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『そぞろ歩き韓国』から『四季折々』に 

東京近郊を散歩した折々の写真とたまに俳句。

翻訳  朴ワンソの「裸木」32

2013-08-21 21:09:41 | 翻訳

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翻訳  朴ワンソの「裸木」32<o:p></o:p>

 

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 今日会おうというのは純粋に泰秀の一方的な約束なだけで、私が彼の約束に相づちを打ったことはなかったので、少しも恐縮する理由はなかった。ここまで来たことだけでも、私の意志だったというよりは、ひょっとすると天女の羽衣のような晴着のためだったかもしれない。<o:p></o:p>

 

 昨日12月の大晦日、泰秀は年が替わったことで、まるで幼い子供のようにうきうきしていた。<o:p></o:p>

 

「明日僕たちどこで会う?」<o:p></o:p>

 

「どうして?」<o:p></o:p>

 

「どうしてだと言えば、明日が元旦じゃない? 明日がまさに来年だということさ。またせっかくの休日を、どうしてそのまま過ごせるかい。まず会う。面白いプランは会ってから立てても構わないし。そうじゃない? あそこに来て、ユートピアのこと。10時まで。早ければ早いほどいいんじゃない?」<o:p></o:p>

 

 私は彼の声を聴きながら会おうという気持ちも、会うか会わないかという迷いもなかった。ただ彼が言う来年だということが異常なほどはるか遠くに聞こえた。まるで明日と同じ日ではなく、とても遠い日として感じられて、自分とは関係のないことのようだった。<o:p></o:p>

 

「晴着を着たのに、どこか行く所がなければね」<o:p></o:p>

 

「何? 謝れといったから、また少し誰かを焦らすんだろう」<o:p></o:p>

 

 泰秀が私の冷たい手をよろめくように取って手を重ねていたが、それとなく放してくれた。お茶を運んでくるウエートレスは湯呑茶碗をおいてから、銑鉄ストーブの非常に大きい蓋を開けて、恐ろしいほどかっかと燃え上っている豆炭を、金串で持って2回ほどぶすぶすと突き刺すと、ストーブの下の口をがたんと閉めて行ってしまった。ストーブは全体がばら色にかっかと燃え上っていた。<o:p></o:p>

 

 体が徐々に溶けてきた。鳥肌が立っていた肌に次第に生気が蘇り、温かい珈琲が唇と喉を心地よく湿らせた。<o:p></o:p>

 

 さらに加える必要のない、濃い味のコーヒーだった。次第に彼と差し向かいで座っていることが嫌ではなくなった。<o:p></o:p>

 

「ヘイ、お嬢さん、マッチ」<o:p></o:p>

 

 彼はカウンターに寄りかかって親指とやっとこでこつんと音を出しながら、マッチを頼んでから〈ラッキーストライク〉の新しい箱のテープを引っ張った。<o:p></o:p>

 

「そのありふれたライター一つ買えない?」<o:p></o:p>

 

「わからない。ライターもマッチもなくて、タバコだけ置いて通勤していたけど、ふいにタバコが無性に吸いたくて慌てふためいて、ちょうどタバコの火をぱっと点けた友達に頭を下げて、ちょっと火を借りた。そうやって吐きだしたタバコは天下一品なんだよ。また喫茶店のような所でウエートレスのお嬢さんと自然に言葉を交わすこともできて…」<o:p></o:p>

 

「お祖父さんぐらいの老人にタバコの火を借りようとして頬を打たれたことはないの?」<o:p></o:p>

 

「今までは」<o:p></o:p>

 

 彼はタバコの煙で空中に何個かの輪を描くという技を一生懸命してみせた。一歳年を食っても、分別もなく、軽率さは同じだった。小部屋の中でこっそり父の吸い殻を吸ってみる不良少年性がないので、まったくタバコの味を知って吸おうとしたかさえ疑わしかった。観念上だけれど、泰秀よりは私の方がはるかにたくさんの種類のタバコの味を知っているようだ。私は父の柔軟な喫煙習慣を回想した。私は今まで父のようにうまそうにタバコを吸う人を見たことがなかった。<o:p></o:p>

 

 夏の日、北の窓を開けて、籐椅子にもたれて座り、放心したように茫然としたように楽しんだパイプタバコ。悩みにも閉ざされたような、完全に悩みも忘れたような、見分けがつかない無心な横顔。<o:p></o:p>

 

 オクヒドさんの喫煙する姿も悪くはないけれど、父にははるかに及ばない。彼には深すぎる傷心がある。<o:p></o:p>

 

 絵描きたちも誰もが遜色ない熱烈な愛煙家だけれど、その執着が度外れて恥ずかしく、貧乏くさくみえる。思いもよらない父の回想からは泰秀がちょっとふさわしくなかった。今日こんな盛装しているのに、もう少し重厚な人生がよぎって行った男と向き合いたかった。<o:p></o:p>

 

「僕たちどこへ行こうか? 何か面白い計画ないの?」<o:p></o:p>

 

「どこでも構わないわよ」<o:p></o:p>

 

「映画鑑賞をして、昼食を食べて…また道をぶらついて、思いつくのはこれぐらいだから…」<o:p></o:p>

 

