『そぞろ歩き韓国』から『四季折々』に 

東京近郊を散歩した折々の写真とたまに俳句。

読書感想338 アリとニノ ユダの季節 世界地図の下書き 堤未果のショック・ドクトリン

2024-03-26 12:13:21 | 小説(日本)

アリとニノの画像世界地図の下書きユダの季節 (双葉文庫)Amazon.co.jp: 堤未果のショック・ドクトリン 政府のやりたい ...の画像

①アリとニノ                               面白さ:☆☆☆☆

 著者:クルバン・サイード(エーレンフェルス  ヌッシムバウム)  

 生年・出身地:エルフリーデ・フォン・エーレンフェルス 1894年 オーストリア 

        レフ・ヌッシムバウム 1905年 アゼルバイジャンのバクー   

 出版年:1937年    邦訳出版年:2001年   邦訳出版社:(株)河出書房新社

 コメント:本書はウィーンで出版されベストセラーとなった。1971年にイギリス人がベルリンの古本屋で見つけてアメリカで出版、2000

      年に再度アメリカとドイツで復刻された。舞台は第一次世界大戦前後のカスピ海沿岸のアゼルバイジャンのバクー。そこには

      イスラム教徒やギリシャ正教徒のグルジア人やアルメニア人が暮らしている。グルジア人の豪商の娘ニノとイランの貴族でも

      あるアリとの純愛物語である。二人はロシアの支配下でロシアの学校に通い、近代的な教養を持っていた。戦争とロシア革命

      にザカフカス地方の民族は翻弄されていく。ロシアからトルコ、そして独立、またソビエトの下に。グルジアの踊りとか、イ

      ランのハーレムの暮らしとか、興味深い場面が多い。著者の一人のヌッシムバウムはイスラム教に改宗したユダヤ人でベルリ

      ンで学業を終えたジャーナリストだ。もう一人のエーレンフェルスはイスラム教に改宗した夫がいる、オリエント趣味の男爵

      夫人である。

②世界地図の下書き                           面白さ:☆☆☆

 著者:朝井リョウ

 生年・出身地:1989年   岐阜県

 出版年:2013年      出版社:(株)集英社

 コメント:児童養護施設「青葉おひさまの家」に預けらている小学校低学年4人と中学3年1人の物語。卒業生のためにランタンをつくって

      飛ばす。自分たちで成し遂げたことは生きる力となる。

③ユダの季節                             面白さ:☆☆☆

 著者:佐伯泰英

 生年・出身地:1942年  北九州市

 出版年:2005年    出版社:KKベストセラーズ

 コメント:スペインを舞台にした冒険小説。主人公はスペイン在住の日本人カメラマン。闘牛を取材している。時はフランコ独裁政権末

      期。妻子を殺された主人公はある日本人がその事件にからんでいることを知る。日本赤軍やETA(バスクの祖国と自由)や政権

      内部の権力闘争が絡んでくる。闘牛やスペインの風土の描写はいいが、スペインの政治がよくわからないこともあり、面白さ

      はいまいち。

④堤未果のショック・ドクトリン                   面白さ:☆☆☆

 著者:堤未果

 生年・出身地:東京都

 出版年:2023年      出版社:(株)幻冬舎

 コメント:ナオミ・クラインというカナダ人ジャーナリストの「ショック・ドクトリン」で著者は目覚めたという。

      ーショック・ドクトリンとは、テロや戦争、クーデターに自然災害、パンデミックや金融危機、食糧不足に気候変動など、シ

      ョッキングな事件が起きたとき、国民がパニックで思考停止している隙に、通常なら炎上するような新自由主義政策(規制緩

      和、民営化、社会保障切り捨ての三本柱)を猛スピードでねじ込んで、国や国民の大事な資産を合法的に略奪し、政府とお友

      達企業群が大儲けする手法です-

      日本の例としては、東日本大震災、コロナパンデミックが危機であり、マイナンバーカードやファイザー・ワクチンの問題点

      が列挙されている。プライバシーが危機にさらされているとか、なりすましが横行しているとか問題は多い。ファイザーのワ

      クチンは有効だったのか心配になってくる。政府と当該企業との癒着がはなはだしいようだ。きちんとワクチンについての総

      括を出すべきだ。


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読書感想337  ①琥珀の夏 ②自白 ③磯田道史と日本史を語ろう ④黒幕の日本史

2024-02-24 00:00:58 | 小説(日本)

