不便なコンビニ(三角おにぎりの用途)3-4
韓国語学習のための翻訳で営利目的はありません。
著者:キム・ホヨン
気が付くとドッコさんが倉庫のドアを開けたままソンスクを見下ろしていた。
ドッコさんは静かに近づいてソンスクに手を差し出した。彼女は彼の手を掴んで立ち上がった。すぐにちり紙をひとつつみ掴んだ彼の手がソンスクの目前に入ってきた。ソンスクは彼がくれたちり紙で涙と鼻水をぬぐった。唾も拭いた。それでも中から何かがしきりに溢れ出るようで深呼吸をするように息を鳴らさなければならなかった。
ドッコさんに連れ出されて外に出ると、明るい朝の日の光がコンビニのガラスを通っていた。ドッコさんは飲み物コーナーに行くとトウモロコシ髭茶を一つ持って来た。
「落ち着く時はトウモロコシ・・・トウモロコシ髭茶いいです。」
これがどんなポップコーンが飛び出す音なのか、困惑している彼女にドッコさんがトウモロコシ髭茶を取って渡した。ソンスクはしばらく彼女の前に置かれた好意を眺めていて結局受け取って飲んだ。何としてでもこみあげるものを抑えなければならなかった。彼女はトウモロコシ髭茶を真夏の生ビールのようにごくごくと飲んだ。
渇きが収まってしまうとソンスクは自分を持て余して大騒ぎした。ドッコさんは待っていたようにそんな彼女の言葉に熱心に耳を傾けた。カウンターに立ったままでソンスクは、涙をぬぐいながら呆れた有様になった息子について、堰を切ったようにぶちまけ始めて、向き合っているドッコさんはうなずきながら彼女のうっぷんが混じった嘆きを聞いてくれた。 「到底理解できないです。そもそも安定した職場を放り出して、異常なことにはまって人生を無駄にしているでしょう? 株や映画製作、全部賭博のようなことじゃない?そもそも息子はどこから間違ったの?」
「そのこと・・・まだ若いじゃないですか。」
「今30ですよ。30!人の役目を果たせない30歳のプータローと違わないです。」
「ところで息子さんと話を・・・してみましたか?」
「私の言葉なんか聞きもしないです。うんざりして避けていますよ。数えきれないほど引きとめて話したんです。ところが、息子は私を無視して今は避けています。あいつには私はお手伝いでなければ下宿の主人に過ぎないんです!」
「息子さんの話をまず・・・聞いてみてください。今見ると息子さんが、話を聞かないにしても・・・ソンスクさんも息子さんの話を・・・聞かないようです。」
「何ですって?」
「今私の話はよくお聞きになるけれど・・・息子さんの話も聞いてみてください。なぜ・・・会社を辞めたのか・・・なぜ株をしたのか・・・なぜ映画を作ったのか・・・そんなことです。」
「聞いたら何ができるの!全部自分がしたいとおりにしてつぶれたのだから。今私に話もしないから。」
「それでも話すことがあることは・・・あるじゃないですか?」
「まあ・・・もう3年前ですね。会社を辞めると言うのでかんかんになっておこったのよ。大企業を頑張って入って、なぜ辞めるのと。」
「なぜ辞めるのか、それで・・・わかりましたか?」
「わからないんで。」
「もう一度訊ねてみてください。なぜ・・・辞めるのか。なぜ・・・大変だったのか。小母さんの息子さんだけがわかっているじゃないですか。小母さんも息子さんのことだから・・・知らなければならないです。」
「本当に辞めたのか頭ごなしに叱ったんです。どうして辞めたのか訊ねても言葉を濁すのでただ我慢していただけです。しかし、それで叫んでしまったのです。自分の父親が突然家出したようにそういうことです。」
