うたのすけの日常

日々の単なる日記等

うたのすけの日常 山田風太郎の「戦中派不戦日記」を読む20

2010-02-07 06:11:41 | 日記

空襲身近に、比島の戦況<o:p></o:p>

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 二月三日() 晴後曇<o:p></o:p>

 碧落日照る。風ひょうひょうと路上にを吹きて、塀の陰、溝の中に残れる雪に日はさせど、風凍りて溶くるすべなし。午後より雲出ず。夜また晴れて星凄し。耳切れて落ちんばかりの寒さなり。<o:p></o:p>

 午後十時過、大島神社近傍に火事あり。二階の窓ひらくに、湧き上がる大いなる煙、火炎を映して大空に消ゆ。火の粉とび、近くの樹々の葉、火光を受けて一枚一枚数えられんばかり。叫喚潮騒のごとし、星一つ、朱煙の上に冷々たり。<o:p></o:p>

 二月四日() 晴<o:p></o:p>

 (本日より比島戦線に関する新聞の論調が一変したことに、疑念と落胆を抱いております。怒りさえはっきりと軍部に向けていきます。昨日まで比島の戦いは日米戦の天王山と号していたのに、雲行きが怪しくなってきたのか、比島の一都市、即ちマニラの損失は二の次と言い出してきたのです。)<o:p></o:p>

 比島そのものも問題外なり、ただ日本の欲するは米軍の出血、大出血なりとの調子に一変す。比島戦の未来についに絶望のほかなきか。<o:p></o:p>

 山下将軍率いる将兵の死戦、政府の渾身の努力はわれら知る。されど政府なお国民を欺かんとするや。何ゆえ比島戦は日本生死の一戦なり、しかれども米の鉄量圧倒的にしてついに吾ら今や敗れんとす。国民よ、日本は敗れんとするなり、愛すべきただ一つの祖国抹殺せられんとするなり。日本して日本人いずこに住むべきぞ。……、現状は然り、米軍の力は然り、わが国力は然りと、何ゆえすべてを国民の前に正直に、赤裸々に吐露してその激憤を求めざる。<o:p></o:p>

 (戦時下の学生、そして小生にもよく分かるのですが、軍国教育の結果が作者をして愛国の情をここまで植えつけたかと、我が身を省みあらためて寒々と感じるのです。政府に暗澹たる思いを投げかけても、憂国の情は学生の精神に浸透しているのです。恐ろしきもの、それは教育です。)