★ERNESTO CHE GUEVARA★
1月に「チェ28歳の革命(L'ARGENTIN)」を見に行き、戦闘場面の連続に疲労困憊。なのに、やはり第2部である「チェ39歳別れの手紙(GUERILLA)」を見に行かずにはいられませんでした。第2部はCheの最後を見なくてはならないので始めから苦痛でした。それに至るまでの、ゲリラ戦が次第に孤立化し、当てにしていたボリビア共産党からは何の支援も食料調達も得られないばかりか、民衆の支持をも得られず、密告、脱退、過度の睡眠不足や疲労による士気の低下などで次第に追い込まれて行く過程も辛いものですから。
バティスタ独裁政権に苦しむ母国キューバを救おうと決起した若き活動家、フィデル・カストロとの出会いがあり、共に戦ったキューバ革命での勝利とは雲泥の差の第2部。より静かであるのは、より絶望的なシナリオだから。スティーヴン・ソダーバーグ監督はこの映画を、皆が余り知らないボリビア時代に焦点を絞ろうとしたようですが、それを描くにはまずキューバで起きたことを見せないとボリビアで起きたことを位置付ける文脈がなくなってしまう。それでニューヨークでの国連演説などを追加していったら、どんどん大きく膨らんでしまい、結局二部作となった、と語っています。ゲバラとキューバ革命を情熱的に描いた理由は、との問いには、自分は革命にではなく、Che自身に興味があるんだ、と言っています。これ!なんですよね。 この映画はゲバラを英雄的に描くのではなく、事実に忠実に実像として捉えている、と、誰もが語っているように、淡々と描いている為、娯楽の要素は皆無です。
第2部の舞台であるボリビア潜伏中に書かれた「ゲバラ日記」は、夫も私も、その昔に読んでいました。学生運動をしていたとか、政治的に共鳴した、と言うんではなく、チェ・ゲバラが、一人の人間として余りにも魅力的だったからです。映画の中で喘息に苦しむ彼を見て、胸が痛くなりました。息子が幼少の頃、喘息の発作に悩まされ、母親である私は一晩中寝れない夜が多々あったのですから、その苦しみが再現されたようで辛かったです。特に、ボリビアの2000メートルの高地で、呼吸困難になりながらも政府軍に捕まるまで生き延びていた現実が、彼の生命力の強靭さを表わしている気がします。
ゲバラ役のベニチオ・デル・トロ(プエルトリコ生まれ)は、7年間を費やして役作りをしたといいます。作品を制作する上ですばらしかったのは、チェが亡くなる直前まで彼と行動を共にした人がいまだに生きている、ということだったそうです。役作りのために25kgの減量をした彼は、「ゲバラの服を着てまるで物まねをしているように見えるのだけは避けたかった・・・究極的には自分の人生を犠牲にして人のために死んだという所に引かれたんだ・・」と語っていますが、本当にその役作りに特別な思いを入れ込んでいますし、プロデューサーも兼ねていますから、相当な力の入れようだったと思います。ただ、ベニチオを初めて見た私は少しばかり戸惑いました。だって、ゲバラがカッコよくて男前なのに、その役者がちょっとオジサンッぽく、眠たい目をした男(失礼!)だったのですから。 次第に目が慣れ?本物として感じてきたのは彼の、演技以上の強い思いいれが伝わってきたんだと思います。カストロ役のデミアン・ビチル(メキシコ生まれ)も話し方といい本物の味をよく汲み取っていますし、その弟ラウル役のロドリーゴ・サントロ(ブラジル生まれ)はすっごくカッコいいので検索しちゃいましたら、「ピープル」誌の「世界で最も美しい50人」に選ばれたとのこと!これから注目したい一人になりました。彼、シャネルのCMにもニコール・キッドマンと共演したとか。知らなかったぁ。
今年はキューバ革命から50周年にあたる特別な年。フィデル・カストロから、後継者である弟のラウル・カストロへとバトンタッチされたようですが、フィデルの誘いでキューバ革命に身を投じて亡くなってしまったのは、フィデルでもラウルでもない、アルゼンチン人医師であったゲバラだった、ということが皮肉に思えます。ただ、チェにとって、国というのがどれほどの意味をもったのかを考えると、彼は、世界という単位で物事を見つめていたのではないか、と言う気がするのです。 「チェ28歳の革命」の最後で勝利宣言を挙げた1959年に、彼は日本にも「アジア・アフリカ親善使節団」の団長として訪れているんですね。日本では、ノーネクタイでラフな格好のチェはたいして相手にされなかったようでしたが、(というより、日本の主要人に人を見る目がなかったんでしょう!)各種工場の視察の合間に広島を訪れ、原爆慰霊碑に献花したのです。広島行きを切望していたのに、日本政府側が躊躇していたといい、自分で行動したそうです。被爆の悲惨さを目の当たりにしたゲバラは、 《日本はこれだけのことをされたのに腹が立たないのですか?》と発言。
