著者 : 佐々木譲
生年 : 1950年
出身地 : 北海道
出版年 : 1989年(平成1年)
出版社 : (株)新潮社
受賞歴 : 山本周五郎賞 日本推理作家協会賞
日本冒険小説協会大賞
☆☆感想☆☆
日本が太平洋戦争(第二次世界大戦)に参戦するきっかけとなった真珠湾奇襲攻撃をめぐるスパイ戦がテーマになっている。日本海軍による真珠湾奇襲作戦は、現在では米国政府やルーズベルト大統領も相当の確度で予想していたと言われている。真珠湾攻撃の情報を得ていたにも関わらず、重要性が認められず、あるいは故意に無視されて、日本海軍の真珠湾奇襲攻撃を米国は許してしまったのである。著者の「はしがき」によれば、米国の情報収集工作の中で「グーフボール」という米国海軍情報部が日本国内に作り上げた諜報網が日米開戦前に存在していたという。ゾルゲ事件の一斉摘発の前後に「グーフボール」も解体したが、「フォックス」のコードネームで発信された暗号電は1941年11月26日に択捉島(えとろふ島)単冠湾(ひとかっぷ湾)から最後に発信された。この中で日本海軍の機動部隊がハワイに向け出港したことを告げていた。真珠湾奇襲攻撃は12月7日である。
登場人物は多数いるがその一部は次のとおり。
斎藤賢一郎 ~ スペイン内戦に国際義勇軍の一員として参
戦した日系2世の米国人。
スレンセン ~ 東京の教会の米国人宣教師。日中戦争の最
中南京で恋人の中国娘が殺される。
テイラー少佐 ~ 米国海軍諜報部所属。
H・J・アームズ ~ 米国大使館一等書記官
金森(金東仁)~ 慶尚南道出身の朝鮮人。
岡谷ゆき ~ 択捉島の駅逓の20代の女主人。ロシア人と
の間の私生児。
宣造 ~ 千島アイヌ(クリル人)の青年。ゆきの下で働い
ている。
磯田茂平軍曹 ~ 憲兵隊に所属し、スパイを追って北上
する。
浜崎真吾中尉 ~ 択捉島の海軍天寧飛行場に配属されて
いる。
択捉島東海岸の単冠湾にひそかに集結した連合艦隊がハワイに奇襲攻撃に向った。機密は保たれたはずだった。択捉島は自動車が通れる道もなく、島内は馬で行き来するしかなく、函館から千島丸という定期船が択捉島に来る以外に外部との往来もままならない。連合艦隊30隻が集結する前後から、本土との通信電話は不通になり、西海岸から東海岸への行き来も禁止され海軍の兵士が監視にあたっている。単冠湾への出入も禁止された。この厳戒態勢のなかでどうやって択捉島に潜入し情報を送ることができるのか。手に汗を握る展開だ。今は北方領土で択捉島に行く機会もないので、真珠湾への出撃港だったことはあまり知られていない。農業には不適な土地と書いてあったが、自然が豊かで馬が交通手段というのは夢がある。行ってみたくなる。著者がなにかのエッセイで書いていたが、両親が択捉島からの引揚者で、札幌に住む叔母たちも択捉島に住むロシア人と交流していたという。風土についていろいろ聞いていただろうから、本書を書くきっかけになっているだろう。土地の人にとっては連合艦隊が集結したのも末代までの語り草だったことだろう。