黒幕の日本史の画像磯田道史と日本史を語ろうの画像自白 刑事・土門功太朗の画像Amazon.co.jp: 琥珀の夏 (文春文庫 つ 18-7) : 辻村 深月: 本の画像

①琥珀の夏                

 面白さ:☆☆☆☆

 著者: 辻村深月   生年: 1980年   出身地: 山梨県  

   出版年: 2021年  出版社: (株)文藝春秋

 コメント:40歳になる弁護士の近藤法子は「ミライの学校」の跡地から発見された女児の白骨死体が自分の孫ではないかと心配する吉住夫妻の依頼をうけて、東京にある「ミライの学校」の事務所に安否確認に訪れる。「ミライの学校」は子供の自主性とコミュニケーション能力を育てることを目的にして、子供を親から離して集団で生活している施設だった。静岡県の山の中にあった「ミライの学校」は外部の小学生を夏休みの1週間だけ招待した。法子も4年生から6年生まで3年間参加し、そこで幼児の時から集団生活しているミカに会い、友達になった。法子とミカが1章ずつ交互に語って「ミライの学校」と事件の真相があかされていく展開になっている。理想を掲げながら子供の心を無視する異常な雰囲気が立ち込める「ミライの学校」、親はいなくても子供は育つということなのか。疑似宗教団体のような組織なので、現実の宗教団体の子供達を思い浮かべてしまう。

②自白 ー刑事・土門功太朗

 面白さ:☆☆☆☆

 著者: 乃南アサ     生年: 1960年  出身地: 東京都

 出版年: 2010年     出版社: (株)文藝春秋

 コメント:4つの短編からなっている。土門刑事が解決する事件。犯人の異常性が際立つのが「渋うちわ」。

 1.アメリカ淵

  桧原村の秋川渓谷で発見された女性の死体。横田基地の米軍の兵士もよくキャンプに来る所なので、アメリカ淵と呼ばれている。

 2.渋うちわ

  歌舞伎町で60歳ぐらいのちんちくりんの小母さんに儲け話を持ち掛けられた風俗店に勤める若い男。

 3.また逢う日まで

  窃盗容疑者の男女を追う警察。二人は子供を産んで連れて歩いていることがわかる。

 4.どんぶり捜査

  タクシー強盗が連続して起こる。

③磯田道史と日本史を語ろう

 面白さ: ☆☆☆☆

 著者: 磯田道史   生年: 1970年    出身地: 岡山県

 出版年: 2024年         出版社: (株)文藝春秋  文春新書

 コメント:様々なテーマについて14人との対談になっている。

 1.阿川佐和子   「磯田道史」ができるまで

 2.半藤一利    日本史のリーダーを採点する

 3.篠田謙一/斎藤成也  日本人の不思議な起源

 4.堺屋太一/小和田哲男/本郷和人 信長はなぜ時代を変えられたのか?

     5.  酒井シズ   戦国武将の養生訓

 6.徳川家広  徳川家康を暴く

 7.浅田次郎  幕末最強の刺客を語る

 8.杏  歴女もはまる! 幕末のヒーローたち

 9.中村彰彦  「竜馬斬殺」の謎を解く

 10.養老孟司  脳化社会は江戸から始まった

 11.出口治明  鎖国か開国か? グローバリズムと日本の選択

 12.半藤一利  幕末からたどる昭和史のすすめ

 どれも面白いが、「3.日本人の不思議な起源」の中で骨で徳川の正室、側室25人ぐらいを調べた時に、側室の骨格が頑丈ですごく立派なのに対して、正室は華奢で顎も細いという部分、美人かどうかではなく、丈夫さや健康かどうかを基準にして選ばれているとの記述だった。母系をたどることのできるミトコンドリア遺伝子は日本ではアジアにある20以上の系統が存在している。ヨーロッパでは10系統ぐらいなので、日本の多様性がわかるという。また男系の遺伝子をたどることのできるY染色体も多様に残っている。だから騎馬民族のような征服王朝は来なかったと結論付けている。チンギス・ハーン系のY染色体を持つ人が世界中に1600万人いるという研究や、南米ではスペインや西ユーラシア由来のY染色体がほとんどだという研究がある。このように征服者の遺伝子が浸透するのに対して、日本は純血主義で身内、いとこ結婚が多く多様性が保持されてきたそうだ。古代史は推測につぐ推測で科学的な推論がほとんどできない分野だが、ここでは遺伝子を使って科学的に解明されていく爽快さを感じる。

