読書感想280 熊と踊れ(上下)
著者 アンデシュ・ルースルンド
生年 1961年
著者 ステファン・トゥンベリ
生年 1968年
出身国 スウェーデン
出版年 2014年
邦訳出版年 2016年
邦訳出版社 (株)早川書房
訳者 ヘレンハルメ美穂
羽根由
☆☆感想☆☆
本書はスウェーデンの犯罪小説である。暴力的な父親の薫陶を幼い日々に受けた3兄弟が、軍の武器庫から銃や爆薬を盗み出し現金輸送車や銀行を次々に襲っていく。父親はどこかわからないがユーゴースラビアあたりから来た移民のようだ。父親の信念は家族以外は信じることができない敵であり、家族は一致団結しなければならない。裏切りは許さない。敵は暴力でぶちのめすというもの。父親のトラブルメーカーぶりについていけない母親が去ろうとすると、裏切りは許さないと母親の実家に火炎瓶を投げ込んだり、母親にすさまじい暴力をふるったりする。3兄弟は父親を拒絶しながらも、家族の団結力と暴力で銀行強盗という大事業を次々に実行していく。統率のよくとれた作戦は証拠を残さず、犯人の手がかりはない。捜査にあたるストックホルム市警警部ヨン・ブロンクスはわずかな防犯カメラの映像から兄弟ではないかと推測する。長男はレオ、次男はフェリックス、三男はヴィンセント。レオの幼馴染のヤスペル。以上が強盗団のメンバー。そして家族全員に見捨てられた父親のイヴァンも、わずかな映像からレオを認識してしまう。
本書では過去と現在が交互に描かれている。過去は父親イヴァンの家庭内暴力以上の犯罪が描かれ、現在はレオを中心にした、仲間うちの葛藤や銀行襲撃の計画実行の過程を追う展開になっている。
この物語が実際にスウェーデンで1991年から1993年にかけてあった「軍人ギャング」の事件を元にしたフィクションで、しかも共著者の一人トゥンベリはその強盗団の血のつながった兄弟だという。実際は4兄弟だが、トゥンベリはアートスクールの学生で犯行に加わっていない。解説には本書を読んだ3兄弟の感想もある。「ここに描かれているのはあの頃の、17歳だったころのおれで、いまのおれは違う人間だ」(ヴィンセント)。「自分やまわりの人たちをどんな狂気にさらしていたか、これで理解できた。これが自分の家族ではなく、べつの家族に起こったことならよかったのに、と思った」(レオ)。「ステファン、おまえのことは心底嫌いだが、おまえらの書いたこの本はめちゃくちゃよかった」(フェリックス)。