『そぞろ歩き韓国』から『四季折々』に 

東京近郊を散歩した折々の写真とたまに俳句。

読書感想246  模倣犯

2018-10-11 23:31:20 | 小説(日本)

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読書感想246  模倣犯

著者   宮部みゆき

生年   1960年

出身地  東京都

出版年  2001年(平成13年)→2005年(平成17年)

出版社  小学館 → 新潮文庫

受賞歴 毎日出版文化賞特別賞 司馬遼太郎賞 

芸術選奨文部科学大臣賞

 

☆☆感想☆☆

 本書は宮部みゆきのベストセラー小説である。テレビドラマ化もされた作品。残念ながらテレビドラマは最後の30分ぐらいしか見られなかったので、是非原作を読んでみようと思っているうちに歳月を重ねてしまった。今回やっと本書を手に取った。文庫5冊の大部な小説で大変だと思ったが、一気に読んでしまった。事件と関わりのある人物が次々に語り部となって進行していく。語り部のトップバッターは塚田真一。隅田川の川岸にある大川公園に犬の散歩で訪れて、切断された手を発見。次の語り部はお豆腐屋さんの有馬義男。孫娘の古川鞠子が行方不明。そして語り部は事件の担当の武上刑事へ移っていき、事件が進展していく。行方不明者の記事を書こうとしているルポライターの前畑滋子、そして犯人の一人、栗橋浩美、共犯とされた兄、高井和明の無実を信じる高井由美子。そして連続誘拐殺人事件の主犯、ピースにと続いていく。事件は劇場型犯罪の様相を呈してくる。自分の作りだした連続誘拐殺人事件に多くの観客を呼び込むべく、テレビのニュース番組に犯人が電話をかけてくる。声の特定ができないようにボイスチェンジャーを使用する犯人が、二人いるということに気付くのは、孫娘の情報を知らせるという犯人からの電話で東京中を引っ張りまわされた有馬義男。ここがひとつの山場になる。また、登場人物それぞれの人となりや心理状態は納得がいくが、主犯のピースはあまりに突飛で異常すぎるから、リアルティにかけてしまう。犯罪者の人格崩壊が常人の理解できる範囲にとどまっていれば、読者も理解とある種の共感を抱ける。完全な異常人格が出現すると、お手上げだ。しかし、面白かったし、宮部みゆきの筆力には感心した。(2018.9.30) 


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読書感想243  黎明に起つ

2018-09-16 08:57:23 | 小説(日本)

 復興天守小田原城

読書感想243  黎明に起つ

著者      伊東潤

生年      1960年

出身地     神奈川県横浜市

出版年     2017年 

出版社     (株)講談社

☆☆感想☆☆

北条早雲のことを描いた小説である。少年時代から,関東に下り相模の国を獲得するまである。ここでは北条早雲とは名乗らず、伊勢新九郎盛時、のちに主筋にあたる堀越公方の足利茶々丸を攻め滅ぼしたことから、出家し僧形の早雲庵宗瑞と名乗る。この小説では、北条早雲の最新の研究成果を踏まえて、新しい宗瑞像、つまり早雲像を作りだそうとしている。史実で明らかになったことは、北条氏は2代目の氏綱から北条氏を名乗っていること。早雲は北条ではなく、伊勢だったこと。伊勢宗瑞の出身が、素浪人ではなく、足利幕府の政所頭人の伊勢氏の一族で備中伊勢氏であること。伊豆にいた堀越公方の足利茶々丸を攻めたのは足利幕府の管領細川政元や将軍足利義澄と連携した作戦だったこと。また享年は64歳で通説の88歳ではないこと。今ではこれが定説になっている。

この小説の中では下克上がすさまじい。応仁の乱で子供時代に実兄と一騎打ちになり殺してしまうことから始まる。そして関東に下ってからは連携していた細川政元や足利義澄が目先の利害のために伊勢宗瑞を裏切ったことから、生き残るために宗瑞も彼らと袂をわかって自立していく。裏切りのない関係は宗瑞が当主の座につかせた甥の竜王丸が率いる今川家とだけ。関東の情勢は目まぐるしい敵と味方の合従連衡で、戦につぐ戦の日々。合戦の地名もたくさん出てくる。津久井とか椚田とか。現在でも残っている地名もあるが、いまでは消えてしまった地名も多い。地理的に理解するためにも、現代の地名を(  )の中にでも付け加えてもらえればわかりやすかっただろう。伊勢宗瑞が編み出した新しい戦術や治国の方針は面白いが、重要でない(?)戦いの詳細とか一騎打ちは省略したほうが読みやすくなるのではないか。相模の国や武蔵の国には北条氏ゆかりの土地やものが残っている。そうした歴史散歩のお供になる本でもある。


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読書感想240  維新と戦った男 大鳥圭介

2018-08-22 22:18:45 | 小説(日本)

 

 

