『そぞろ歩き韓国』から『四季折々』に 

東京近郊を散歩した折々の写真とたまに俳句。

読書感想80  逆説の日本史『16江戸名君編』

2013-06-30 22:13:02 | 時事・歴史書

 



読書感想80  逆説の日本史『16江戸名君編』<o:p></o:p>

 

著者        井沢元彦<o:p></o:p>

 

生年        1954<o:p></o:p>

 

出身地       愛知県名古屋市<o:p></o:p>

 

出版年       2009<o:p></o:p>

 

出版社       小学館<o:p></o:p>

 

価格(文庫版)   676円(消費税別)<o:p></o:p>

 

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感想<o:p></o:p>

 

 ベストセラー「逆説の日本史」シリーズの16回目。<o:p></o:p>

 

 ここでは江戸時代の名君の虚実とともにその思想的なバックボーンとして日本化した儒学、特に朱子学のことを取り上げている。そして世界一の識字率を支えた江戸の文化的背景の中で、幕末に向かって尊王討幕論が大きな流れとなって広がって行く様子が描かれている。<o:p></o:p>

 

 目次は次のとおりだ。<o:p></o:p>

 

1章 徳川光圀の生涯編―武士の「忠義」の対象は天皇か将軍か<o:p></o:p>

 

2章 保科正之の生涯編―王政復古と明治維新へと発展した思想のルーツ<o:p></o:p>

 

3章 上杉鷹山の改革編―名門家臣を断罪した「流血」の覚悟<o:p></o:p>

 

4章 池田光政の善政編―「脱・仏教体制」の潮流と「太平記」<o:p></o:p>

 

    注釈書<o:p></o:p>

 

5章 江戸文化の「江戸的」展開編―俳諧と歌舞伎と落語のルーツ<o:p></o:p>

 

6章 江戸文化の「江戸的」凝縮編―芸術の「大衆化」を支えてきた源泉<o:p></o:p>

 

 水戸徳川家は他の御三家と違って特殊な家だった。忠誠の対象が徳川将軍ではなく天皇だったからだ。水戸徳川家を勤皇の家にすることは家康の遺訓であり、万一の時に徳川家の血統を残す一種の保険だったと著者は指摘している。そして家康は孝と忠を中心思想に置く朱子学の導入に積極的だった。武士の忠の対象はその棟梁である将軍になるはずだったからだ。ところが、家康の目論見はその孫の徳川光圀によって崩された。明が滅亡し日本に亡命した朱子学者朱舜水は、光圀の要請で日本に適応した日本的朱子学を創り出した。それが水戸学である。忠誠の対象は天皇であり、それに忠誠を貫いた大忠臣が後醍醐天皇に尽くし、将軍に背いた楠木正成とされたのだ。水戸学は初めから幕府にとっては毒薬のようなものだった。また同時代のやはり家康の孫にあたる会津藩主保科正之は、「日本は神国である」という神道と朱子学を合体させた垂加神道を創始した山崎闇斎の弟子であった。朱子学によって神道を理論化して日本独自の国民統合の原理を創ろうという機運の中で、神道と朱子学の合体という新しい思想が生みだされたのだ。保科正之は、明治維新に先立つこと200年前に会津領内で神仏分離を図り、本来併存できない神仏習合を否定した。200年後には宗教面だけでなく、政治面でも朝廷と幕府の習合、併存が否定され幕府は亡びることになる。<o:p></o:p>

 

 江戸時代の初期から始まった「神儒(神道と儒教)合一」は国民統合の原理になり、幕末の尊王討幕論、明治時代の廃仏希釈の思想的なバックボーンとなる。その潮流の下地となったものが室町時代に完成した「太平記」の注釈書「太平記秘伝理尽鈔」だ。口伝で語られてきた「理尽鈔」は江戸時代の初期に木版印刷されるとベストセラーになり、ほとんどの学び手が儒教の手ほどきを「論語」などの素読から入ったのではなく、この「理尽鈔」から入り、武士階級の教育は「太平記」を音読し解釈し講義する「太平記読み」と言われる人々によってなされたという。<o:p></o:p>

 

 また江戸時代の識字率の高さ(男性の40%から60%)は、遡ること400年前に出来上がった「平家物語」に源を求めている。音曲に合わせて語るというスタイルが文盲の人々にも易しく歴史や宗教観を共有させることができ、かつ音読から入ると文字の習得が早くなるからである。

 

「フランスなどヨーロッパ社会では、まず政治への市民参加が始まり、市民が主役となったところで大衆文化が発達した。日本はちょうど逆で、大衆文化の発達が市民の政治参加への道を開いたのである。もちろん、同じアジアの中でも、こんな国は他にない。このことも実は日本史の大きな特徴の一つなのである。」

