観測にまつわる問題

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北方領土問題は進展前提か凍結前提か

2019-05-03 00:04:57 | 外交安全保障
北方領土「日本人が知らない」真実、占領の黒幕・返還交渉の矛盾(2019.4.26 DIAMOND online)

>2017年12月30日の北海道新聞に「歴史の常識を覆す」報道があった。タイトルは「ソ連の北方四島占領、米が援助、極秘に艦船貸与、訓練も」というものだ。

ヤルタ会談の直後に米ソが協力して、「千島列島」の占領作戦を行ったということですが、個人的には有り得る話だと思っています(筆者は赤いと言われる北海道新聞を支持するものでは全くありませんが(赤ければ赤いほど戦後レジー左派的で(社説など)問題と思うことがしばしばありますが)、政権に忖度しない新聞があってもいいという考え方です。ただこのニュースは先ほど検索して始めて知りました)。北方領土問題を調べれば調べるほど、固有の領土や千島列島の定義などいろいろ考えさせられるところがあるんですよね。後にスターリンは、釧路と留萌を結ぶライン以北の北海道の北半分までも要求し、米国(GHQ)が拒否したようですが、これは当然と言えるでしょう。

なお、1956年に、共和党アイゼンハワー政権は「(ソ連による北方領土占有を含む)ヤルタ協定はルーズベルト個人の文書であり、アメリカ合衆国連邦政府の公式文書ではなく無効である」とのアメリカ合衆国国務省が公式声明を発出しており、また、アメリカ合衆国上院は、1951年のサンフランシスコ講和条約批准を承認する際、決議において「この承認は、合衆国としてヤルタ協定に含まれている、ソ連に有利な規定の承認を意味しない」との宣言を行っています(ウィキペディア「ヤルタ協定」(2019/5/1)参照)。

>1951年、米国との単独講和だったサンフランシスコ平和条約で、日本は「クリルアイランズ(千島列島)」を放棄した。実はこのときに、現在に至るまで禍根を残す失態が生じる。批准国会で野党議員に「放棄した千島に国後や択捉を含むのか」と訊かれた西村熊雄条約局長が、「含む」と答えてしまったのだ。

ヤルタ会談の当事者フランクリン・ルーズベルト大統領は1945年4月12日に死去します。サンフランシスコ講和条約の時は副大統領から昇格したトルーマン大統領の再選後2期目であり、時は冷戦時代に突入していました。有名な鉄のカテーン演説は、イギリスのウィンストン・チャーチルが第61代首相を退任後の1946年3月、アメリカ合衆国大統領ハリー・S・トルーマンに招かれて訪米し、ミズーリ州フルトンのウェストミンスター大学で行った演説にちなみます。日米で北方領土問題に関してどういうやり取りがあったのか詳細を知りませんが、こうした文脈を踏まえて、外務省の「失態」は理解されるべきだろうと思います。解釈の余地があれば、後々どうなるか分からないのが国際政治でもあるんでしょう。

続く共和党のアイゼンハワー政権でヤルタ協定は個人的なメモと一蹴しており、1953年から1959年までドワイト・D・アイゼンハワー大統領の下で第52代国務長官を務めた強い反共主義者のジョン・フォスター・ダレス国務長官は、1956年8月19日に日本の重光葵外相とロンドンで会談を行い、重光に対して北方領土の択捉島、国後島の領有権をソ連に対し主張するよう強く要求し、「もし日本が国後、択捉をソ連に帰属せしめたなら、沖縄をアメリカの領土とする」と指摘して日本側の対ソ和平工作に圧力を加えたとされます(ウィキペディア「ジョン・フォスター・ダレス」(2019/5/1)参照)。その後の交渉を規定する日ソ共同宣言が署名されたのが1956年10月19日で効力が発生したのが1956年12月12日です。日ソ共同宣言には「日ソ両国は引き続き平和条約締結交渉を行い、条約締結後にソ連は日本へ歯舞群島と色丹島を引き渡し(譲渡)する」とあります。時は1953年のスターリン死去後、雪どけ(1955年-1958年)の小康状態にあり、それが日ソ共同宣言に至った要因でしょうが、米国としては軍事的な要衝(海峡)を含む国後・択捉をソ連だと認める訳にはいかなかったのかもしれません。

