『そぞろ歩き韓国』から『四季折々』に 

東京近郊を散歩した折々の写真とたまに俳句。

読書感想239  ペンギンの憂鬱

2018-07-28 13:02:51 | 小説(海外)

 Crest books<br> ペンギンの憂鬱 

著者      アンドレイ・クルコフ

国籍      ウクライナ

使用言語    ロシア語

生年      1961年

出版年     1996年

邦訳出版年   2004年

出版社     (株)新潮社

訳者      沼野恭子

国際的な評価  20か国に翻訳出版され、ベストセラーに

なっている。

☆感想☆☆☆

 動物たちに餌もろくにやれなくなった動物園からもらって来たペンギンのミーシャと暮らすヴィクトルは、キエフに住む売れない小説家。ある新聞社から死亡記事を書くように頼まれる。さらにまだ生きている大物政治家や財界人、軍人たちの追悼記事をあらかじめ書いていく仕事を依頼されるようになる。そして追悼記事を書いた大物が次々に死んでいく。追悼文の取材に訪れた先で銃撃の音を聞き、取材先の新聞記者が射殺されたことに度肝を抜かれる。そして孤独なヴィクトルの家に、追悼文を個人的に依頼してきた「ペンギンじゃないミーシャ」が4歳の娘のソーニャを預けて姿を消す。鍵のかかった家に誰かが侵入している痕跡がある。ペンギンのミーシャを預かってくれた若いセルゲイ巡査の姪のニーナがベビーシッターとしてやってくる。手紙やお金が残されている。どうやってはいったのか。何が何だかわからないうちに、追悼文を書いて死んだ大物の葬儀にペンギンと一緒に参列するようになる。そしてヴィクトルは自分について書かれた追悼文を見付け、自分がいつのまにか国家安全保障の「グループA」という暗殺組織の一員になっており、マフィアともつながっているという記事に驚く。これぞ青天の霹靂。さあ、生延びることはできるのか。

 カフカのような不条理な世界に翻弄される主人公の姿をペットとして個人の家で飼われているペンギンの不条理さと重ねている。登場人物がそれぞれ生き生きとしていて可愛らしい。怖い話なのに楽しく面白い。


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読書感想238  ブハラの死刑執行人

2018-07-02 13:48:50 | 小説(海外)

 

読書感想238  ブハラの死刑執行人

著者      サドリーディン・アイニ

生没年     1878年~1954年

出身地     ウズベキスタンのブハラ近郊

出版年     1920年 

言語      ウズベク語で書かれ、後にタジク語で改作され、ロシア語に翻訳された。

履歴      ブハラのメドレセ(イスラム教の宗教学校)に学び、早くから詩作、文学活動を始め、当時のブハラ汗国の封建制度を批判したため、ブハラ汗国のエミール(国王)から弾圧、投獄され、のちの革命軍により救出された。後年はソ連最高会議代議員にも選ばれ、初代タジック科学アカデミー総裁を務めた。

訳者      米内哲雄

☆☆感想☆☆

 ロシア革命のただなか、1918年3月、ブハラ汗国ではエ

ミールに改革と降伏を要求したブハラ青年党を一掃する命

令が下された。エミールの宮殿では毎日数百人の若いブハラ

人が送り込まれ、毎晩のように、彼らは殺害され、遺体は何

回も運び出され、城門の近くの穴に投げ込まれた。さらに、

「聖なる信仰のための戦士たち」という狂信者たちは「ジ

ャデッド」を逮捕、処刑せよという訓令を受けた。「ジャデッド」とは何か。ロシア語を少しでも知っている者、一度でもイスタンブールへ行ったことのある者、

新聞を読む者、新聞を読む者と交際している者、背広を着て

いる者、ルバシカの襟にボタンのある者、短いあごひげと長

い口髭の者、息子を新方式の学校へ入れているか、ロシアか

イスタンブールへ遊学させている者たちである。そして国内

屠殺場と化した。それで街頭での処刑は中止され、宮殿に集

められて処刑されることになった。宮殿での遺体はますます

増加した。

 本書ではブハラの宮殿での拷問・処刑と遺体の運び出しの

様子と、死刑執行人たちが、遺体の運び出しの終わった、わ

ずかの休憩時間に話す体験談や見聞録からなっている。無か

ら才覚一つで金持ちになった話や、回教の僧侶のことなど日

本人にはなじみのないウズベキスタンの昔の生活がうかが

える。

見出しは次のとおりである。

“ジャデッド”とは何者か

新しい殺人法

砂の部屋

3月9日、夜、アルタ宮殿

ミルシャブ爺さん

枷の消費税

回教法典のあるじたち

僧侶―強盗を捕らえる名人

おお 回教法典よ

ピルザーデ

秘密をよく守れ

強奪の機械


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読書感想237  海を照らす光

2018-06-30 01:09:59 | 小説(海外)

