『そぞろ歩き韓国』から『四季折々』に 

東京近郊を散歩した折々の写真とたまに俳句。

読書感想274  西郷の首

2019-12-29 19:17:27 | 小説(日本)

読書感想274  西郷の首

著者      伊藤潤

生年      1960

出身地     神奈川県横浜市

出版年月    20179

出版社     (株)KADOKAWA

☆☆感想☆

 幕末から西南戦争の時期まで二人の加賀藩の足軽の青年の歩みを時代の流れの中で描いている。幕末の加賀藩も遅ればせながら西洋式兵学校壮猶館を創設し、近代化に努めるようになる。2人の足軽の青年、一郎と文次郎もその壮猶館に通うようになり、幕末動乱の中に巻き込まれていく。水戸脱藩天狗党の討伐に駆り出された加賀藩は彼らを預かることになり、2人も天狗党の人々と親しく交わるようになる。天狗党は幕閣の移行で死罪となる。開国派と尊王攘夷派の対立が加賀藩の中まで持ち込まれ、二人の親しい尊王攘夷派の藩士が粛清される。そして、戊辰戦争のときには、薩摩と長州について戦ったが、明治政府の中で要職は与えられず、武士は困窮していく。幕末に尊王攘夷派を粛清した重役も暗殺される。それでも尊王攘夷派の不満は解消されない。文次郎は陸軍に入り、西南戦争に出兵する。一郎は薩長藩閥政府に反発して武士の反乱に共感していく。

 幕末ものでは、薩摩藩長州藩、対立する幕府や会津藩の人々を主人公にするものが多いが、加賀藩を舞台にするものは初めてだ。武士の時代というのは何でも力で黒白をつけようとする心情に殉じる時代だ。負けるとわかっていても武器を手に取らないではいられない。西南戦争の終わりは武士の時代の終わりだが、その心情は第二次世界大戦の敗北まで連綿とつながっている。

 加賀藩の悔しさが、会津藩の人々ほど切実に感じられないので、武器を手に取る気持ちがいまいちわからない。それがこの小説の残念な点だ。加賀藩は幕末において脇役だから、悲劇性がないし、共感も得られにくい。


にほんブログ村

にほんブログ村 写真ブログへ
にほんブログ村


読書感想273  週末

2019-12-18 12:13:01 | 小説(海外)

著者      ベルンハルト・シュリンク

生年      1944

出身国     ドイツ

出版年     2008

邦訳出版年   2011

邦訳出版社   (株)新潮社

訳者      松永美穂

☆☆感想☆☆☆

 かつて赤軍派のテロを首謀した男イェルクが、金曜日に大統領の恩赦を受けて、24年ぶりに出所した。イェルクの出所祝いに姉のクリスティアーネは週末に郊外の古い屋敷に弟の大学時代の友人を招待した。イェルクの息子とは音信不通である。屋敷に滞在するのは友人と関係者。ジャーナリストのヘネー。学校教師のイルゼ。デンタルラボ経営者のウルリッヒと妻と娘のドーレ。牧師になったカリンと博物館勤務の夫エーバーハルト。イェルクの弁護士のアンドレアス。イェルクを革命運動に再び引き込もうと考えているマルコ・ハーン。クリスティアーネの友人で同居人のマルガレーテ。そして最後に登場するのがゲアト・シュヴアルツと名乗る美術史専攻の学生。革命の大義のために4人も殺害し、銀行強盗を働いた元テロリストになんと声を掛けたらいいのか、最初は戸惑っていたが、核心は一つだった。ウルリッヒが先鞭をつけた。「ところで最初の殺人はどうなんだ、イェルク?そのことを・・・」彼は過去の行為についてイェルクがどう思っているか聞きたいと思っている。しかし常識的な思いやりを持つ人々に押しとどめられる。イェルクはイェルクで24年前に山荘にいることを警察に密告した人間を確かめようとしている。赤軍派のテロの犠牲者の中には、自殺したテロリストのヤンや、イェルクの自殺した妻もいる。イルゼはヤンは実は生きているのではないかと考えてヤンの物語を屋敷の中で綴っている。イェルクが忘れた、罪を償った、あれは戦争の時の殺人だと抗弁しても、絶対に許さないのは犠牲者の立場に立つ人々だ。大統領の恩赦についてのスピーチでイェルクの現在の状態について集まった人々は知ることになり、イェルクも建前ではなく本音で語ることになる。週末は終わった。

 訳者のあとがきには実際にドイツの赤軍派のメンバーのクリスティアン・クラーが2008年に大統領の恩赦で釈放されているが、著者は本作のモデルではないけれども、執筆中にクラーのことをよく考えたと述べているとある。

本作は重いテーマなので手に取るのが躊躇われた。政治的な判断ミスはそこら中に転がっている。テロというのは短絡的で致命的だ。そして償いきれないものだ。こんなパーティーに招かれたくないとつくづく思った。 


にほんブログ村

にほんブログ村 写真ブログへ
にほんブログ村


四季折々942  晩秋の津久井湖城山公園

2019-12-06 20:09:38 | まち歩き

もう冬だけれど山はまだ秋の気配の漂う天気の良い日。

パークセンターのそばのイチョウ。

ピラカンサス。

ススキももう終わり。

遠くの山々を望む。

イロハモミジの紅葉。

「金色のちひさき鳥のかたちして銀杏ちるなり夕日の岡に」(与謝野晶子1878年~1942年) 


にほんブログ村

にほんブログ村 写真ブログへ
にほんブログ村