2015/05/19
「三井寺に興義といえる僧がいて絵の名人と噂があった(4:夢応ムオウの鯉魚リギョ)」
「得意なる画題は魚が泳ぐ様描いてできばえ精緻極める()」
「居眠りし夢で魚と泳ぐ様描いてその絵を壁に貼りたり(自分で『夢応の鯉魚』と名付けていた)」
「この絵をば求める人が絶えずとも手放しはせず側に置きたり(鮮魚を食ったりする世俗の人には渡せないと冗談めかして言った。)」
「あるときに興義が熱出し寝込みたり途中で息絶え死んでしまえり(胸の辺りが暖かかったので置いていた)」
「数日が経って手足がピクッとして長いため息ついて蘇生す()」
「弟子にいう檀家の某氏に次のこと伝えてここに来てもらえよと
(1:興義が息を吹き替えした
/2:殿は酒宴をしていてなますを作らせている
/3:それを中止して寺に来てほしい
/4:世にも珍しい話を聞かせてあげる
)」
「病にて人事不省も夢の中魚になって泳ぎ回れり(冠をつけ装束を着た人が『放生の功徳』があるからと、魚にしてくれた)」
「なますにとする鯉じつはわたしなり文四に捕まり爼にのると(文四とはいつも魚を買う漁師)」
「興義する話は不思議で琵琶湖にて泳ぎ回って名所を訪ぬ
(1:長等山の山おろしに吹かれながら志賀の浦の汀に行った
/2:そこでは歩いている人が着物の裾を濡らすほどの汀を歩いている
/3:高い比良山の山影で身を隠そうとするが難しかった
/4:夜に堅田の漁り火に誘われて近づくのは夢心地
/5:夜中湖上に影を落とす月を鏡山辺りでみると隅々まで照らし趣深い
/6:沖の島から竹生島に泳いでいくと波に映る朱塗りの玉垣にはびっくりした
/7:伊吹山の山風に送られて朝妻辺りでは渡船も漕ぎ出す
/8:蘆間でまどろんでいると矢橋の渡し舟の船頭の棹さばきの合間を抜けて瀬田の方に泳いでいく
/9:そこでは橋番からなんどもなんども追いたてられるが、そうこうするうちに腹が減る
/)」
「食べ物を探せば文四が釣糸を垂らすところに遭遇をせり()」
「文四ゆえ遠慮いらぬと釣糸の餌を食えれば吊り上げられる()」
「結局はあなたのもとで爼の魚になりて捌かれる身に()」
「包丁が入るところで叫べども誰も気がつかずまさに切られる()」
「刃がはいるその瞬間に目が覚めたそんな話を皆に聞かせり()」
「数枚の絵を湖に放てれば鯉泳ぎだし世に残らずと()」
「成光という弟子継げる師の妙技後に世に出て名声あげる()」
「成光が鶏の絵襖に描きたればほんものの鶏その絵蹴ったと(『古今著聞集』に残っている)」
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