日本の比較優位(清田耕造 慶應大学出版会 2016)の結論を「本書のまとめ」(9章1)から一部抜き出し少々考察した後、日本経済の現状をGDPの観点から捉えなおして、日本の輸出産業と経済成長をどう考えるか考察していきます。
1章:例え絶対優位が無くとも比較優位から輸出ができ貿易から利益を得ることができる
経済学の常識ですが、著者も指摘するように理解されないことも多いと考えられます。例えばA国の繊維産業とB国の繊維産業でA国の方が良い服を安くつくる技術がある(絶対優位を持つ)としても、A国が繊維産業以上に優れた産業を持つ場合、B国の繊維産業が勝つことがあります。A国の方が強ければ自国通貨高によって輸出がきつくなりますよね。自国内でもっと優れた産業があるなら、そちらに人を集めた方が良い訳です。社長が器用で秘書より上手にコピーをとる能力があるとしても、経営上手の社長は秘書にコピー取りを任せて経営に集中した方が会社の業績は上がる訳で、経済は単に優れた技術がある方が優位にたてるというふうには出来ていません。優れた技術があるということは非常に良いことですが、ここは誤解してはならないポイントでしょう。結局のところ、強いからといって一部の企業・業界ばかりに注目したり、国際環境を無視したりすると経済では誤ると考えられます。
2章:1970年から2009年まで日本は資源や繊維を輸入し自動車・機械・電子製品・半導体等を輸出している。輸出入に共通した主要な貿易相手国は米国・中国・韓国・ドイツ。日本経済と諸外国の結びつきは強くなっている。
日本の自動車産業は他国の自動車産業よりかなり生産性が高く、要素価格(賃金・利子・地代等)や為替レートの多少の変動では比較優位は失われていないとのことです。ただし多少でない変動があれば(以前は強かった)繊維産業のように状況が変わる可能性もないとは言えず、要素価格の上昇や為替レートの下落が起るような政策を進める場合には気をつける必要があると思います。この期間、進む円高で輸出産業が打撃を受けたり、地価の異常な上昇・下落があったり、輸出産業を巡る諸条件は大きく変動していますが、貿易は拡大してきています。
貿易の拡大が必ずしも現状優位にある国の相対的な優位を維持するとは考えにくいところはあります。アメリカはかつて圧倒的な相対的優位を誇りましたし、どの国もアメリカとの貿易を求めています。アメリカの保守派と言われる方々が必ずしも根拠の無い話をしている訳ではないと思います。移民に関する考察もいずれ行いたいと思いますが、外国で生産するよりは移民を呼んで自国で生産した方が効率が良いという研究成果を読んだ記憶があります。これは欧米が伸び日本があまり伸びていない事実、日本で優位にあるとされる工業で外国人労働者が呼ばれ易いという事実に符合しているように思えます。大規模移民で日本を救え論をぶつ気はありませんが、こうしたことは考えられていいのではないかと思います。いずれにせよ、相対的優位が縮まるのが嫌だからといって、絶対的な経済力の上昇を無視していいのかに関しては議論が必要です。例えば中国が相対的優位を多少なりとも犠牲にして絶対的に経済力を上昇させアメリカに挑戦してくる可能性もあります。
輸出産業が破れれば雇用は失われますが、その雇用は別の比較優位にある、あるいは内需に依存する企業に移って国全体としては成長すると考えられます。今まで慣れした親しんだ企業の方が効率は勿論いいでしょうが、経済は絶対優位で回っている訳ではありません。比較優位で回っている訳です。潰れる企業はそのまま潰し、人手不足の企業に人を移すのが経済の基本で、そういう国が成長する国だと考えられます(価格破壊で市場を壊した後に値段を吊り上げる戦法など例外は考慮する必要はあります)。
また、地方の雇用が失われて都市への人の集中が起ることが是か非かという観点もあるでしょう。国にとっていいことが必ずしも地域にとっていいことと一致するとは限りません。
3章:比較優位は机上の空論とは言えない。
5章:資本集約的な財と熟練労働集約的な財を輸出し、非熟練労働集約的な財とエネルギー使用的な財を輸入する傾向にある。日本は熟練労働者が豊富な国だが、日本は熟練集約的な財に対する比較優位を失いつつある。
ここで日本経済の位置づけをGDPを基準に確認しておきます。
