花紅柳緑~院長のブログ

京都府京田辺市、谷村医院の院長です。 日常診療を通じて感じたこと、四季折々の健康情報、趣味の活動を御報告いたします。

朝桜│日本花図会

2022-01-27 | アート・文化

朝桜│尾形月耕「日本花圖繪」明治三十年

小唄<むらがらす>は「むら烏ぬれて出にけり朝桜」の句で始まる艶冶な歌曲で、唄の結びは「明けの鐘」である。「明けの鐘」は明け六つ、午前6時頃に寺で撞く鐘声で、「朝桜」は朝に露を帯びた桜である。東雲色のすやり霞を飛び行く後朝の夢いまだ醒めやらぬ二羽の痩鴉。ほのかに曙色をおびた桜花がこの刹那の風情を彩る。そしてかたや、今まさに暁鐘を撞かんと撞木を頭上に引いた荒法師。早朝は副交感神経優位から交感神経優位に切り替わる時である。

   都々逸 百人一首  
あけりや暮ると さて知りながら かねやからすが うらめしい
<本歌>明けぬれば暮るゝものとは知りながら なをうらめしき朝ぼらけかな
        後拾遺和歌集・巻十二 恋二  藤原道信

ふたりぬるともうかるべし、月斜窓に入暁寺の鐘   閑吟集
<本歌>鄂州寓館嚴澗宅  元稹
鳳有高梧鶴有松、偶來江外寄行蹤。花枝滿院空啼鳥、塵榻無人憶臥龍。
心想夜閑唯足夢、眼看春盡不相逢。何時最是思君處、月入斜窗曉寺鐘。 


鷽 垂桜│葛飾北斎画, 千来庵雪萬賛, 東京国立博物館蔵│「北斎の花」

鷽(うそ)は春先に桜、梅や桃の蕾を好んで食べるという豪奢な習性を持つ鳥である。一中節菅野派、三味線方の千来庵雪萬(二代目菅野序遊)賛は「鳥ひとつ濡れて出けり朝桜」である。

参考資料:
倉田喜弘編:「江戸端唄集」, 岩波書店, 2018
新間新一, 志田延義, 淺野建二校注:日本古典文学大系「中世近世歌謡集」, 岩波書店, 1984
久保田淳, 平田喜信校注:新日本古典文学大系「後拾遺和歌集」, 岩波書店, 1994