新品本/海を照らす光 上 M・L・ステッドマン/著 古屋美登里/訳

読書感想237  海を照らす光

著者      M・L・ステッドマン

出身      西オーストラリア

出版年     2012年

邦訳出版年   2015年

邦訳出版社   (株)早川書房

訳者      古谷美登里

☆☆感想☆☆

 第一次世界大戦の戦場から帰国したトム・シェアボーンは、多くの戦友が戦死するなか、自分が生き残ったことに深い罪悪感を抱いていた。これからは人命を助ける仕事をしたいと、灯台守としてオーストラリアの西南部の孤島、ヤヌス・ロックに赴任する。「ヤヌス灯台は、彼が1915年に軍隊輸送船に乗ってエジプトに向かっていたときに見た、オーストラリアの最後の目印だった。」三か月に一度、ヤヌス・ロックへは対岸のパルタジョウズから物資が運ばれてくる。そのパルタジョウズの町で兄二人が戦死したイザベルと結婚し、若い二人はヤヌス・ロックの島で二人きりで幸せに暮らしていたが、イザベルは流産を繰り返した。イザベルの三度目の流産の直後に島にボートが漂着する。ボートの中には若い男の死体と生後間もない赤ん坊が乗っていた。イザベルは赤ん坊に魅了され、本土に報告しようとするトムを説き伏せ、赤ん坊を実子として育て始める。男の遺体は島に埋葬され、赤ん坊はルーシーと名付けられ、トムとイザベルの生活を明るく照らすようになる。三年に一度与えられる休暇でパルタジョウズにもどったとき、トムはルーシーの母親ハナが生きており、赤ん坊と夫を捜していることを知る。トムは今こそルーシーをその母親のもとに返そうとするが、イザベルが強硬に反対する。やむをえず、トムは匿名の手紙でルーシーが無事でいることと父親が亡くなったことを知らせる。そして二度目の手紙にルーシーが持っていた銀のガラガラを添えて送る。それを見たルーシーの祖父が銀のガラガラの情報に多額の懸賞金をかける。事態は大きく動き出す。

 ルーシーのヤヌス・ロックでの幸せな生活の断片。

「ルーシーは嬉しそうにイザベルの後について卵を集めに行く。ときどき新しく孵る雛に魅せられている。自分の顎の下に雛を押し当て、その金色のふわふわした羽の感触を楽しむ。・・・のたくった線をいくつも描いては、それを自慢げに指差して、『これママ、これパッパ、これルルとうだい』と言う。・・・トムはルーシーとイザベルが『楽園の池』で水浴びをしているのを眺める。女の子は水しぶきと塩辛さと、自分で見つけた色鮮やかな青いヒトデに夢中だ。指でヒトデを捕まえると、まるで自分でそれをこしらえたかのように、興奮と満足感で顔を輝かせる。『パッパ、みて。あたしのヒトデ!』」

 パッパとママとヤヌス・ロックに帰ると言い張る四歳のルーシーを前に、実母のハナは現実のルーシーを受け入れられず、苦しむ。登場人物のなかで、イザベルが一番身勝手。現実感がないほど善良なのがルーシーの父、フランツ・レンフェルト。賢いルーシーの祖父セプティマスや優しい叔母のグウェン。

 ヤヌス・ロックの海や強い風、孤島の描写も魅力的だ。

本書は出版されるやベストセラーになり、映画化され「光をくれた人」の題名で日本でも公開された。 


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読書感想236  堕ちた天使 アザゼル

2018-06-23 17:41:56 | 小説(海外)

堕ちた天使 アザゼル

読書感想236  堕ちた天使 アザゼル

著者      アクーニン

生年      1956年

居住地     モスクワ

訳者      沼野恭子

出版年     1998年

邦訳出版年   2001年

出版社     (株)作品社

☆☆感想☆☆

 本書は日本文学者だったグリゴーリイ・チハルチシヴィリが超人気作家ボリス・アクーニンとしてデビューした小説であり、「エラスト・ファンドーリンの冒険」シリーズの第一作である。訳者によれば、ファンドーリン・シリーズは19世紀後半のロシアを舞台にし「古き良きロシア」へのノスタルジーをかきたてつつ、当時はトルストイやドストエフスキーといった作家が活躍したロシア文学の爛熟期にあたっていることから、著者はその同時代性を強く意識しているという。原書の裏表紙には「文学が偉大で、進歩をどこまでも信じることができ、犯罪がエレガントで趣味よくおこなわれたり発覚したりした19世紀の思い出に捧げる」とあるのも著者の意図をよく表しているという。ファンドーリン・シリーズにはさまざまな形で19世紀のロシア文学が取り込まれ、その芳香が感じられるそうである。私には19世紀のロシア文学の芳香はわからないが、19世紀のロシアへのノスタルジーは感じられる。また、ファンドーリン・シリーズは著者が各作品に性格づけをして読者が楽しめる「単なる文学」を提供したいという意図があるそうだ。これまでのロシア文学では社会性を問われたり哲学的だったりと「文学以上」のものを担わされてきたが、それを「欧米化」しようと試みているのだという。