④黒幕の日本史

 面白さ: ☆☆☆☆

 著者: 本郷和人   生年: 1960年    出身地: 東京都

 出版年: 2023年     出版社: (株)文藝春秋  文春新書

 コメント:「ポスト(地位)と実権が必ずしも一致しない。」これは日本の歴史の大きな特徴で、地位と実権が別々である状態は黒幕的な存在を生みやすいと著者は述べている。ここでは「ウラの存在でありながらオモテを動かした人物」だけでなく、「地位と実権、実績に大きなズレのある人」、「重要な役割を果たしたが目立たない存在」を取り上げている。

1.宇多天皇  オモテがウラになる時代

2.信西  世襲の壁が生んだ黒幕

3.北条政子  女人入眼の日本国

4.中原親能  下級貴族、鎌倉へ行く

5.極楽寺重時  京都に学んだ幕府のご意見番

6.海住山長房  後鳥羽挙兵に反対した実務貴族

7.平頼綱  肥大化した側近エリートの末路

8.北畠親房  正統を追求した「黒幕」

9.三宝院賢俊  「錦の御旗」を持ち帰った尊氏の密使

10.細川頼之  室町王権の設計者

11.三宝院満済  将軍への意見を突き返した「黒衣の宰相」

12.黒田官兵衛  「軍師官兵衛」といわれるが・・・

13.千利休  茶の湯と政治

14.高山右近  前田家を救った「意外な黒幕」

15.伊奈忠次  家康から過小評価された民政家

終章。西郷隆盛  「維新の英雄」のウラの顔

知らなかったことが多く面白かった。「5.極楽寺重時」北条泰時の弟で7年間京都の六波羅探題を務めた重時は、法然の浄土宗に帰依し撫民の思想を持つに至った。東国の武士たちは在地地主であり、領民は視野に入っていなかった。もとより貴族たちにとっても地方は収奪の対象でしかなかった。承久の乱ののち朝廷は統治の基を「徳」、人々へのサービスに見出した。裁判を盛んにおこなって、人々のトラブルを解決することに努めた。その京都の影響を受け、撫民の思想を鎌倉幕府に持ち込んだのが重時だ。子供たちに残した家訓の一つ。「百姓をいたわれ。徳もあり、罪もあさし」「15.伊奈忠次」は家康の命で江戸湾に注いでいた利根川を鹿島灘に流れ込む大工事をした人。そして農民に対して様々な勧業政策を行った。蚕を飼うこと、炭を焼くこと、塩を作ることを奨励し、方法を教えた。麻、楮の種なども与えた。農民の暮らしを豊かに楽なものにしようとした。撫民の思想を実現した最初の民政家だという。


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読書感想334  チーム・オベリベリ

2023-11-26 21:27:16 | 小説(日本)

著者   :  乃南アサ

生年   :  1960年

出身地  :  東京

出版年  :  2020年

出版社  : (株)講談社

★☆感想☆☆

本書は北海道帯広地方を開拓した晩成社の苦闘を中心人物の依田勉三の片腕であった鈴木銃太郎と渡辺勝、そして銃太郎の妹で勝の妻のカネの視点から描いたものである。依田勉三は伊豆の素封家の息子であり、実家や親族が株主となった晩成社を作り、伊豆の小作農を集めて北海道オベリベリ(帯広)の開拓に乗り出した。その片腕となったのは信州上田藩の士族出身の銃太郎と尾張徳川家出身の士族勝だ。総勢28名。銃太郎と勝、カネはクリスチャン。カネは横浜のキリスト教系の学校を卒業し母校で教師をしていた。夢を抱いて入植しながらも開墾は進まず、脱落者が出る。依田勉三は晩成社の株主にたいして利益を出さなければならないとの焦りから独断で次々事業を拡げことごとく失敗していく。10年たたずに銃太郎や勝は晩成社から離れていく。カネはアイヌの子供も含めて子供を教育していく。開拓農民と晩成社の関係が小作人と地主の関係の継続のようになっている。最後には4人ぐらいしか開拓農民が残らない。晩成社は事業として失敗したと言えるだろう。

同時期の伊達家の開拓団と比べられないほどまとまりも忍耐力もない。伊達家の開拓団は東北出身で寒さに強い。伊豆出身の開拓民とは寒さに対する耐性が違う。朝敵にされた伊達家の再興を果たそうという一致団結した意志の強さが違う。晩成社には一致団結する目標がない。開拓が容易であれば目標は明瞭になるが、困難が続いて借金地獄に陥れば目標も見果てぬ夢と化す。株式会社で何十年もの時間がかかる開拓事業は無理なのだろう。そんな感想を抱いた。


