かたんと一筋におもふも病也。兵法つかはむと一筋におもふも病也。習いのたけを出さんと一筋におもふも病、かゝらんとおもふも病也。またんとばかりおもふも病也。病をさらんと一筋におもひかたまりたるも病也。何事も心の一すぢにとゞまりたるを病とする也。此様々の病、皆心にあるなれば、此等の病をさって心を調ふる事也。
(柳生宗矩著, 渡辺一郎校注:「兵法家伝書: 付 新陰流兵法目録事」, p51, 岩波書店, 1985)
敵に勝つべしと一途に思うのも、表裏の兵法を仕掛けんと思うのも、習稽古での成果を全て発揮せんと思うのも“病”である。攻撃あるいは防御一方を心に掛け「懸待一如」を失念するのも“病”である。さりとて“病”を捨て去ろうと考えることも“病”である。何事もそれ一筋に拘泥することを“病”とするのである。これらの“病”はすべて心にあり、心を調えて放下することが要である。(拙訳)