安倍政権下でもGDPはそれなりには伸びています。乱高下する為替レートに依存したドル建て名目GDPのデータを何故か持ち出し民主党政権下からGDPが減っているなどと集団オ○ニーしている左と呼ばれる自称右の経済音痴どもがいらっしゃいますが、円高になったら勝ちなら、円高不況という言葉や通貨安競争などという言葉は存在しません。ドル建てで見るならせめてインフレを調整した購買力平価で見るべきでしょう。これで見ても安倍政権下でも引き続きGDPは伸びているということになります(日本のGDPの推移 世界経済のネタ帳)。その他様々な指標からアベノミクスはひとまず成功しているとは言えるでしょう。
では日本は相対的に衰退していると言えないかと言われればそうではありません。
なぜ日本は米国よりも一人当たり購買力平価GDPの順位を下げるのか ~米国を除くTPPよりも大きい米国の購買力~(ITIコラム)
例えば購買力平価GDP(ドル)で見ると、日本はドイツに対してかなり優位にありましたが、最近では人口が少ないドイツにかなり追いつかれています。民主党政権・安倍政権どうこうではなく日本が相対的に衰退してきている傾向は既に明らかな訳です。失われた○○年と言われますが、こうした見解は過度にネガティブなものの見方とは言えません。アベノミクスの成功は地盤沈下をくいとめ勢いを取り戻す道筋をひけるかにかかっているでしょう。人口で調整はしていませんが、ドイツの人口がそう増えているということはなく、その観点はあまり関係ないでしょう(人口の推移(1980~2018年)(ドイツ, 日本) 世界経済のネタ帳)。
一応中国は既にアメリカ以上のGDPを実現しています。ただし人口当たりで見るとまだまだですが(インドは日本の2倍以上GDPがありますが、インドが経済大国と指摘する人はあまりいません。既に中国がNo1であると主張する人=インド経済が日本の2倍以上強いという人になります)。あの国は独裁政権で資源を成長産業に投資できますから、GDPの大きさそのものが脅威とは言えます。
結局のところ、一人あたりの購買力平価GDPが高く経済規模が大きい国が経済大国と言えるのかもしれません(明確な指標はありませんが)。幾ら一人あたりの購買力平価GDPが高くとも小国が経済で存在感を持つことはありません。既に指摘しましたが人口大国だから経済大国と言えるということもありません。世界で活躍する優秀な企業を多く抱えていない経済大国なんて有り得るでしょうか?
一人あたりの購買力平価GDPランキングから中小国を抜いて経済規模を考慮すれば、やはり米国が断トツのトップです。これは富豪ランキングや大企業ランキングを見ても実感されるところで多くの人の感覚に合致すると思います。次いでドイツ。日本の方が経済規模ではまだ上回りますが、相対的に追いつかれている傾向は否めません。次に英仏と来て、日本になります。勿論人口規模を考慮すればまだ日本の方が上ですが、追いつかれているのに勝っている部分を見つめて自分を慰めてもしょうがないでしょう。韓国の人口は日本の半分以下ですが、既に日本を上回っています。台湾は韓国以上に人口が少なく韓国より大分上回っており、台湾が韓国以上の経済大国と主張する人もいないでしょうから、既に韓国が日本より強いは妄想ですが、やはり危機感は必要だと考えられます。ちなみにトップ30に中国は存在していませんが、中国が経済大国でないという人もいませんので、とりあえずこれを見ておけばいいという指標はないのかもしれません。
日本の場合、生産性の伸びを欠き、相対的にGDPが劣位になってきていますから、やはりここを改善することこそが経済の目標になるべきではないかと考えます。
貿易の話に戻ると、目標を達成した結果、現状の輸出産業がどうなるかは分からないということになるでしょう。これまで日本は米国と違った感じの輸出企業が強い経済になっていますが(内需の国だと指摘する人もいらっしゃいますが、一面の真実でしょう。日本の代表的な企業を見れば、あるい円高不況という言葉を考えれば、輸出産業が有利が日本の国益もまた一面の真実と言えます)、経済が強くなった結果、要素価格や為替の変動で輸出企業の比較優位が揺らぐ可能性も否定はできません。自動車産業など日本の輸出産業は新しい技術(これは日本で研究する必要があります)に対応できれば生き残ると思いますが、相対的な地位がどうなるかは分からないところはあります。日本は輸出企業が強いから円安誘導で輸出立国!は中々通用しません。トランプが怒り出すというのもありますが、通貨安競争は世界で嫌われバッシングの対象になります。熟練集約的な財の比較優位が失われつつあるというなら、新しい技術を持つ人材の育成・採用を心がけ人的資本の蓄積をはかる必要はありますが、相対的な地盤沈下に目を瞑り、今のままの日本を維持することを目標に据えるべきではないと筆者は考えます。そんなことは不可能ですし、弱体化から目を逸らし自分は弱体化していないと言い張るような恥ずかしいことになります。
