『そぞろ歩き韓国』から『四季折々』に 

東京近郊を散歩した折々の写真とたまに俳句。

読書感想303  恋歌

2021-09-27 11:48:07 | 小説(日本)

恋歌

著者     : 朝井まかて

生年     : 1959年

出版年    : 2013年

出版社    : (株)講談社

本書の受賞歴 : 第150回直木賞    第3回本屋が選ぶ時代小説大賞

☆☆☆感想☆☆

樋口一葉の師匠にあたる萩の舎を主催していた中島歌子の生涯を、中島歌子が綴った自伝を弟子の三宅花圃と養女の中川澄が読んでいくという展開になっている。裕福な江戸の商家に生まれた中島歌子が水戸藩士に恋をして嫁いだのは、桜田門外の変の直後。夫は天狗党に属し、水戸藩は天狗党と諸生党の内紛が激烈な中、中島歌子の運命も翻弄されていく。前半は甘い恋物語で、後半は凄惨な内紛と復讐が描かれている。徳川慶喜を頼って京都に向かった天狗党を慶喜は見殺しにしたと言われているが、鳥羽伏見の敗戦後、江戸城に戻った慶喜は兄の水戸藩主を江戸城に留め置き、自ら水戸藩の諸生党の重臣を罷免した。それにより天狗党の生き残りは凱旋し諸生党への復讐を開始した。この一連の内紛によって2千人も水戸藩は死者を出している。水戸藩の内ゲバ状態は筆舌に尽くし難いほど過酷だ。イデオロギー論争はイスラム原理主義もそうだけれど、是と非しかない二元論に武器での決着が当然とされる時代の雰囲気の中では敵と認定したものには容赦しない。甘い恋物語かと思ったら重く苦しい時代小説だった。

諸生党の首魁、市川三左衛門の辞世の歌:君ゆゑに捨つる命は惜しまねど 忠が不忠になるぞ悲しき

天狗党の首魁、藤田小四郎の辞世の歌:かねてよりおもひそめにし真心を けふ大君につげてうれしき

中島歌子の和歌:君にこそ恋しきふしは習ひつれ さらば忘るることもをしへよ


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読書感想302  通訳ダニエル・シュタイン

2021-09-17 19:29:36 | 小説(海外)

通訳ダニエル・シュタイン 上下2冊 リュドミラ・ウリツカヤ - 東京 ...

著者      :  リュドミラ・ウリツカヤ

生年      :  1943年

出身国     :  ロシア

出版年     :  2006年

本作での受賞  :  2007年 ポリシャヤ・クニーガ賞、2008年アレクサンドル・メーニ賞

邦訳出版社   :  (株)新潮社

訳者      :  前田和泉

☆☆☆感想☆☆

実在したブラザー・ダニエルのことを描いた小説である。著者はノンフィクションにしようかと考えていたこともあったが小説として実在しない人物や会話、情景などで膨らませてフィクションとしたそうである。しかし、訳者の後書きによればエピソードの多くは実話だという。ブラザー・ダニエルはナチス・ドイツがポーランドに侵攻したときにユダヤ人の両親を失い、弟はイスラエルに逃れ、ダニエルは完璧なドイツ語を話すことから、ユダヤ人とは思われずにゲシュタポに通訳として雇われた。そこでゲットーに収容されているユダヤ人を集団脱走させた。300人のユダヤ人は逃れベラルーシの森の中でパルチザンとしてひっそり戦争が終わるまでかくれていた。ダニエルはその後修道女たちにかくまわれ、そこでカトリックに改宗した。戦後はイスラエルに行くことにしたが、ユダヤ人であってもユダヤ教徒ではないので国籍が与えられず、やっと帰化者として国籍を与えられた。イスラエルではカトリックの修道士として観光ガイドとして働いた。

ダニエルは明らかにカトリックの教義から逸脱していく。カトリックの三位一体の教義を否定していく。父と子と聖霊は一体の神と見る教義。イエスはユダヤ教のラビであり、キリスト教はユダヤ教のプロテスタントだと考える。ポーランド出身の旧知のローマ教皇ヨハネ・パウロ2世がダニエルを不問の付し、ユダヤ教との和解に動き出す。