 彼は大きくあくびをした。私もあくびをした。<o:p></o:p>

 

「もっと豊かなやり方はないかい?」<o:p></o:p>

 

「豊かなって?」<o:p></o:p>

 

「別に意味はないよ。ただ何か満たされたい。愛し愛されているという充足感が十分じゃない。僕たちの間にはそれがないんだよ」<o:p></o:p>

 

「当然じゃないの。私たちはお互いに愛し合っていないのだから」<o:p></o:p>

 

「どうか僕を愚弄しないでくれ」<o:p></o:p>

 

 彼の表情からふざけた気配が消えて少年のように純粋になった。私はそれを黙って眺めた。彼が見た目より鋭敏だと推測しながら。<o:p></o:p>

 

 彼の眉間にこもった焦燥と苦悩が、私の視線の中でだんだん濃くなった。私の視線のせいのようだった。しかし、それから視線を外せないまま、彼の焦燥と苦悩が熱病のように私に伝染した。胸が深く痛んだ。しかし、あきれたことに私の痛みは泰秀のためのものではなかった。<o:p></o:p>

 

 私はオクヒドさんを思っていたのだ。白く長い首の彼の妻と5人の子供たち。胡麻油のような香ばしい体臭の元気な末の息子。熱い思慕と深い絶望に耐えられなかった。私は柔らかく豪華な長い結び紐をぐるぐると巻き上げて、再び伸ばす、意味のない手遊びを繰り返した。<o:p></o:p>

 

「出よう。どこかへ」<o:p></o:p>

 

 私はかろうじて歪んだ顔を正して先に立ちあがった。                                                 <o:p></o:p>

 

「もう…」<o:p></o:p>

 

 彼は慌しくテーブルの上のタバコと手袋を取りながら、ちょっと物足りないようについてきた。ウエートレスにウィンクをしないのを見ると、彼も少し深刻だったようだ。<o:p></o:p>

 

 首都劇場で「帰郷」という映画を見て再び町に出た。非常に気に入って見た映画でもないのに、道に出るとまさに追い出されたような気分だった。荒涼としたものだけが道をひしと覆っていた。私たちは仕方なく昼食を食べる所を探した。暖房がだめな劇場で映画を見た私はとても足が冷たかった。<o:p></o:p>

 

「洋食に行こうか?」<o:p></o:p>

 

「嫌。オンドル部屋で安心して足を伸ばして座りたい」<o:p></o:p>

 

「ふん、韓服を着ていて、この言葉ね」<o:p></o:p>

 

「そうよ。椅子に座ってゴム靴を脱いで、足袋を引き上げて、ストーブに足を当てる、酷い窮状を想像してみて。愛想が尽きるでしょう?」<o:p></o:p>

 

「いいや、さほど悪くないようだけど」<o:p></o:p>

 

 私は、ほとんど感覚が麻痺するほどで、足が凍ってゴム靴から自然に足袋が抜け出て、そのままアスファルトを踏みそうに何回もなった。元旦なので開いている飲食店が別に目につかなかった。<o:p></o:p>

 

 しばらく迷った後で私たちはさほどきれいではないけれど、温かいオンドル部屋に入って座ることができた。少女が汚水のような茶を運んできた。私は座布団の下に突っ込んだ足袋をぎゅうぎゅうともんだ。<o:p></o:p>

 

「何を注文するの?」<o:p></o:p>

 

「正月だから餅餃子を食べない」<o:p></o:p>

 

「じゃ僕もそうしょうかな?」<o:p></o:p>

 

 餃子の外皮は厚く、餃子の耳はいくらか少なめに焼けて、白い小麦粉が出たまま噛めた。私は餃子を片側から押し出して、餅を何切れか咀嚼した。<o:p></o:p>

 

 泰秀は猛烈に食べまくった。不味い飲食をうまく食べる光景は哀れさを越えて悲しくなった。風雅な趣もなく、まったく満腹感だけのための食事の悲哀をわかりすぎているからなのだろうか? 味が分かって食べているのかさえ疑わしい早い食事を、私はまじまじと見守った。<o:p></o:p>

 

「美味しい?」<o:p></o:p>

 

「まあちょっと空腹なんだ。ところでなぜミス李は食べるのを止めるの?」<o:p></o:p>

 

「まだお腹がすいていないみたい。ミスター黄はいつもそんなに夢中になって食事をするの?」<o:p></o:p>

 

「もちろん男が食べる時やかましくて、何かに書けば」<o:p></o:p>

 

「黄海道もソンピョン(松餅)は足の裏と同じと言いながら?」<o:p></o:p>

 

 私は笑って少し突飛な話を切り出した。<o:p></o:p>

 

「きな粉餅も松餅もソウルのものよりスケールが大きかったのは事実だけれど、それなりに素朴で香ばしくて、例えば黄海道の人の品格のようよ。<o:p></o:p>

  

       -続くー

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四季折々133   相模原公園4

2013-08-21 14:56:37 | まち歩き

水無月橋を渡って水無月園(花ショウブ)に入る。今はショウブがほとんど終わっている。

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全景。

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一輪残った花菖蒲。

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鴨。

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花菖蒲の脇に白いノリウツギ。

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白いノリウツギの花。
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イヌツゲの生垣。

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