だから輸出企業の勝ち残りは日本にとって重要ですし人材育成など適切なサポートはあっていいと思いますが、貿易立国・輸出立国の旗は立てるべきではないと考えます。貿易で勝つために諸条件をいじろうとするとおかしなことになりかねませんし、日本の衰退に目を瞑ることになります。自動車産業は勝ち残っていますが、日本が衰退しなかった訳ではありません。輸出企業が新しいステージで勝ち残り易くはなるでしょうし、それも重要だとは考えますが、自動車産業が勝ち残っている現在でどうも上手くいってないのですから、最大の成功でも衰退は続くということになりかねません。
やはり強い輸出産業だけでなく、日本の全ての企業や業界の生産性を底上げして強い日本経済を目指す必要性があります。これが上手く行った時が、失われた○○年が終わった時になり、元通りの強い日本を取り戻すことができると思いますが、その時今の日本の状況が維持できているかは分からないということになります。あるいはアメリカに似た感じが出てくる可能性もあります。全てを底上げすると言っても比較優位のない業界はどうにもなりませんし、無理に救うべきでもありません。そんなことは不可能でもあります。最大の問題は輸出企業ではなく、内需に依存する低生産性を指摘されるサービス業ということになるかもしれません。ここの低いと言われる生産性が上がれば、GDPは激増する可能性があると思います。その結果輸出企業がどうなるかはあまり考えすぎない方がいい気もします。それはその道のプロがどうにかしますし、一部の企業に注目して今のままを維持しても衰退が止るとは思えません。アメリカは強さを維持できれば十分かもしれませんが、日本が今を維持したら衰退が止らないということになります。
ここでEUに少し注目しておくとEUの拡大が好調を支えた面はあるような気はします。アメリカはああいう国ですが、EU諸国が日本に追いつきつつあるというのは何か理由はあるはずです。それは最低賃金かもしれませんし(来週以降にやります)(GDPが上がるというのは人口でなければ生産性が上がったからということになりますが何故生産性が上がったのでしょうか?)、EUかもしれません(弱い国を抱えることで通貨が下がった可能性など考えられます)。EUの考察はいずれやりたいと思いますが、TPPの考察はその辺を踏まえてまたいずれやりたいと思っています(共通通貨がないなど大きく諸条件は異なりますが)。
1章:例え絶対優位が無くとも比較優位から輸出ができ貿易から利益を得ることができる
経済学の常識ですが、著者も指摘するように理解されないことも多いと考えられます。例えばA国の繊維産業とB国の繊維産業でA国の方が良い服を安くつくる技術がある(絶対優位を持つ)としても、A国が繊維産業以上に優れた産業を持つ場合、B国の繊維産業が勝つことがあります。A国の方が強ければ自国通貨高によって輸出がきつくなりますよね。自国内でもっと優れた産業があるなら、そちらに人を集めた方が良い訳です。社長が器用で秘書より上手にコピーをとる能力があるとしても、経営上手の社長は秘書にコピー取りを任せて経営に集中した方が会社の業績は上がる訳で、経済は単に優れた技術がある方が優位にたてるというふうには出来ていません。優れた技術があるということは非常に良いことですが、ここは誤解してはならないポイントでしょう。結局のところ、強いからといって一部の企業・業界ばかりに注目したり、国際環境を無視したりすると経済では誤ると考えられます。
2章:1970年から2009年まで日本は資源や繊維を輸入し自動車・機械・電子製品・半導体等を輸出している。輸出入に共通した主要な貿易相手国は米国・中国・韓国・ドイツ。日本経済と諸外国の結びつきは強くなっている。
日本の自動車産業は他国の自動車産業よりかなり生産性が高く、要素価格(賃金・利子・地代等)や為替レートの多少の変動では比較優位は失われていないとのことです。ただし多少でない変動があれば(以前は強かった)繊維産業のように状況が変わる可能性もないとは言えず、要素価格の上昇や為替レートの下落が起るような政策を進める場合には気をつける必要があると思います。この期間、進む円高で輸出産業が打撃を受けたり、地価の異常な上昇・下落があったり、輸出産業を巡る諸条件は大きく変動していますが、貿易は拡大してきています。
