『そぞろ歩き韓国』から『四季折々』に 

東京近郊を散歩した折々の写真とたまに俳句。

読書感想263  帰郷戦線

2019-06-28 23:49:43 | 小説(海外)

帰郷戦線―爆走―

読書感想263  帰郷戦線

著者      ニコラス・ペトリ

生年      不明

出身国     USA

出版年(USA) 2017

邦訳出版年   2018

出版社     (株)早川書房

国際スリラー作家協会賞・バリー賞最優秀新人賞受賞

訳者      田村義進

☆☆感想☆☆

これは帰還兵の物語である。911の同時多発テロのあと、海兵隊に志願してアフガニスタン、イラクと8年間最前線で戦ってきたピーター・アッシュ元中尉はPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症し、建物や狭い空間の中に入ったとたんに発作がおき、除隊後も街に住むことができずに、1年間山の中で暮らしていた。そんなピーターがラストベルトのミルウォーキーにもどってきたのは、かつての部下ジミー・ジョンソンが自殺したという連絡を受けたからだ。ジミーも戦場から戻ってきてからアメリカ社会に適応できず、職を転々としていた。ジミーの遺族の力になろうと崩れかけたポーチを直しに行ったところ、床下に住み着いている猛犬を処分するように頼まれ捕獲した。するとそばにトランクがあり、その中に40万ドルの現金と爆薬があった。誰の金なのか。

この物語の主要人物はみな帰還兵である。ジミーが最後に働いていたバーの持ち主のルイス、ピーターを取り調べる刑事リプスキー、ジミー一家を見張る男たち、行方不明の元海兵隊員、そして退役軍人センターのスタッフのジョシー。

愉快なのは猛犬とのエピソードだ。ピーターを食い殺そうとした犬がすっかりなついてしまうのだ。最初から殺処分を考えなかったピーターの命を大切にする姿勢は、人間だけでなく、動物の信頼も勝ち取っている。名前もジャズマンに由来するチャールズ・ミンガス。

第2次世界大戦でもベトナム戦争でもなく2001年の同時多発テロから始まった戦争が小説の背景にある。最近の戦争なのにもう小説のテーマになるほど、アメリカ社会の分断の縮図になっているのかもしれない。軍隊に入る若者が貧しい階層の出身者になっているという。

オバマ政権や今のトランプ政権でも地上軍の派遣を躊躇する一端は、帰還しても報われない兵士たちの状況があるのかもしれない。

ピーター・アッシュの活躍は現在4冊目までシリーズ化している。ニューヒーローの誕生だ。

 

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読書感想262  蜜蜂と遠雷

2019-06-07 22:15:42 | 小説(日本)

ギャラリー浜松国際コンクール

読書感想262  蜜蜂と遠雷

著者   恩田陸

生年   1964

出身地  宮城県

出版年  2016

出版社  (株)幻冬舎

直木三十五賞、本屋大賞 受賞

☆☆感想☆☆☆

ピアノのコンクールをテーマにした作品である。コンクールにエントリーする候補者たち、彼らを取り巻く人々。その中には彼らの恩師や同じ師に師事した先輩ピアニストの審査員もいる。そして候補者たちの背負っている背景から繰り広げられるピアノ音楽の多様さが、聴衆も読者も魅了する。コンクールの舞台は実際の浜松国際コンクールを模した芳ケ江国際ピアノコンクール。芳ケ江国際ピアノコンクールはピアニストの登竜門として世界中から才能ある若者を呼び寄せている。コンクールは最初に世界各地でエントリーしたピアニストの生演奏での選抜から始まる。パリのエントリー会場に現れたのは、16歳の風間塵。今は亡き巨匠ユウジ・フォン=ホフマンの推薦状を持った彼は音楽学校に在籍していたわけでもなく、コンクールに出場した経歴もない。自宅にピアノすらないという。彼の生み出す音はすさまじい。喝采と反発の中で風間塵は出場権を獲得、芳ケ江へやってくる。芳ケ江国際コンクールは第1次予選、第2次予選、第3次予選、本選と続く。風間塵と競うのは、栄伝亜夜20歳。天才少女としてデビューしながら母の死後ステージでピアノが弾けなくなっていた。楽器店勤務のサラリーマン高島明石28歳。かつての天才少年は思い出としてコンクールに参加。そしてニューヨークからやってきた優勝候補のマサル19歳。

様々なピアノ曲が演奏されるなか、弾き手によって生み出される世界の違いを、著者が音ではなく筆で描写するのが素晴らしい。音楽に対する著者の愛情が伝わってくる。

風間塵のバルトーク3番について著者は次のように描写する。

―なんと言えばいいのだろう。すごくよく通る、美しい声が森の中から響いてきたかのような。-

もう一度ピアノの名曲を聴きなおしたくなってくる。


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四季折々923  新緑の津久井湖城山公園

2019-06-04 23:09:50 | まち歩き

新緑の津久井湖城山公園。

入口にはパンジー。

ケシ(?)も。

紫蘭。

エゴノキ。

イチゴの類。

アザミ。

コナラ。

クヌギ。

クマシデ。

ウツギ。

丹沢の山々を望む。

「地の上にてわが手ふれゐるこの欅は高みの梢(うれ)へ芽ぶきつつあり」

(木下利玄 1886年~1925年) 


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