 これは著者の瞠目すべき問題提起であろう。尊王論が生みだされた、長い時間をかけた文化の厚く切れ目のない土壌のことを言っているのだ。

 著者は毎回歴史に対する新しい切り口を見せてくれる。今回も期待に十分応えた、面白い内容だった。

   
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四季折々88   八王子城跡9

2013-06-30 10:49:57 | まち歩き

御主殿跡から城山林道へ下る。林道は古道の対岸にある道で、江戸時代に造られたもの。城山林道は城山川の上流に沿って圏央道の八王子城跡トンネルを越えて続く。

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御主殿跡から林道に下る道。歩きやすく整備されている。

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下方に林道を臨む。

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林道から見た城山川のせせらぎ。

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林道に集まって野鳥の撮影をしている人々。野鳥が現れるのを待っている。高齢者ばかり。

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城山川の上流に向かって林道を行く。

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通る人もいない道で、だんだん草原状になってくる。

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周囲には薄も見える。

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ネムノキ(?)。

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青シソ(?)。

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山林保護の掲示板。

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国有林が続く。

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熊や猪が跳梁跋扈する山の中になってきたので、引き返す。

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翻訳   朴ワンソの「裸木」25

2013-06-28 15:27:13 | 翻訳

 

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翻訳   朴ワンソの「裸木」25<o:p></o:p>

 

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            7<o:p></o:p>

 

 翌日もまたその翌日もオクヒドさんの席は空いていた。彼がいない一日は持て余すほど長く感じられ、彼の独特の愚かではないが善良な視線と、ふと目と目が出会った苦しい喜びを、どうしても取り戻すことができないまま、遠い所へ消えてしまったという絶望にさいなまれる間に、夕方になってしまった。<o:p></o:p>

 

 泰秀とは朝ちょっと目と目が合っただけだ。<o:p></o:p>

 

「オク先生のお宅、調べた?」<o:p></o:p>

 

 私の質問に曖昧に頷いただけで別におしゃべりをしなくてほっとした。<o:p></o:p>

 

 今日に限って絵を取りに来る米軍兵士がことごとく大小の言いがかりをつけようと入って来た。私は少し愛嬌を振りまけばそのまま押し付けられるものまで、言い返すのが面倒でことごとく描き直してあげると言って容赦なく絵描きに戻した。<o:p></o:p>

 

「あ、ミス李。今日はどういうことだい? 師走の繁忙期に雑煮の材料も用意できずに、それで遊び女を描いたナイロンの風呂敷で、うちの家族が並んで首を吊る様子を見るのが気持ちいいかい?」<o:p></o:p>

 

 思いがけなく突き返されるものの中には、銭さんのものが一番多く、仕事口の危ない彼が突き返されたスカーフを自分の首にかけて、げぇっと締めるふりまでしながら是非を訴えるや、他の絵描き達も落ち着かなくなった。<o:p></o:p>

 

 私はそんな声を耳元で聞き流してショーウインドーに吊ってある灰色の幕の片隅を持ち上げた。<o:p></o:p>

 

 外では雪が降っていた。降りしきる雪は時々ガラスに強く当ったりしたけれど、ガラスに当てた私の頬にはつかなかった。<o:p></o:p>

 

 薄くてもガラスの窓が間にあるので、私はしばらくガラスに頬を当てたまま、雪のかけらが頬につくことを、そして雪が降るときのシャクナゲの花のような嬉しさが、もう一度私に訪れることをいらいらしながら望んだ。<o:p></o:p>

 

「ミス李、お客様が来ました」<o:p></o:p>

 

 陳さんが私を呼んだ。<o:p></o:p>

 

 私は再びテーブルへ行って写真を受け取り、目の色、毛髪の色、服の色、そんなことを尋ねて、取りに来る日取を記入しながら、こういうことがつまらなく気が狂いそうだから私を助けてくれという絶叫を、奥歯の間でかろうじて押しつぶした。<o:p></o:p>

 

 絵描きたちはやや低く言った。<o:p></o:p>

 

「ミス李、今幕の後ろで泣いたんじゃない?」<o:p></o:p>

 

「泣くよ。まだ幼い人をあんなに激しく追いつめたから…ちぇっ、ちぇっ」<o:p></o:p>

 

「こんちきしょう、自分は関係ないようだ」<o:p></o:p>

 

 時折彼らはどういうわけかこのように善良になる。今日はまるっきり我慢できなかったからだ。<o:p></o:p>

 

 魅力的な雪原の中の少し離れた所に泰秀が体をすくめて私を待っていた。私は一気に彼の元に駆け寄った。<o:p></o:p>

 

 片方の肩に担いだ郵便配達の鞄のように野暮ったく大きい鞄の中で空っぽの弁当箱が騒がしくがちゃがちゃと音を立てていた。<o:p></o:p>

 

 私は駆け寄った泰秀の腕にしっかりぶら下がった。彼は少しよろよろしながら憂鬱そうに笑った。私は彼の腕にぶら下がったまま、軽く雪の上で滑ってわけもなくくすくす笑った。

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