貿易の拡大が必ずしも現状優位にある国の相対的な優位を維持するとは考えにくいところはあります。アメリカはかつて圧倒的な相対的優位を誇りましたし、どの国もアメリカとの貿易を求めています。アメリカの保守派と言われる方々が必ずしも根拠の無い話をしている訳ではないと思います。移民に関する考察もいずれ行いたいと思いますが、外国で生産するよりは移民を呼んで自国で生産した方が効率が良いという研究成果を読んだ記憶があります。これは欧米が伸び日本があまり伸びていない事実、日本で優位にあるとされる工業で外国人労働者が呼ばれ易いという事実に符合しているように思えます。大規模移民で日本を救え論をぶつ気はありませんが、こうしたことは考えられていいのではないかと思います。いずれにせよ、相対的優位が縮まるのが嫌だからといって、絶対的な経済力の上昇を無視していいのかに関しては議論が必要です。例えば中国が相対的優位を多少なりとも犠牲にして絶対的に経済力を上昇させアメリカに挑戦してくる可能性もあります。
輸出産業が破れれば雇用は失われますが、その雇用は別の比較優位にある、あるいは内需に依存する企業に移って国全体としては成長すると考えられます。今まで慣れした親しんだ企業の方が効率は勿論いいでしょうが、経済は絶対優位で回っている訳ではありません。比較優位で回っている訳です。潰れる企業はそのまま潰し、人手不足の企業に人を移すのが経済の基本で、そういう国が成長する国だと考えられます(価格破壊で市場を壊した後に値段を吊り上げる戦法など例外は考慮する必要はあります)。
また、地方の雇用が失われて都市への人の集中が起ることが是か非かという観点もあるでしょう。国にとっていいことが必ずしも地域にとっていいことと一致するとは限りません。
3章:比較優位は机上の空論とは言えない。
5章:資本集約的な財と熟練労働集約的な財を輸出し、非熟練労働集約的な財とエネルギー使用的な財を輸入する傾向にある。日本は熟練労働者が豊富な国だが、日本は熟練集約的な財に対する比較優位を失いつつある。
ここで日本経済の位置づけをGDPを基準に確認しておきます。
安倍政権下でもGDPはそれなりには伸びています。乱高下する為替レートに依存したドル建て名目GDPのデータを何故か持ち出し民主党政権下からGDPが減っているなどと集団オ○ニーしている左と呼ばれる自称右の経済音痴どもがいらっしゃいますが、円高になったら勝ちなら、円高不況という言葉や通貨安競争などという言葉は存在しません。ドル建てで見るならせめてインフレを調整した購買力平価で見るべきでしょう。これで見ても安倍政権下でも引き続きGDPは伸びているということになります(日本のGDPの推移 世界経済のネタ帳)。その他様々な指標からアベノミクスはひとまず成功しているとは言えるでしょう。
では日本は相対的に衰退していると言えないかと言われればそうではありません。
なぜ日本は米国よりも一人当たり購買力平価GDPの順位を下げるのか ~米国を除くTPPよりも大きい米国の購買力~(ITIコラム)
例えば購買力平価GDP(ドル)で見ると、日本はドイツに対してかなり優位にありましたが、最近では人口が少ないドイツにかなり追いつかれています。民主党政権・安倍政権どうこうではなく日本が相対的に衰退してきている傾向は既に明らかな訳です。失われた○○年と言われますが、こうした見解は過度にネガティブなものの見方とは言えません。アベノミクスの成功は地盤沈下をくいとめ勢いを取り戻す道筋をひけるかにかかっているでしょう。人口で調整はしていませんが、ドイツの人口がそう増えているということはなく、その観点はあまり関係ないでしょう(人口の推移(1980~2018年)(ドイツ, 日本) 世界経済のネタ帳)。
一応中国は既にアメリカ以上のGDPを実現しています。ただし人口当たりで見るとまだまだですが(インドは日本の2倍以上GDPがありますが、インドが経済大国と指摘する人はあまりいません。既に中国がNo1であると主張する人=インド経済が日本の2倍以上強いという人になります)。あの国は独裁政権で資源を成長産業に投資できますから、GDPの大きさそのものが脅威とは言えます。
結局のところ、一人あたりの購買力平価GDPが高く経済規模が大きい国が経済大国と言えるのかもしれません(明確な指標はありませんが)。幾ら一人あたりの購買力平価GDPが高くとも小国が経済で存在感を持つことはありません。既に指摘しましたが人口大国だから経済大国と言えるということもありません。世界で活躍する優秀な企業を多く抱えていない経済大国なんて有り得るでしょうか?