筆者は、戦後の交渉の経緯を踏まえて日露の領土交渉を進めるべきという立場ですが(拙稿:戦後の日露平和条約交渉に基づく新しいアプローチの検討)、今の国際情勢は既に冷戦は終わって久しく、中国の台頭という新しい情勢に対応するトランプ政権に変わっていると認識しています(米中冷戦が始まるとか、トランプ大統領がロシアと通じているとか、中露が仲たがいするとかそういう話ではありません)。領土問題を解決して平和条約を結ぶことを筆者は支持しますが、結果がどうなるかは分からないというのが正直なところでしょう。ひとつだけ言えるのは四島一括返還はおろか、色丹の引渡しさえ厳しい状況に現在あるということです。日露の隔たりは大きく中々難しい交渉とは思いますが、日露のチャンネルも重要であり、現在の枠組みで何が出来るか、機会があれば今後も考えていくつもりはあります。

>北方領土史で忘れられがちなのは、「本当の先住民は誰だったのか」だ。筆者は1980年代、北海道で知り合いのソ連担当の公安関係者から、「ソ連の学者たちが北海道のアイヌ民族の存在を口実に、北方領土が古来、自分たちの領土だったことにしようとしている」と聞いた経験がある。アイヌはロシア側にも居ることをテコに、「日本人より先にロシアのアイヌが千島にいた」として、日本が主張する「固有の領土」を否定しようとし、「AS協会」という組織を立ち上げたと、といった話だった。

これは学問的に完全に無理だと思いますね。千島のアイヌの源流は明らかに北海道にあり、更には北東北まで遡る日本の長年の隣人の先住民族です。千島のアイヌはロシアの支配でロシア化したという話もあるようですが、「アイヌ民族」が歴史的に日本と関係が深い関係にあって、現在も日本は先住民族として認める立場を揺るがしたことはありません(アイヌ新法は国会で全会一致で採択されたようです)。日本から見てロシアの極東進出は歴史的に遅すぎで「アイヌ民族」の歴史は日本の歴史と密接に関係します。ずっと隣り合っていた以上、これは当たり前なんですね。ただ、アイヌが国家を成立させたことはありませんでした。民族の分断は歴史上有り得ることではありますが、いずれにせよ、もはやアイヌ民族はロシア領にいないと認識しています。アイヌの進出は千島方面ではカムチャッカ半島まで及んだようです(カムチャッカのアイヌが北海道まで降りてくるのようなことは有り得ず、日本との関係を通じて発展したアイヌがカムチャッカまで至ったとみるしかありません。また、言語学的観点から千島のアイヌが太古の昔から千島に居住していたということも有り得ず、分化の状態からそれほど古くない時代に北海道から移住したようです)。

