空襲下、空中戦目撃<o:p></o:p>
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二月十八日(日) 晴<o:p></o:p>
昨夜十一時、今日午前二時半敵反覆来襲。<o:p></o:p>
本大戦のもたらす最大の史的影響。英国の王冠落つること。日独勝つも、米ソ勝つも、いずれにせよこのことは避くべからず。<o:p></o:p>
本大戦の真因。地球に人間の増え過ぎたること。人間或る程度まで増加すれば、みずから相食みてたがいにこれを殺戮す。神意あるとせば、この人間のみずからなしつつ、みずから如何ともする能わざる勢いというか。<o:p></o:p>
二月十九日(月) 晴<o:p></o:p>
午後一時より故木村院長供養式。このときB29大編隊南方より近接中なりとの報伝えらる。横鎮情報(横浜か横須賀の鎮守府のことか?)なり。しかもサイレン鳴らず。式終わりて帰途につく。今日は名古屋の番なるべしといいつつ笑いたるに、ついに警報発令。新宿駅のホームにて空襲警報となる。<o:p></o:p>
棒を振りたてどなりつける警棒団員に青梅口より追い出され、柳原、神倉とともに学校に引返さんと走る。……B29一機ちょうど頭上にさしかからんとし、わが戦闘機これを激突せんとし、敵狼狽して補助タンクを空に投げ、タンクを投げたるが先か、戦闘機の体当たりせるはそのあとの印象なるか、ただ空に投げられたる銀色の物体がタンクなりや爆弾なりやもその時知らず。ああーっというがごとき群集の恐怖のうめきと動揺を背に、次にわれが見たるは白煙ひきつつ堕ち来るB29の巨体なりき。<o:p></o:p>
翼銀色にきらめきつつ、まさしく頭上にみるみる拡大して堕ち来る。ガード入り口の悲鳴に、奥の者は波のごとく外へ出でんとす。入り口の者は奥へ逃げんとす。みな、叫びしか、うなりしか、記憶せず。ただ記憶するは、男、女、子供、老婆ら、無数の見ひらかれたる瞳孔、ひきつれる蒼白の頬、力一杯あけられたる口の洞のみ。……。気づけば全身の冷汗びっしょり、ぬぐう間もなくみな学校に走る。……。