B29の残骸<o:p></o:p>
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三時半ごろ警報解除。新宿駅付近の撃墜機の残骸を見んと、第一劇場前を新宿駅南口の方へ上がるに、見物の群集雲霞のごとく、ゆく者あり、帰る者あり、壮観なり。鉄道病院のかなたより、白煙空を覆いて渦まき流る。左方の民家の物干し台二つに割れて陥没す、かの補助タンクの落下跡なりと。<o:p></o:p>
消防団所々に縄張りして群集をとどめ、残骸見ることを得ず、空しく帰る。群衆の中を黄色の自動車煙の方へ急ぐ。ちらと見たるに、これ防衛総司令官東久邇宮殿下なりき。(都心に敵機が墜落、その現場に群集が集まるとは、既に本土そのものが戦場と化しているわけでして、驚かざるを得ません)。<o:p></o:p>
大本営発表によれば、本日来襲のB29は百機内外なりと。<o:p></o:p>
二月二十日(火) 晴<o:p></o:p>
朝七時警報発令。すわ、またも艦載機群来襲なりと、はね起きる。東部軍管区情報に曰く、敵機動部隊本土に近接中なりと。<o:p></o:p>
昨日の墜落機より飛び下りたる敵飛行士、所もあろうに三宅坂の航空総本部に落下せる由。むろんただちに捕虜となる。敵都を襲いてなお生きんとする敵の心理、つくづく合点ゆかず。(生きて虜囚の辱を受けずなる戦陣訓が、学生達にも浸透している恐ろしさといったところです)。<o:p></o:p>
二月二十一日(水) 晴午後曇<o:p></o:p>
敵ついに硫黄島に上陸を開始せり。同島周辺の敵艦船約八百隻なりと。飛行機を以ってせば皇城を去ることわずか三時間、しかも吾らにとりてはこの島太平洋の孤島なりと断腸の言吐かざるべかざると、新聞論調沈痛をきわむ。<o:p></o:p>
この島、例のごとく喪わんか、帝都は文字通り四時敵の戦爆連合の乱舞にさらさるのほかなし。「房総海岸に敵は上陸を開始せり」と発表せらるるも決して荒唐無稽のこととは思われざる事態現前せり。