読書感想240  維新と戦った男 大鳥圭介

作者      伊東潤

生年      1960年

出身地     神奈川県横浜市

出版年     2015年

出版社     (株)新潮社

        「死んでたまるか」の題名で出版。

☆☆感想☆☆

 戊辰戦争のなか、土方歳三とともに函館戦争まで戦い抜いた大鳥圭介の物語。函館戦争では榎本武揚や土方歳三の活躍は知られているが、大鳥圭介という人物はほとんど知られていない。この物語では土方歳三とすべてが対照的な人物としてスポットライトを当てている。大鳥圭介は播州赤穂の医者の家に生まれ、岡山藩の閑谷学校で学んだ。その後大阪の緒方洪庵の塾で蘭学を学び、医業ではなく兵学の専門家になった。鳥羽伏見の戦いのときには江戸でフランス式の軍隊を作る責任者になっていた。そしてその仏式軍隊の伝習隊2000名を率いて、新選組の土方歳三と合流して北上していくことになる。たたき上げの土方歳三は実戦の指揮官だったのに対して、大鳥圭介は教養豊かな理論的な指揮者である。両者はともに生まれたときからの幕臣ではなく、幕末に能力を見込まれて幕臣になった人達で、むざむざ幕府が薩長に白旗を挙げるのが我慢できなかったのだ。大鳥圭介は伝習隊を最強の軍隊と自負していたし、同じく最強の艦船を持っていると思っていた榎本武揚も志を一つにした。この小説の中で、蝦夷地で新しい国を作ることに、勝海舟も一役買っている。榎本武揚に資金を与え、品川沖からの出航を許している。さらに新政府軍の攻撃の前に勝海舟は黒田了介(清隆)との話はついているから降伏しろと蝦夷政府の大鳥圭介に使者を送ってきたりする。勝海舟の暗躍は事実かどうかわからないがありそうなことだ。

大鳥圭介のもとにフランス軍事教官のブリュネら7人がはせ参じたが、新政府軍の攻撃のまえにフランスの船に乗って退去するように言う場面がある。死ぬ覚悟ができているというブリュネに対して「よせやい。これは、お前らの戦いじゃない。どうして、そこまで付き合う。」

また、土方歳三が大鳥圭介に最後に語った言葉。

「おれは明日、死ぬつもりだ。それゆえ伝えたいことがあって来た。大鳥さん、あんたらは生きろ。榎本やあんたは、この国のために必要な人材だ。おれのような一介の剣客とは違う。あんたらは降伏しても、死罪にはならねえ。おれの首を獲れば、薩長の連中は、あんたらのことなど忘れちまうよ。つまり奴らは、おれが死ねば満足する」徳川反乱軍の象徴こそ土方歳三なのだと大鳥圭介が納得する場面だ。

 新政府軍にたいして劣勢になっていた蝦夷政府のほうは独立国家がだめなら屯田兵として蝦夷地での生存を認めてほしいと懇願しているし、幕臣に蝦夷地を与えてほしいということも勝海舟が交渉の中で取り上げている。そう言う点から見ても、榎本武揚や大鳥圭介が勝海舟などの幕府の責任者と無関係に行動しているわけではないかもしれない。そう思わせるのでこの小説は面白い。そして土方歳三は新しい時代を見つめつつ、古い武士の生き方を貫いてここでも恰好がいい。


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読書感想233  だから荒野

2018-05-07 12:39:11 | 小説(日本)

だから荒野 (文春文庫)

読書感想233  だから荒野

著者      桐野夏生

生年      1951年

出生地     金沢市

出版年     2013年

出版社     毎日新聞社

☆☆感想☆☆

世間的には何不自由のない専業主婦の森村朋美が、夫と二人の息子の身勝手で思いやりのないふるまいに、堪忍袋の緒を切らして家出をする。そしてそれぞればらばらだった心が、やっと互いに向き合うようになる物語。

誕生日祝いのレストランから飛び出した朋美は、乗って来た車で東京から長崎に向かうことにする。長崎には夫と結婚する前に付き合っていたボーイフレンドが住んでいる。夫からは車と車に置いおいてあるゴルフ道具を至急送り返せというメールを届くだけ。大学生の長男から必要なものがあれば言ってくれというメールが届く。ゲーム中毒にかかっている高校1年の次男からは音信もない。PAで置き去りにされた女を親切心から同乗させたことがあだになり、宮島で車を乗り逃げされてしまう。ヒッチハイクをせざるをえなくなり、長崎まで行くという老人と若者の車に載せてもらうことができ、ようやく長崎にたどりつく。

家庭から解放された朋美は自由に楽しく過ごしているが、残された家族、特に夫の森村浩光のおたおたぶりが面白い。みみっちくて自分のことしか考えていないが、世間体から妻の家出を隠さなければならないと嘘を重ねて疲れ果てている。

