中国の「南山」は唐代以降、長安(西安)の南東にある終南山の異称である。不老長寿、長生久視の象徴とされ、南山を用いた成語として「南山寿色多」、「南山寿」や「福如東海、寿比南山」、「福如東海長流水、寿比南山不老松」などがある。後者の対聯の意は、福は東海の如く深甚に(東海に流れる水のように永遠に長く)、寿は南山の如く崇高に(南山に生える常盤の松のように変わらず)である。唐代以前、陶淵明の《飲酒二十首》其五に謳われた「採菊東籬下、悠然見南山」の南山は、蒼潤高逸、秀出東南と形容される廬山である。『枕草子』で清少納言が白氏文集の詩中の「香爐峯雪撥簾看」の典故を踏まえた香炉峰は廬山の名峰である。
本年の「重陽の節句」(旧暦9月9日、新暦10月17日)、別名「菊の節句」から早1週間が経った。本日は頂戴した香り高い菊花を用いて大和未生流の番外稽古に努めてみた。
謹んで皆々様の健康長寿をお祈り申し上げる。
如月之恆 月の恆(ゆみはり)するが如く
如日之升 日の升るが如く
如南山之壽 南山の壽の如く
不騫不崩 騫(か)けず崩れず
如松柏之茂 松柏の茂るが如く
無不爾或承 爾を承くる或らざる無し
月の弓張る如く、日の立ちのぼる如く 南山のゆたけ如く 騫けず崩れず 常盤木(ときはぎ)の常ある如く 君を慕はぬ者とてなし
(小雅・鹿鳴之什 天保│「詩経雅頌」, p62)
参考資料:
白川静訳注:「詩経雅頌」, 平凡社, 1998
萩谷朴校注:新潮日本古典集成「枕草子 下」, 新潮社, 1977
松枝茂夫, 和田武司:「陶淵明全集 上」, 岩波書店, 1990
川合康三編訳:「中国名詩選 上」, 岩波書店, 2015
岡村繁著:新釈漢文大系「白氏文集 三」, 明治書院, 1988