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読書感想333  眩(くらら)

2023-10-30 14:38:45 | 小説(日本)

著者  : 朝井まかて

生年  : 1959年

出身地 : 大阪府

出版年 : 2016年

出版社 : (株)新潮社

これは葛飾北斎の娘お栄の話である。お栄は幼児のころから北斎に抱かれて北斎の画業の一部始終を見て育った。お栄も晩年には葛飾応為という名前を自作の絵につけている。お栄は北斎が90歳で亡くなるまで北斎工房の助手として北斎の浮世絵の背景や下地部分などを描いている。これはお栄の物語であると同時に北斎の物語でもある。後年お栄も北斎に劣らない天才浮世絵師と呼ばれるようになる。お栄の代表作「吉原格子先之図」は表紙の絵である。ありきたりの浮世絵ではなく斬新な構図で見る者を魅了する。お栄は絵が何よりも好きで絵の下手な浮世絵師の亭主を馬鹿にしてすぐに実家に戻ってきて絵一筋に生きる。北斎のエピソードとして面白いのは富岳36景が描かれた所以だ。大火で江戸の版元も版木を失い倒産の危機に瀕していた。その時北斎の富岳36景を印刷販売することで、版元も北斎も危機を脱したのだ。地方から江戸に来た人のおみやげとして富岳36景の浮世絵が大ヒットした。また地方の富豪が北斎を招いて絵をかかせてくれたり、絵の教授をさせてくれたり、絵を購入してくれたり、パトロンになってくれる人が出てくる。お栄の晩年にもそういう地方のパトロンがいてお栄も世話になっている。地方の富豪が文化交流の場を作っている。出島のオランダ人の依頼で遠近法を修得し、生かしている。江戸時代の後期、幕末にかかるが、豊な文化が花開いているようすがうかがえる。

お栄の物語はテレビドラマにもなっている。ぜひ絵を見に行こう。


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読書感想332  白光

2023-10-30 13:21:11 | 小説(日本)

朝井まかて 白光の画像

著者  : 朝井まかて

生年  : 1959年

出身地 : 大阪府

出版年 : 2021年

出版社 : (株)文藝春秋

これは日本初の女性の西洋画家であり、ロシア正教のイコン(聖像)画家だった山下りんを描いた小説である。山下りんは明治維新で版籍を失った笠間藩の貧乏士族の家に生まれた。藩のしばりがなくなり、絵で身を立てるべく東京に出奔する。第1回目の出奔は失敗に笠間に連れ戻される。第2回目は実家の許しも得て東京で絵を学ぼうとしつつ、師匠とあわず数回師匠を変えることになる。そうしたなか、西洋画を学ぶ機会が訪れる。南画を学んでいた師匠中丸精十郎の紹介で新しく設立された工部美術学校を受験し合格する。そこで初めてイタリア人の教師から西洋画の手ほどきを受ける。工部美術学校の月謝も旧藩主の牧野家から援助されて順風満帆にみえたが、もっと西洋画を学びたい一心で、神田駿河台のロシア正教会の門をたたく。そこで多くの西洋画を見て雰囲気にも魅了され信者になる。そして日本にロシア正教を伝道したニコライ神父の命を受けて、ペテルブルグの女子修道院に留学することになる。日本の信者のために日本人の画家がイコンを描く必要があるとニコライ神父は考えたのだ。5年間の女子修道院での留学の予定が2年で帰国することになる。西洋画の修得か信仰のためのイコンかというジレンマになやむことになる。エルミタージュ美術館のルネッサンス期の絵画と女子修道院での暗いイコンとの違いのなかで、心は前者に体は後者に従わざるを得ない立場で、りんは健康を害していく。帰国後も西洋絵画か信仰かという問題からいったんロシア正教会から離れるが、信仰を再確認してもどることになり、以後はイコン画家として生涯を全うする。

明治時代に日本のキリスト教徒の大多数は北海道、東北各地で布教したニコライ神父の力もあってロシア正教会に属していた。ニコライ神父は1861年に函館に到着し、日本語を完璧に話し、日本の習俗、神も大事にした。ロシアからの多額の援助によってロシア正教会は成り立っていた。それがロシア革命により本国ロシアで禁止され、修道院の修道士、修道女9万人以上粛清された。

そんな時代を山下りんは生きたのだ。1857年から1939年まで。山下りんの作品をぜひ見たい。


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