ソンスクはあたふたと自分の話をぶちまけた。同時に自分の目の縁が湿っていると感じて、男にその姿がどのように映っているか、やっと思い浮かんで努めて涙を我慢した。男は表情をぴくっとさせて、しばらく熱心に考えていて、急にソンスクに丁寧な微笑を向けた。
「怖がっていらっしゃいますよね。息子さんが・・・お父さんのようになるかもしれない。」
ソンスクの涙がぴたりと止まった。続けて我知らずに頷いた。
「私の話はそのことです。息子だけは違って大きくなったと思っていたのに・・・私が間違って育てたようです・・・。私なりに最善を尽くしたのに息子は何もわかってくれなくて・・・毎日部屋でゲームばかりして・・・・ああ。」
ドッコさんがもう一度ちり紙のかたまりをソンスクに渡した。彼女がそれで涙をぬぐっているとお客さんが入ってきた。ドッコさんは倉庫に向かい、ソンスクは態度を改めてからお客さんに応対するためにレジに向かった。
お客さんが出て行きドッコさんが再びソンスクの前に来て立った。彼女は今少し気が静まったので彼に向かってぎこちない微笑を見せた。
「私の話が多すぎたでしょう?あまりに手に負えなくて・・・どこも訴えるところもなくて・・・。ドッコさんが聞いてくれて少し気分がほぐれたようです。ありがとう。」
「そのことです。」
「何がですか?」
「聞いてあげれば気分がほぐれます。」
ソンスクは目をまん丸く開けて前に立つ男の言葉を傾聴した。
「息子さんの話も聞いてあげてください。そうすれば・・・気分がほぐれます。少しでも。」
やっとソンスクは自分が一度も息子の話をほとんど聞いてやらなかったことに気づいた。いつも息子が自分の望むとおりに生きることだけ望んで、模範生として過ごしていた息子がどんな悩みや苦しみで母親が敷いたレールから離脱したのかは聞かなかった。いつも息子の脱線について問い質すことに忙しく、その理由なんかは聞いている余裕がなかった。
「このこと・・・。」
ドッコさんがすぐに何かをカウンターに置いた。三角おにぎりツープラスワンセットだった。疑わしい表情で眺めるソンスクにドッコさんが歯をむきだして笑った。
「息子さんに持って行ってあげてください。」
「息子にですか?・・・どうして?」
「チャモンがそうなんですが・・・ゲームをしながら・・・三角おにぎり・・・食べるのがいいと言うんです。息子さんのゲームの時・・・あげてください。」
無言でドッコさんが置いた三角おにぎりを見下ろすソンスクの耳にドッコさんのつぶやきが聞こえてきた。
「でも三角おにぎりだけあげては・・・駄目です。手紙・・・一緒にあげてください。」
ソンスクが頭をあげてドッコさんを眺めた。ドッコさんがソンスクをまっすぐに見ていたが、彼女にはそんな彼が本当にゴールデンレトリバーのように見えた。
「息子さん・・・しばらく聞いてあげられなかった、今聞いてあげるつもりだから、話してくれと・・・手紙に書いてください。そして・・・そこに三角おにぎり・・・載せておきます。」
ソンスクはドッコさんが渡した三角おにぎりをもう一度見下ろしながら唇をかみしめた。ドッコさんがズボンの財布からくちゃくちゃの千ウォン紙幣3枚を取り出した。
「私のおごりです。はやく・・・読み取ってください。」
ソンスクは上司の指示に従うようにドッコさんが指示するまま三角おにぎりにバーコード読み取り機を当てた。ぴい、音とともに「決済が完了しました」という機械音が聞こえると、彼女の頭の中を複雑に行き来していた不安感が完了した気分だった。人の代わりに犬を信じるソンスクは、善良な大きな犬のように見えるドッコさんの言葉にもう一度頷いた。
ドッコさんが歯をむきだしながら笑ってコンビニを出て行った。ちりん。ベルが鳴った瞬間ソンスクは自動反射のように三角おにぎりの下に置く手紙の内容が浮かび始めた。