花紅柳緑~院長のブログ

京都府京田辺市、谷村医院の院長です。 日常診療を通じて感じたこと、四季折々の健康情報、趣味の活動を御報告いたします。

家庭での耳掃除

2018-09-02 | 医学あれこれ


『無理な耳掃除やめて ~ 風呂上り ぬぐう程度に』という記事が、本日9月2日の朝刊(京都新聞、暮らし欄)に掲載されていた。日耳鼻の学校保健委員会の朝比奈紀彦先生が御監修で、「基本的に家庭内での耳掃除はやめてください」という骨子のもとに、外耳道の皮膚表皮の落屑物と皮脂腺・耳垢腺からの分泌物の混合物から成る「耳垢」(じこう、みみあか)は皮膚を保護する働きがあること、耳垢は本来、外耳道の外に自然に排泄される機構があること、家庭で行う耳掃除が耳垢栓塞、外耳道損傷、鼓膜穿孔を起こすリスクがあることなどが詳細に述べられている。

家庭での耳掃除に関してもう少し付け加えさせて頂くとすれば、「大人が子供さんの前で絶対に自分の耳掃除を行わない」「耳かきの道具、綿棒などは決して子供さんの手の届く所に放置しない」である。背伸びをして大人の真似をしてみたい年頃の子供さんが自分ひとりでやってみた、あるいは親御さんを真似て弟や妹に耳掃除を試みた、その結果、外耳道や鼓膜を傷つけて大出血で受診という事例が時にある。中には怪獣の尖った尾を耳に突っ込んでという場合もあり、留意すべきは耳かきの棒に限らない。さらに子供さんは当初は大人しく身を任せていても、何をきっかけに急に動くか予測不能である。《お母さん、謝らないで下さい》(2017/5/14)のブログ記事に書いたが、どのような耳鼻咽喉科の処置であっても介助による固定は必須である。従って私は公私ともに子供の耳掃除(医療行為としての名称は、耳処置、耳垢栓塞除去)を介助なしで行ったことはこれまでに一度もない。

そして大人、子供に限らず、家庭での耳掃除を契機に起こりうる可能性のある耳の病気のいくつかを最後にまとめておきたい。誤って加えた深い一撃で鼓膜を破ると(外傷性鼓膜穿孔)、傷つけた位置によっては鼓膜後方に繋がる耳小骨の連鎖が壊れ(耳小骨離断)、聴力回復の為には手術加療(鼓室形成術)が必要となる。鼓膜や中耳損傷のみならず内耳にも障害が及べば、治療をお受けになっても難聴や耳鳴の改善が困難となる場合がある(外傷性内耳障害、急性音響外傷)。また皮膚を擦過して生じた微小な外傷から感染を来すことがある(外耳炎)。外耳道内腔の皮膚が炎症を来して腫脹すると、外耳道は外側を軟骨や骨に囲まれている為に、腫れあがった皮膚は内腔へと盛り上がる。その結果、激しい耳痛や耳漏を伴って外耳道の孔が殆ど塞がる事態も起こる(外耳道蜂窩織炎)。たかが耳掃除とお思いかもかもしれないが、されど耳掃除であり、ゆめゆめ侮ることなかれである。