは、行方不明の娘を探してほしいという依頼を受ける。その依頼主の父親は娘にも周りの人間にも気づかれないように探してほしいというので、ゼルブはいったん断るが、翌日5千マルクの金額が送られてきた。連絡方法はメッセージ電話だけで依頼主のザルガーの住所も、娘レオノーレ・ザルガーの住所もわからない。ゼルブはレオノーレが通っているハイデルベルク大学に向かい、交友関係を調べ始めるが、レオノーレの行方はわからない。とうとうゼルプはハイデルベルクの郊外にある州立精神病院に行くことにする。そこでレオノーレが3ヶ月前に入院し、先週4階から飛び降り自殺したと医師ヴェントから告げられる。しかし偶然出会った看護士によれば先週自殺事件はなかったという。

 初めて写真を見たときのゼルプの「そうだ、おれはこんな娘が欲しかったんだ」という言葉に、行方不明の娘レオノーレに対する好意が溢れている。彼女を守ろうという動機が一つの軸になってゼルプを動かしていく。事件そのものは大掛かりな仕掛けのわりには犯人が詐欺的で卑小で殺された人たちが気の毒になる。いろいろな本筋と関係のないエピソードが盛沢山なので煩雑な印象だ。

 

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読書感想155  リタの鐘が鳴る

2014-12-30 11:34:42 | 小説(日本)

読書感想155  リタの鐘が鳴る

著者      早瀬利之

生年      1940年

主要著作    「遥かなるスコットランド」「冬の蛍」「石原莞爾 マッカーサーが一番恐れた男」「マリー・ルイズ」「タイガーモリと呼ばれた男」などノンフィクション多数。

初出版年     1995年

文庫版出版年   2014年

出版社      朝日新聞出版(朝日文庫)

 

★感想★

 本書は20年前に出版されたが、NHKの朝の連続テレビ小説「マッサン」の放映に合わせて、文庫版として再出版されたもの。著者はスコットランドや北海道の余市なども尋ねて竹鶴政孝・リタ夫妻の足跡をたどり自伝を基にしながらも、あくまでもフィクションだと述べている。つまり感情描写も豊かな小説になっているのだ。写真も多数掲載されていて、リタさんの美しい姿を見ることができる。竹鶴政孝氏は柔道も強かったというし、すごくごつい人に見える。美女と野獣というか対照的な二人の写真だ。驚いたのはリタさん(「マッサン」の中ではエリ)が元々病弱な人なのに、遠い日本に行こうと決心したことだ。リタさんが第一次世界大戦を経験した世代だというのも大きく影響しているかもしれない。リタさんの婚約者も戦死している。最悪な戦争を経験し、これ以上怖いもののない世代なのだろう。次に驚いたのは独立してからのニッカが軌道に乗るまでの悪戦苦闘の長い日々だ。リタさんはニッカの工場に何か役に立ちたいと考えた。その中の一つが、始業、お昼、終業の3回鐘を鳴らしたことだ。リタの鐘と余市の人々に呼ばれるようになった鐘だ。第二次世界大戦中、リタさんは敵国人として苦しい日々を送らなければならなかった。一方ウィスキーは軍が大量に購入したことでニッカの経営は軌道に乗った。日本軍が日本酒ではなく、ウィスキーを飲んで戦争をしたというのは笑い話だ。また余市が空襲を免れたのもウィスキー工場があったからで、米軍機はウィスキー工場の確認に飛んで来ただけで、破壊する意志はなく、戦後は米軍からの大量の注文が入ってきたというのも愉快だ。独立の気概に溢れた仲の良い夫婦の物語だ。

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