考えるための道具箱

Thinking tool box

◎『献灯使』多和田葉子(群像8月号)

2014-07-25 00:12:53 | ◎書
多和田葉子が『献灯使』で描く近未来は、最近の彼女のテーマの「鎖国」を軸に、日本を端緒に世界のすべてエコシステムがくずれていく世の中。たくさんの死んでしまった言葉への回想があったり、いっぽうで「言葉」を輸出し潤う国があったり、旧人類が新人類の適者生存を全面的に受容する感覚とか、その新人類が鳥っぽくなっていく描写とか、わずか100年のあいだにあっという間に起こってしまう出来事が多和田らしい蓋然性をもって語られる。
「私を離さないで」にも似た静謐さで語られる個々のエピソードが、悲壮だけれど微笑ましくもみえるのは、グローバリズムから遡行した世界、第一次産業が優位な世界こそが理想ではないかと思わせるからかもしれない。そういった側面は確かにある。人が自然と宇宙に逆らって犯してきた罪を、刺していく言葉はいちいち小気味よい。
しかし、最後まで読んだときに、根源的に賛同できない核心が見え隠れするのもまた事実だ。
ひとつは、新世界へと進化する重大なきっかけが日本であるとするなら、あのグルメ漫画との違いは何なのだろう?
そしてもうひとつは人間信頼のレベル差。結果として選択されているさまざまな、退化とも思える進化は人間が信じるにたるものの証しではある。しかし、一方で子どもを救うために、人間はもう少し頑張れたのではないだろうか。その人間の頑張りをもう少し信じるべきなのではないかと思うし、信じたいと思う。甘いのだろうか。

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