空襲身近に、比島の戦況<o:p></o:p>
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二月三日(土) 晴後曇<o:p></o:p>
碧落日照る。風ひょうひょうと路上にを吹きて、塀の陰、溝の中に残れる雪に日はさせど、風凍りて溶くるすべなし。午後より雲出ず。夜また晴れて星凄し。耳切れて落ちんばかりの寒さなり。<o:p></o:p>
午後十時過、大島神社近傍に火事あり。二階の窓ひらくに、湧き上がる大いなる煙、火炎を映して大空に消ゆ。火の粉とび、近くの樹々の葉、火光を受けて一枚一枚数えられんばかり。叫喚潮騒のごとし、星一つ、朱煙の上に冷々たり。<o:p></o:p>
二月四日(日) 晴<o:p></o:p>
(本日より比島戦線に関する新聞の論調が一変したことに、疑念と落胆を抱いております。怒りさえはっきりと軍部に向けていきます。昨日まで比島の戦いは日米戦の天王山と号していたのに、雲行きが怪しくなってきたのか、比島の一都市、即ちマニラの損失は二の次と言い出してきたのです。)<o:p></o:p>
比島そのものも問題外なり、ただ日本の欲するは米軍の出血、大出血なりとの調子に一変す。比島戦の未来についに絶望のほかなきか。<o:p></o:p>
山下将軍率いる将兵の死戦、政府の渾身の努力はわれら知る。されど政府なお国民を欺かんとするや。何ゆえ比島戦は日本生死の一戦なり、しかれども米の鉄量圧倒的にしてついに吾ら今や敗れんとす。国民よ、日本は敗れんとするなり、愛すべきただ一つの祖国抹殺せられんとするなり。日本して日本人いずこに住むべきぞ。……、現状は然り、米軍の力は然り、わが国力は然りと、何ゆえすべてを国民の前に正直に、赤裸々に吐露してその激憤を求めざる。<o:p></o:p>
(戦時下の学生、そして小生にもよく分かるのですが、軍国教育の結果が作者をして愛国の情をここまで植えつけたかと、我が身を省みあらためて寒々と感じるのです。政府に暗澹たる思いを投げかけても、憂国の情は学生の精神に浸透しているのです。恐ろしきもの、それは教育です。)
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