花紅柳緑~院長のブログ

京都府京田辺市、谷村医院の院長です。 日常診療を通じて感じたこと、四季折々の健康情報、趣味の活動を御報告いたします。

大雪の養生

2015-12-07 | 二十四節気の養生


大雪(12月7日)は、二十四節気の第21番目の節気である。小雪に比べて厳寒がひとしお身にしみる節気で、自然界の陽気が払底して陰気が最盛となる。しかし小雪の次には冬至となり、この後は陽気がふたたび生じ始め、陰気は次第に減じて行くのである。何故ならば「物極必反」として、事物の変化は極みに達すれば、必ず反対の方向に転じるからである。陽気の芽生える音が少しづつ聞こえてくる時期は、養生には適した時節である。そして養生にあたっては過不足なく、また一方に偏らないことが大切である。活動が過ぎて過労にならず、安静を保ちすぎて運動不足にならず、栄養過多にも栄養失調にも傾いてはいけない。効能に魅かれ飛びついて、一つの食材や生薬のみを摂取しているとからだの陰陽失調を来すことになり、養生どころか病気を招くことになる。保温に努めるべき時期ではあるが、厚着や暖房が行き過ぎると不要な発汗を引き起こして陽気を損傷することになる。また発汗する時期ではなく口渇もないからと飲水量が減りがちであるので、水分摂取を忘れてはいけない。ただし冷飲はさけるべきであり、消化吸収の働きを低下させる中焦の冷えを起こさないことを念頭に置かねばならない。
 この時期に増加する普通感冒ないし風邪(かぜ)であるが、西洋医学的にはウイルス性上気道炎であり、鼻症状(鼻閉や鼻漏)、咽喉症状(咽頭痛やいがいが感)や咳嗽症状が、急性発症で同時期に同程度に発症する。中医学的な感冒の概念は、各季節特有の気候変化あるいは季節外れの異常気候から生まれた邪気と、風邪(ふうじゃ)が結びついて身体を侵襲して発症すると考えられている。従って寒邪の影響で冬には風寒感冒が多いのであるが、風寒から風熱への移行や、これらが入り混じった病証も少なくない。風寒感冒の症状は、悪寒が強く発熱は軽度で、発汗はなく、頭痛、身体痛、咽喉の痒み、嗄声、咳嗽、薄い白色の痰、鼻閉と水様性鼻漏、口や咽喉は渇かない、あるいは渇いても熱い飲み物を好むなどである。春には風熱感冒が多く、夏には暑湿の邪がからみ、秋には燥気がかかわって感冒が発症する。もっとも同じ外邪に暴露を受けても、その後に発症するかしないかは人体の正気(生命活動の原動力、病邪・疾病に対する免疫力も含む)の強弱に左右される。「正気存内、邪不可干」であり、正気が体内に充実していれば、邪気に干犯されて発病することはないのである。
 一年の終わりにあたる師走はともすれば、あれもしたい、これもせねばならないと様々な欲望や欲求に駆り立てられて、平素以上に生活の規律や節度が乱れがちな時期である。「またもや風邪(かぜ)をひいてしまった」という方は、今一度、心身共に入力よりも出力過多に傾いておられないか、日々の生活習慣を見直して頂けたら幸いである。

奈良の京にまかれりける時に、やどれりける所にてよめる 

み吉野の 山の白雪 積もるらし ふる里さむく なりまさるなり    古今和歌集 坂上是則