遺伝子を理由にアイヌの源流を沿海州に求める主張が一部で散見されますが、ロシアの工作に引っかかっているようにも見えます。少なくともアイヌ南下説は(千島においては)ロシアの主張そのものではないでしょうか?ヨーロッパでは一部極右政党にロシアが浸透したと言われることがあります。樺太方面においてもこれは逆で、どうも余市あたりのアイヌが樺太に進出したと考えられるようですが、日本ーアイヌ交渉史の中で日本が北上し、アイヌと交易した話は幾らでもありますが、沿海州の民族が突然現れたのような話は、わずかに消えた謎のオホーツク人に見られるのみで、それも直接交渉はほとんどありません。お隣の異民族が別の民族に変わるようなことがあったら一大事ですが、そんな記録は全くないと考えます。遺伝子がアイヌと沿海州で似ているとしても、日本人(和人)の北海道進出はそれほど大昔に遡る訳ではなく、それも当初は渡島半島南部までであり、ようやく江戸時代に本格的に進出が始まることになります。日本語とアイヌ語は元々系統が異なり、アイヌはその意味で北周りの民族としたら遺伝子が沿海州とベースが同じとして不思議は無く、お隣の北方民族として遺伝子のやり取りがあっても不思議はありませんし、オホーツク人の南下ファクターもあります(アイヌに吸収され消えたようで、熊送りがオホーツク人由来という説があります)。また、遺伝子で民族を規定するのが必ずしも妥当ではなく、日本人に隣接して住むアイヌほど遺伝子が混じることも当然あったようで、その辺も踏まえなければなりません(日本人と混じったアイヌを排除して沿海州と混じったアイヌを残した検証ならば意味がありません)。結局、アイヌは独立するべき国を持ったことがない先住民族(言葉ですらどの方言を中心にすべきか本来的に決めようがなく、人工的に後付けの理由で決めるしかありません)ですが、日本との関係が深く、ロシアにせよ中国にせよ関係が浅いことは明らかです(モンゴルならまだしも漢民族など北方で見たことありませんし、ツングース(満州/清)もより北方にそれほど関心がなく(ロシアに敗れています)、アイヌはおろか樺太の在来民族と考えられるウイルタもツングースと関係ないことが言語学的に分かっています)。アイヌ語のカムイは日本語の神と同様の言葉で高位の霊的存在を表し、これは文化の伝播や言葉の借用が考えられるようです。アイヌと宗教の伝播に関して言えば、熊送りも考古学的遺物の出土の関係で外国の影響があるのではないかという示唆もありますが、詳細はつまびらかではなく、いずれにせよ、北海道のアイヌと日本の関係性を否定できるものではなく、北海道に外国の権利も及びませんし、千島においては北上の歴史が揺らぐこともないだろうと思います。

さて、ロシア(プーチン政権)ではスターリンの再評価が行われているようです。これはソ連を超大国に押し上げた実績から来るもののようです(これは国際情勢の常識の範疇と思いますが、「いまさらですがソ連邦」(三才ブックス 2018)なんかが、そのあたりを踏まえてソ連の歴史が面白くまとまっているような気がします)。だとしたら、北方領土交渉に影響しないはずがありません。「ルーズベルトに個人的に合意させた」スターリンの実績を削る訳にはいかないということになりかねないからです。プーチン大統領も認めた戦後の交渉の積み重ねを譲る訳にはいきませんが、この「スターリンの実績」という体面を交渉で守れるかどうかが成否を決めている可能性があるのかもしれません(そんなことには関係なく無理なのかもしれません)。具体的には「固有の領土論」をどう扱うかになるんでしょう。戦争で固有の領土が奪われることは厳しい国際社会で当然有り得る事態ですが、個人的には第二次大戦のソ連の侵攻に関して、北方領土への進出に限って不法と認めさせることは交渉しないと言っているに等しいと考えます。そうだとすると、論理的には約束している日露交渉を前に進めるためには千島の範囲に関する定義の(一部?)譲歩が必要でしょう。そもそも日本から見て(国際的に見ても)ソ連の侵攻は不法なものですが(日ソ中立条約を明らかに侵犯しています)、一方でサンフランシスコ講和条約で放棄した領土の問題もあります。戦争に負けると不法も何もないところはあるんですよね(解釈の余地がない訳ではありませんが、既に放棄した領土は明け渡したも同然の形になっています)。これは条約の形で認めてしまっており、ソ連と結んでいないと言っても、それほど大きな意味がある訳ではありません(破棄しない限り、新しい主張は出来ず、それをするだけの価値もなく労多く益少なしでしょう)(一方戦後のどさくさに紛れて韓国が占領した竹島に関して日本が何ら譲歩した訳ではありません)。ロシアから見てサンフランシスコ講和条約を素直に読んだラインの決着は有利な決着だと思いますが、戦後の交渉を踏まえると(必ず踏まえられるべきですが)、そのままという訳にはいかないだろうというのが筆者の考え方です。日本側も主権の問題で譲歩がないにも関わらず(筆者は自分の考え方に主権の譲歩を見ていません。「誤解」は何時でもある話でしょう)、1ミリも譲らないのような考え方であってはならないと思いますが。筆者の主張を最大限踏まえたと仮定しても、(交渉担当者では全くありませんし)まとまるかどうかに関して筆者はよく分からいものがあります。