同年は、チェにとって、前妻イルダとの別れと、ゲリラ活動を共にした、アレイダ・マルチとの再婚という、個人生活の上でも変化がありました。アレイダは「チェ28歳の革命」のなかでも登場しましたが、イルダ同様、妻以上に「同士」の印象が強い気がしました。朝日新聞の2007年11月3日の「愛の旅人」でも取り上げられ、偶然web上でその記事を見つけましたので、興味おありでしたら是非一読してください。あっさりと身を引いたイルダ。本当に好きだったから出来る行動だと思います。イルダの娘はイルダでアレイダの娘もアレイダと言う名前なのが面白い。アレイダは半世紀にわたる沈黙から『回想録 チェとともにした我が人生』という本を出版し、娘のアレイダは去年、父親の足跡を辿り訪日を果たしました。
見た映画の内容とは関係ない事がどんどん繋がってきてしまいます。 フィデル・カストロはインタビューで、「子どもたちにどんな人間になってほしいかと言われれば、私はゲバラのような人間に、と答える」と発言したし、ジャン・ポール・サルトルに「「20世紀で最も完璧な人間だった」と言わせ、「あの頃、世界で一番カッコいい男だった」とはジョン・レノンのことば。アンディ・ウォーホールが“ゲリラヒーロー”をモチーフにし、その作品を全世界に広め、マラドーナが自分の腕にタトゥーを刻み、ジョニー・デップがいつも身に付けているペンダントにも彼の姿がある、と知り、思想や国境、言葉などを越えて今も絶えず人々の心を打つのは、彼のぶれない正義感と人間愛なのだ、と理解しました。
全編スペイン語で通した米国人監督の、商業的な成功ではなく長年温めていた思いを、事実を基にし、受け狙いを考えずに制作したこの作品。どれだけの評価を受けるかわかりません。が、私が生きている間に、彼の歩みのほんの一部を、事実重視の映画を通して見る事ができたのは幸運だったと思います。しかし~辛くて疲労感いっぱいの映画だったです!ゲバラの苦悩をすっぽりと、ノンポリ人間が味わうのですからね。
最後にアルゼンチン歌手メルセデス・ソーサが歌う[BALDERRAMA]が、ボリビア政府軍に捉えられ、翌日銃殺されたゲバラの、長年不明だった遺骨の場所がわかり、1997年、死後30年の時を経てキューバに帰還されたことにたいする、アルゼンチン側の鎮魂歌のように聴こえてきました。 メルセデス・ソーサ自身も社会変革を歌で訴えたことから、当時軍事独裁政権下の母国からの亡命を余儀なくされた一人。ブラジル時代から夫が時々聴いていた彼女のCDがウチにも何枚かあります。
チェは革命の最中でも書物を持ち歩いたほどの、詩や文学を愛する文化人でした。詩を書き手紙を書き、日記も捕まる直前まで書いていたそうです。革命は、いくら正義の為の革命といっても多くの人間を、愛する同士をも死に至らしめます。流血は避けられなかったのだろうかと考えてしまいます。学生時代に友人と南米各地を旅行したことから、卒業後、軍医になるのがいやで、ラテンアメリカへと旅立つ彼。旅で得た多くの出会いと感動。その発端である当時の軍事独裁政権が正義感の強いゲバラの一生を変えてしまったといえるのでしょう。彼が今の世に生を受けていたら、どんな人生を歩んでいたかしら・・と想像したくなります。
《子供たちへの最後の手紙》
この手紙を読まねばならないとき、 お父さんはそばにいられないでしょう。 世界のどこかで誰かが不正な目にあっているとき、 いたみを感じることができるようになりなさい。 これが革命家において、最も美しい資質です。 子供たちよ、いつまでもお前たちに会いたいと思っている。 だが今は、大きなキスを送り、抱きしめよう。 お父さんより (チェ・ゲバラ 1965年)
彼が子供たちに残した最後の手紙は静かに私の心を揺さぶりました。
以下のような「ゲバラ語録」も多く残されています。
「もしわれわれが空想家のようだといわれるならば、 救いがたい理想主義者だといわれるならば、 できもしないことを考えているといわれるならば、 何千回でも答えよう、そのとおりだ、と」
「甘ったるいと思われるかもしれないが、 言わせてほしい。ほんとうの革命家は、 大いなる愛情に導かれている。 愛のない本物の革命家なんて、考えられない」
作家の戸井十月さんは、「永遠の旅人・ゲバラ」の中でこう書いています。
「何をなすか、何を手に入れるかではなく、どこに向かって 歩き続けるかが人生で最も大切なことだというメッセージを、 死んで41年が経った今もゲバラは体現している。」
又、長ったらしくなってしまいましたが、最後にソダーバーグ監督がインタビューに答えた新聞記事で印象に残った言葉を・・・
「映画を見て、革命はロマンチックなどという幻想は抱かない ようにして欲しい。リサーチの結果、全然そんな事はないと 分ったから」 「物質的な豊かさだけを中心に捉えた社会を続けるためには、 搾取される人たちが必要になる。空虚さを感じない社会を作る には、成功とは何か、豊かさとは何かを再定義しなきゃいけない」 ただ、行動に訴える場合には、単なる反抗ではなく代案を示す ことが大事、と付け加える。ハリウッドにも似たような構図から 格差が生まれ、対立が強まっているといい、 「欲の問題といえばいいのか。映画への投資などによって、 じっとしていてもお金が入り続ける富裕層と、制作現場で働き、 赤字を出せば問題になる人々。富の配分はもっといい割合が あるはずです」
★エルネスト・チェ・ゲバラ★
★「チェ28歳の革命」「チェ39歳別れの手紙」★
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