例えば、長男が女の子に振られたらしく、ごみ箱に指輪やネックレスが捨ててあるのを見た浩光の感想。

「返されたアクセサリーは、捨てないで取っておいて、また別の女の子に使えばいいのに。俺なら、きっとそうする。」

東京から長崎までの長距離ドライブは、何日も泊りがけならしてみたい。そして長崎は悲しみを湛えた人に優しい街というイメージがある。人生のやり直しにはふさわしい土地かもしれない。


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読書感想232  銃口

2018-04-30 20:05:50 | 小説(日本)

 

銃口 (上)(小学館文庫)

読書感想232  銃口

著者     三浦綾子

生没年    1922年~1999年

連載年    1990年1月~1993年8月 

月刊誌「本の窓」

出版年    1994年

出版社    小学館

☆☆感想☆☆

昭和の始め、大正天皇の御大喪の時から終戦後の数年の時期までが、この小説の扱う時代になっている。そして舞台は北海道の旭川、幌志内から満州、朝鮮に及ぶ。それは主人公の北森勇太の小学校3年生の時期から始まる。北森勇太は軍国主義的で天皇崇拝を骨の髄まで叩き込むことを旨とした教師に、ご大喪について書いた綴り方で厳しい叱責を受ける。寒い日だったので、思い出すと「足が冷たくなります」と書いたことに、教師はなぜ深い悲しみを表現しないのかと怒ったのだ。ご真影を飾ってある奉安殿の掃除も写真に尻を向けてしてはいけないとか厳しい訓導を受ける。その後、4年生になって、優しく、自由主義的な坂部先生に担任が変わる。その坂部先生の教え方に感銘を受けた北森勇太は小学校の教師を目指す。そして師範学校を卒業して炭鉱の町に赴任する。そんなある日、同じく小学校教師になっていた同級生の中原芳子に誘われて、札幌の綴り方連盟の会合に出席したことから、北森勇太の人生は暗転する。治安維持法違反の罪に問われ7か月も拘禁され、その後不起訴になり保護観察処分となったが、小学校を依願退職させられていたのだ。天職と考えていた職場を奪われ、また同時期に警察に拘留されていた坂部先生が亡くなったことや、どこでも赤の扱いで働くことができず、満州に行くことを考えていた矢先に召集令状が来て満州に行くことになる。

この北海道綴り方連盟事件は実際にあった事件で、80人ぐらいの教師が治安維持法違反の罪で取り調べを受け、教職から追放されたそうだ。それはすべて秘密裡に行われ、新聞に公表されなかったという。

また、朝鮮人の抗日パルチザンの言葉として語られる日本の悪逆非道な仕打ちが、今では虚偽のプロパガンダだと暴露されているものもある。それを真実のごとく小説の中で取り上げるのは、良心的な日本人の朝鮮人に対する贖罪意識のなせるわざなのだろう。キリスト教徒であり、戦争によって国家によって苦しめられたという意識が強いほど、悪逆非道の日本というフレーズに飲み込まれてしまうのかもしれない。著者がこの小説を書いた時代の日本人の一億総懺悔の雰囲気が伝わってくる。

朝鮮人抗日パルチザンの言葉を一部引用してみよう。

「日本の非道は限りもありません。村々を焼打し、教会に人々を押しこめて焼き殺し、神社参拝は押しつける。国語は取り上げる。名前は変えさせる、強制連行された男たちは過酷な扱いによって、どれほど非業の死を遂げたのか。日本の道路、ダムの下には、殺された同胞の骨が数多く埋もれていると聞いています。彼らは女性を凌辱し、街を歩いていた女や、赤ん坊に乳を飲ませている若い母親、老人の手を引く孫娘を遮二無二、軍の慰安所にぶちこんだではないですか。」

朝鮮半島において村々を焼打ちしたり、教会に人々を押し込めて焼き殺したという話は聞いたことがない。国語を取り上げるということも戦争中に公的機関で日本語を義務化したことだし、強制連行云々は、1944年9月から始まった朝鮮人に対する労務動員、つまり徴用を言い換えているわけである。強制連行という言葉を選択すると、奴隷のような労働現場が思い浮かぶ。徴用といえば、戦時徴用で日本人も動員されている。日本軍が無理やり拉致したという従軍慰安婦の話はすでに破綻している。名前を変えさせたというのも戸籍整備のためで、日本名に変えることを強制していなかった。朝鮮名のままの人もいたが、自発的に日本名に変えた人が多かったということだ。

小説は影響力が大きいので、政治的なプロパガンダに気をつけなければならないし、事実関係を綿密に調べる努力も必要だと痛感した。小学校の授業の様子や生き生きした子供たちのようすなどとても面白かったので、ちょっと残念だった。

三浦綾子の小説なのでキリスト教信仰についてもいろいろ書いてある。登場人物も信仰を持っている人と、理解できない人の会話もあるが、著者には申し訳ないが、そのまま深入りせずに読み飛ばした。


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