読書感想153 ベルリン1933
著者 クラウス・コルドン
生年 1943年
出身地 ドイツのベルリン
作家デビュー 1977年
出版年 1990年
邦訳出版年 2001年
出版社 (株)理論社
★感想★
本書はクラウス・コルドンの「転換期三部作」の第2作目。本書の主人公は第1作目の「ベルリン1919」ではまだ赤ちゃんだったハンス・ゲープハルト。前作の主人公だったヘレ・ゲープハルトは結婚し独立している。ハンスはまだ15歳にならない14歳でAEGという大会社の倉庫番として採用される。採用に尽力してくれたのはドイツ社会民主党員のビュートウ主任だ。失業者が600万人も溢れ、ヘレもAEGから解雇され、妻のユッタが酒場で掃除の仕事をして生活をささえている。お母さんのマリーも工場から解雇される。片腕のお父さんのルディは警備員として働いているが、生活費には足りない。ハンスは一家の重要な働き手として工場で頑張るが、工場の中ではナチの突撃隊員がことごとく社会民主党やドイツ共産党の党員や支持者に暴行を振るっている。ベルリンの街でも同じだ。ドイツ共産党はナチ党よりもドイツ社会民主党を憎んで、主敵とみなしている。そして1933年1月30日ヒトラーが首相になり、2月27日国会議事堂炎上事件をきっかけに、ドイツ共産党員とドイツ社会民主党員への大弾圧が始まる。補助警官とされたナチ突撃隊員らによってことごとく逮捕されるか殺害される。それでも3月5日の国会選挙ではナチ党の得票率は43.8%、ドイツ社会民主党は18.2%、ドイツ共産党は12.2%。特に本書の舞台になっているベルリンの労働者街、ヴェディング地区では9万3千人がドイツ共産党を、5万4千人がドイツ社会民主党を、6万2千人がナチ党を選んでいる。ドイツ共産党を除名されていたルディも、党の方針に批判的だったヘレも妻のユッタも、そしてビュートウ主任も逮捕される。そしてハンスの職場では権力を得たナチ突撃隊員の攻撃の前に、ドイツ共産党と距離を置いていたハンスも命の危険にさらされる。そんな時ハンスは同じ工場で働くミーツェと知り合う。
貧困の上に政治的な独善に裏打ちされた暴力が横行する社会。そしてナチ党が権力を掌握して6ヶ月で独裁体制を固め、恐怖政治が本格化する。こんな時代に逃げるか、留まるか、人生の分かれ道だ。留まって何をするのか、その決断も勇気がいる。
ゲープハルト家のメンバーも増え、考え方や行動の違いも時代を映す鏡になっている。暗い時代の話だけれど、魅力的な人物が多いので楽しく読める。