ついでまとまったとして何ができるかについて考察して終わりにします。これは個人的にはエネルギー問題が気になります。具体的にはサハリンのガスをパイプラインで引いてくるというような話です。LNG船は高コストでパイプラインを引いた方が確実に安いでしょう。これは(ロシアが安定供給するならですが)北海道経済にとって大きなプラスとなると思います。ヨーロッパで経済で一番勢いがあるドイツがこれをやっています(ただし、トランプ政権はドイツをガスの輸入で批判しており、動かない問題の可能性があります。米中貿易戦争といったところで、貿易しており(鉄のカーテンがあると言えず)、トランプ大統領は習近平を一定の評価していますから、貿易すること自体に問題はないんだろうと思いますが。また日本は安全保障費に関してトランプ政権の評価はあるようです。今のところガスで自動車が動くわけではありませんから、自動車産業には関係なく、天然ガスの用途に詳しくありませんが(エネルギー目的なんでしょう)、日米貿易摩擦に直接は関係なさそうです。ただ、アメリカの資源輸出政策に関係しないとも言えないかもしれません)。ドイツもコスト面もありますし、一度引いたパイプラインをどうこうする訳にはいかないという理由もあるかもしれませんが、資源エネルギー戦略を長期的視点で考えると、埋蔵量が莫大なロシアの天然ガスを買うことが必ずしもマイナスとは言えず、寧ろプラスになると考えることも出来そうです。資源は掘れば採掘コストが上がってきますし、終わりが見えてくると、値段が急激に高くなると考えられます(何らかの理由で供給が絞られると確実に価格は高騰します)。ドイツは浮かせたお金か知りませんが、再生可能エネルギーをやっており、これも環境も意識しているでしょうが、資源が有限であることを意識した長期的戦略と見ることも出来そうです。アメリカ的な任期中の成果の発想で何処まで評価されるかは分かりませんが。LNG船に関して言えば、オーストラリアのプロジェクトもありますし、シェールガスも運べますから、需給はよく分かりませんが、日本にとって未だ必要な船ではあるんでしょう。島国は日本だけではなく、安定的な発展のため、必要とする国もありそうです。こう考えると、シェールガスもパイプラインで利用できる範囲が有利でしょうから、資源国・大陸国の優位性を感じるものがあります。

当面の話題の北方領土に関して言えば、領土問題が進むか進まないかによりますが、進まないこと前提で考えると、地元の要望を活かした利用・活用の道はないかと考えます。特別な外交安全保障上の理由があれば話は勿論別でしょうが、基本的には地元経済の発展が国の都合で阻害されてはならないはずです。現時点で北海道が行き止まりになっているとしたら、経済にマイナスは明らかです。安全保障の観点で言えば、防備はシッカリしているとも言えるはずでしょう。「サハリン」経由で黙認の類なんかは地元にプラスになりません。サハリンはサハリンで用があるというのが本来的な形でしょう。結局幾ら考えたところで、平和条約の締結が前提でない限り、壁があるということですから、限界があるような気もします。

暗黙の了解というものはありますが、北方領土問題は進展前提か凍結前提かが重要だと思います。進まないものを前に進めようとすることほど無駄なものはなく、そんな時間があったら別のことが出来るという話ですが、前回の記事でやや書き残したこともあり、自分の中で見通しが必要だと思った次第です。


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