 さて、「堕ちた天使 アザゼル」は、20歳のモスクワ警察に配属された文書係ファンドーリンと、悪ふざけが失敗して自殺した青年のことから始まる。1876年5月13日のライラックの花が咲き、チューリップが燃え立っているアレクサンドロフスキー公園で、一人の青年が初対面のうら若き令嬢に口づけを求めて断られると、ピストルをこめかみに当てて自殺したのだ。その青年は大富豪のモスクワ大学生で、遺書にはイギリス人の慈善家エスター男爵夫人に全財産を譲ると記されていた。

その自殺を伝える記事にはドストエスキーの「作家の日記」が引用されている。「魅力ある、善良で、誠実な人たち、いったいどこへ行こうというのか。この暗い、物言わぬ墓が、なぜにそれほどいとしくなってしまったのか。見たまえ、空では春の太陽が輝き、木々は芽吹いているというのに、あなたがたは生を謳歌することもなく疲れてしまったのか」こういう描写が19世紀後半の同時代性を感じさせているのであろう。

登場人物:うら若き令嬢のリーザンカ

     リーザンカのドイツ人家庭教師エンマ

     自殺したモスクワ大学生ココーリン

     ココーリンの友人のモスクワ大学生ニコライ

     正体不明の美女のアマリア

     アマリアを崇拝する伯爵ズーロフ

     イギリス人の慈善家エスター男爵夫人

     モスクワ警察特捜部のグルーシン警部

     侍従武官長直属特殊任務捜査官のイワン

     モスクワ警察特捜部文書係ファンドーリン


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読書感想235  リヴァイアサン号殺人事件

2018-06-13 01:39:43 | 小説(海外)

 リヴァイアサン号殺人事件/ボリス・アクーニン/沼野恭子 

読書感想235  リヴァイアサン号殺人事件

著者      ボリス・アクーニン

生年      1956年

居住地     モスクワ

出版年     1998年

邦訳出版年   2007年

邦訳出版社   (株)岩波書店

訳者      沼野恭子

 

☆☆感想☆☆

本書は「ファンドーリンの捜査ファイル」シリーズの第3作目にあたる。事件はパリのリトルビー卿の屋敷で起きた。英国のインド・コレクションを持つリトルビー卿が殺害され、さらに使用人7人とその子供2人が殺害された。インド・コレクションの中の黄金のシヴァ像と模様入りのインドのスカーフが盗まれた。黄金のシヴァ像はパリの川の中で発見された。捜査はゴーシュ警部に一任された。そこでゴーシュ警部は豪華客船リヴァイアサン号に乗り込んだ。リヴァイアサン号初航海を記念して一等船客と上級航海士にクジラの金のバッジが配られたが、その一つが死んだリトルビー卿の手の中に残されていたのだ。この客船はイギリスのサウサンプトン発カルカッタ行き。ゴーシュ警部はクジラの金のバッチのパーティーでの着用が義務になっている船内で、着用していない乗船客の中に犯人がいると見込みをつけ、定員10人のテーブルのサロンに彼らを集めカルカッタまでの船旅を共にすることにした。乗船客の中でバッチのないのは4人、うち、2人は女性。怪しい乗船客の一人目は、サー・レジナルド・ミルフォード=ストークス。28歳ぐらいだが挙動不審。二人目はムッシュ・ギンタロー・アオノ。「帝国軍将校」とどぎまぎして答える。一人目の女はマダム・レナーテ・クレーバー。20歳ぐらいでのおしゃべりで身重だと触れ回っている。もう一人の女はあまり若くないイギリス人のミス・クラリッサ・スタンプ。物静かだがときおり怪しい影が目によぎる。サロンには席が余っているので、船医長のムッシュ・トルッフォとその妻のマダム・トルッフォ、さらにインド考古学者のアンソニー・F・スィートチャイルド。そしてスエズ運河の北端の町ポート・サイドから乗船したのが、エラスト・P・ファンドーリン。ロシアの外交官でコンスタンチノープルから到着し、赴任地の日本に行く予定だという。殺人事件のあった時期にフランスに滞在していた。一等航海士のシャルル・レニエがサロンの食卓の長を務める。

 それぞれの乗客の正体があきらかになり、パリの殺人事件の動機も手口も明らかになっていく。船上でも殺人事件が起きる。手に汗を握る展開で最後まであきさせない。

 
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