一人あたりの購買力平価GDPランキングから中小国を抜いて経済規模を考慮すれば、やはり米国が断トツのトップです。これは富豪ランキングや大企業ランキングを見ても実感されるところで多くの人の感覚に合致すると思います。次いでドイツ。日本の方が経済規模ではまだ上回りますが、相対的に追いつかれている傾向は否めません。次に英仏と来て、日本になります。勿論人口規模を考慮すればまだ日本の方が上ですが、追いつかれているのに勝っている部分を見つめて自分を慰めてもしょうがないでしょう。韓国の人口は日本の半分以下ですが、既に日本を上回っています。台湾は韓国以上に人口が少なく韓国より大分上回っており、台湾が韓国以上の経済大国と主張する人もいないでしょうから、既に韓国が日本より強いは妄想ですが、やはり危機感は必要だと考えられます。ちなみにトップ30に中国は存在していませんが、中国が経済大国でないという人もいませんので、とりあえずこれを見ておけばいいという指標はないのかもしれません。
日本の場合、生産性の伸びを欠き、相対的にGDPが劣位になってきていますから、やはりここを改善することこそが経済の目標になるべきではないかと考えます。
貿易の話に戻ると、目標を達成した結果、現状の輸出産業がどうなるかは分からないということになるでしょう。これまで日本は米国と違った感じの輸出企業が強い経済になっていますが(内需の国だと指摘する人もいらっしゃいますが、一面の真実でしょう。日本の代表的な企業を見れば、あるい円高不況という言葉を考えれば、輸出産業が有利が日本の国益もまた一面の真実と言えます)、経済が強くなった結果、要素価格や為替の変動で輸出企業の比較優位が揺らぐ可能性も否定はできません。自動車産業など日本の輸出産業は新しい技術(これは日本で研究する必要があります)に対応できれば生き残ると思いますが、相対的な地位がどうなるかは分からないところはあります。日本は輸出企業が強いから円安誘導で輸出立国!は中々通用しません。トランプが怒り出すというのもありますが、通貨安競争は世界で嫌われバッシングの対象になります。熟練集約的な財の比較優位が失われつつあるというなら、新しい技術を持つ人材の育成・採用を心がけ人的資本の蓄積をはかる必要はありますが、相対的な地盤沈下に目を瞑り、今のままの日本を維持することを目標に据えるべきではないと筆者は考えます。そんなことは不可能ですし、弱体化から目を逸らし自分は弱体化していないと言い張るような恥ずかしいことになります。
だから輸出企業の勝ち残りは日本にとって重要ですし人材育成など適切なサポートはあっていいと思いますが、貿易立国・輸出立国の旗は立てるべきではないと考えます。貿易で勝つために諸条件をいじろうとするとおかしなことになりかねませんし、日本の衰退に目を瞑ることになります。自動車産業は勝ち残っていますが、日本が衰退しなかった訳ではありません。輸出企業が新しいステージで勝ち残り易くはなるでしょうし、それも重要だとは考えますが、自動車産業が勝ち残っている現在でどうも上手くいってないのですから、最大の成功でも衰退は続くということになりかねません。
やはり強い輸出産業だけでなく、日本の全ての企業や業界の生産性を底上げして強い日本経済を目指す必要性があります。これが上手く行った時が、失われた○○年が終わった時になり、元通りの強い日本を取り戻すことができると思いますが、その時今の日本の状況が維持できているかは分からないということになります。あるいはアメリカに似た感じが出てくる可能性もあります。全てを底上げすると言っても比較優位のない業界はどうにもなりませんし、無理に救うべきでもありません。そんなことは不可能でもあります。最大の問題は輸出企業ではなく、内需に依存する低生産性を指摘されるサービス業ということになるかもしれません。ここの低いと言われる生産性が上がれば、GDPは激増する可能性があると思います。その結果輸出企業がどうなるかはあまり考えすぎない方がいい気もします。それはその道のプロがどうにかしますし、一部の企業に注目して今のままを維持しても衰退が止るとは思えません。アメリカは強さを維持できれば十分かもしれませんが、日本が今を維持したら衰退が止らないということになります。
ここでEUに少し注目しておくとEUの拡大が好調を支えた面はあるような気はします。アメリカはああいう国ですが、EU諸国が日本に追いつきつつあるというのは何か理由はあるはずです。それは最低賃金かもしれませんし(来週以降にやります)(GDPが上がるというのは人口でなければ生産性が上がったからということになりますが何故生産性が上がったのでしょうか?)、EUかもしれません(弱い国を抱えることで通貨が下がった可能性など考えられます)。EUの考察はいずれやりたいと思いますが、TPPの考察はその辺を踏まえてまたいずれやりたいと思っています(共通通貨がないなど大きく諸条件は異なりますが)。