花紅柳緑~院長のブログ

京都府京田辺市、谷村医院の院長です。 日常診療を通じて感じたこと、四季折々の健康情報、趣味の活動を御報告いたします。

語彙を増やすということ

2018-09-23 | 日記・エッセイ


文章を綴るということは難しいとつくづく思う。それでも頭の空洞に浮かび上がった雑感をひとまとまりの文章に仕上げる機会を繰り返せば、先細りや断線しがちな脆い自分の思考回路を少しは補強する訓練になる気がする。想念というより単なる印象にすぎない類を文章に紡いでゆく時、しっくりとくる言葉がただちにみつかるとは限らない。参考資料や文献を読み漁るうちに、これまで目にしたこと耳にしたことがない言葉を知ることも多い。文章に書き表すことと語彙を増やすことの間には確実に相乗効果がある。

お恥ずかしいことに、私は二十代の前半まで「場末」(ばすえ)を「ばまつ」と読むのだと思い込んでいた。正しい読み方を知り頭の中で修正を加えたつもりでも、一旦「ばまつ」という音感と結びついた「場末」の語感は頑固な頭の中ですぐに入れ替わってくれない。「ばすえ」と聴いた時に「場末」の情景が彷彿と浮かび上がるまで、実に数年を要した。それから後は新たな言葉に遭遇した時、辞書で意味を確認するだけでなく、其の場で何度も声に出し読み上げて、語意と音感との間の有機化学反応を起こすように心がけている。

字面を眼で追うだけで取集した言葉を仰々しく羅列してみても、上辺だけ塗り固めたコスプレ文章に終わる。自家薬籠中の血肉と化した言葉を蓄えて語彙の世界を広げてゆくことは、文章を書く以上に難しい。