花紅柳緑~院長のブログ

京都府京田辺市、谷村医院の院長です。 日常診療を通じて感じたこと、四季折々の健康情報、趣味の活動を御報告いたします。

修練の道

2016-02-25 | 日記・エッセイ


今月、最新の内視鏡システムのデモを受ける機会を得た。勤務医の頃から触れているメーカーの光学器械であるが進歩には目を見張った。私が研修医になった1980年代初頭、指導医が執刀なさる狭い術野を傍らで覗き込めない手術は、いかにして技術を身に付けるべきかと真剣に思い悩んだものだった。その後、内視鏡下副鼻腔手術などでは術野の画像がモニターに大きく鮮明に映し出され、術者以外の医師、スタッフを問わず進行中の手術をリアルタイムに経験することが可能となり、かつてに比べはるかに「術を盗みやすい」、「術を盗ませやすい」ハード環境が整った。これに加えてソフト面においても、新人に知識や技術をうまく伝達して育成できないと指導、管理能力を問われるという、近年の意識変革がより効率的な術の伝授を可能にした。手取り足取りで育てますという、一見やたら優しげな時代が到来したのである。もっともただ注ぎ込まれるものに対し受け身のまま、己で味付けしてゆく創意工夫の意識を欠いていたならば、その最終的な仕上がりには雲泥の差が出ることに違いはない。今も昔も能動的な「術を盗む」という姿勢が、どの道の修練においても求められることには変わりはないのだろう。そして、かつてアクセス制限があった技術情報が広く開陳される時代というのは、新人がそれらを短期間にマスターすることがもはや当然となったことを意味する。その世界に生きる業界人とみなされる最低仕様が、はるかにハイスペックになっているのである。