ここではダニエルのことだけではなく、ベラルーシの森に逃げて生き延びた人たち、特に医者夫婦や女性コミュニスト、彼女が生んだ赤ん坊のことが手紙やインタビューで綴られていく。いろいろな人生が折り重なって展開していく。

ロシア正教会のユダヤ人神父も出てくる。

イスラエルにはいろいろなキリスト教会が存在することに驚かされた。そしてアラブ人のキリスト教徒もかなり存在する。そして旧約聖書の世界がそのままあるのがイスラエルなのだ。

第二次世界大戦中のことだけでも十分に興味深いのにイスラエルへ行ってからも波瀾万丈だ。エルサレムに100年続いたヤコブの原始キリスト教会の再興を夢見たブラザー・ダニエル、キリスト教もユダヤ教もイスラムも神は同じ、一つと考えたダニエルはホロコーストを引き起こした原因と解決を求め続けたということであろう。

たやすくは読めなかったが、読んでよかった。


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映画雑感37  2021年8月

2021-09-04 18:57:01 | 映画

ファヒム パリが見た奇跡 ファヒム

①デンジャラスラン    面白さ(5点満点)☆☆☆ 

             制作:2012年  アメリカ   主演:デンゼル・ワシントン

             コメント:CIAの隠れ家が何者かに襲撃される。新米CIA職員が元CIA職員を連れて逃げる。

             襲撃される理由がいまいちわかりにくい。裏切りが常識と考えないと普通の感覚ではわから

             ない。

②ヒルビリー・エレジー  郷愁の哀歌   面白さ(5点満点)☆☆☆

             制作:2020年  アメリカ   主演:エイミー・アダムス

             コメント:実話を基にしているとか。就職面接を控えたイェール大学のロースクールに通う

             青年が母親がヘロインの過剰摂取で入院したと聞き、故郷オハイオ州へ帰る。最悪な母親と

             の関係を回顧する。ヘロインが蔓延しているのが恐ろしい。

③幸せのジンクス     面白さ(5点満点)☆☆☆☆

             制作:2011年 アメリカ   主演:ケイト・ハドソン

             コメント:気の弱い男と自信のない女が学生時代から相思相愛だったのに告白できずに男は

             女の親友と婚約してしまう。結婚式まであと2か月。こういうタイプは日本人には多いけれど

             アメリカ人にはいない感じだけれど。ダメ男とダメ女がどうなるのか。

④追跡者         面白さ(5点満点)☆☆☆

             制作:1998年 アメリカ   主演:トミー・リー・ジョーンズ

             コメント:容疑者を護送中、飛行機が墜落し容疑者が逃亡する。それを追いかけるFBI捜査

             官。悪を権力機関の中に見ている。もっと単純な構図のサスペンスアクションものでもいい

             かな。 

⑤ブルックリンの恋人たち 面白さ(5点満点)☆☆☆

             制作:2014年 アメリカ  主演:アン・ハサウェイ

             コメント:モロッコでフィールドワークをしていた大学院生が弟が交通事故で意識不

             明の重体という知らせを受けてニューヨークに戻ってくる。彼女の淡い恋。

⑥ファヒム パリが見た奇跡  面白さ(5点満点)☆☆☆☆

               制作:2019年  フランス   主演:ジェラール・ドパルデュー

               コメント:バングラデッシュのチェスの天才児が父親に連れられてその才能を伸ばすた

               めにパリに不法入国する。紆余曲折ののちフランスのチャンピョンになる。実話に基づ

               いているとか。道端で寝ているところを難民センターに引き取られる。正式に政治難民

               として認められるか国外退去になるか決まるまで滞在できる。寝るところも食事も学校

               にも行ける。これはいいシステム。チェスの天才児がとてもかわいい。

⑦必ず捕まえる        面白さ(5点満点)☆☆☆

               制作:2017年  韓国   主演:ペク・ユンシク

               コメント:過去の連続殺人事件と類似した事件が起きる。古いアパートの大家が店子が

               行方不明になったことから事件に巻き込まれていく。活躍するのが老人ばかり。元気な

               老人の物語。

 


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