爾来、家に帰ってからも、あの球体の白の美しさが忘れられず、仕事の合間をみながらこうして想いを書き留めていたわけだけれど、どうにも頭が重く見通しが冴えない、これは先ごろ突発的に起った本年度最大の災厄せいかだろうか、とあれこれ思いを馳せていたところ、このかた3ヶ月ほど理容に行っていないことを思い出し、そのストレスの出所が重力という物理的な要因であったことに胸をなでおろすと同時に、散髪を急きょ午後からの計画に組み入れた。
そもそも、ファッションとかブランドにはひとかどの見識もこだわりもなく、そんなもの、とりわけ服とか鞄のブランド名称なんかに盲目的に固執するのは田舎物の所業である、という程度のお寒い主張しか落ち合わせていない浅学の人間なので、同じくヘアスタイリングにおいても表参道・青山界隈でことをなす必要もなく、この1年ほどは、町内の随一のおしゃれさんで、しかし残念な感じの理髪店を、家から徒歩1分という理由だけで愛用していた。しかし、調髪中に執拗に繰り返される店主のビリーズ・ブート・キャンプ体験談に辟易し、それだけでなく度を越した熱弁に「あんたのような身体つきの人間こそ入隊したほうがよいのではないか」という他意すら感じるに至り、しばらくは、円天でも使えない限りはお世話になることはないなと思っていたので、以前、利用していた、カット料金にして1.6倍、その分おしゃれ度も1.6倍のヘアサロンに再帰することにした。行く道すがら、件のビリーの店を覗き見たところ閑散としており、どうやら隊長の帰国と同じくして栄華も零落したようで、一介の隊員であった店主にはなんの責任もないとはいえ、一時の流行に企業のビジョンを委ねてしまうことの怖さを感じた。
1.6倍のヘアサロンは、しばらく行かない間に、まるでエステティックTBCのような妖艶なつくりに意匠変えされていたため、男性の理容は廃業したのだなと確信し、その華麗な装飾の気恥ずかしさから一刻も早く解放されたい一心で、反射的に踵を返してはみたものの、ブート・キャンプに再志願するというのもきまりが悪いので、もう一度踵をひねり返して、意を決して、店頭にたたずむキャバ嬢に「ここは1年ほど前まではメンズが栄え誇っていた場所ではなかったですか」とたずねてみたところ、「いまもやってます。おんなじシステムです。いまなら5分で案内できます。こちらでお待ちください」と、そのパープーなさまからは想像し難い、一点の曇りもない手際のよい回答を得ることができたので、一切を委ねることにした。待合で、これでは読者をバカにしていると、とらえられてもしようがないんじゃいかと思えるほどイージーな貫成人の新刊「入門・哲学者シリーズⅠ ニーチェ すべてを思い切るために:力の意志」に目を通しながら、こうして過ごした目的や充実のない1日を前に「これが生きるということであったのか。わかった、よしもう一度」と永劫回帰を呑み込むことに成功した自分を称えた。そして、整髪後は書店に赴き、「入門・哲学者シリーズⅡ フーコー 主体という夢:生の権力」も、購っておこうと易きに流れた。
以下続刊。
『カント――わたしはなにを望みうるのか:批判哲学』
『ハイデガー――存在の贈与: 存在論』
『デカルト――絶対確実なもの: コギト』
『ホッブズ――欲望と国家: リヴァイアサン』
『スピノザ――すがすがしい従属: 永遠の相のもとに』
『ヘーゲル――近代精神の完成: 絶対精神』
『マルクス――人間の条件: 唯物史観』
『フッサール――生きられた現実: 現象学』
『ウィトゲンシュタイン――意味から自由であること: 言語ゲーム』
『サルトル――わたしである自由: 実存主義』
『メルロ=ポンティ――世界の手触り: 身体的実存』
『レヴィナス――わたしはいつ脅かされるか: 他者の顔』
『ラカン――自我の構造: 構造主義的精神分析』
『デリダ――西洋哲学という不可能: 脱構築』
『ドゥルーズ――現代社会の深層: 生産する欲望』
『ボードリヤール――作られる欲望: シミュラークル』
『ネグリ & ハート――グローバリゼーションとはなにか: 帝国』
そもそも、ファッションとかブランドにはひとかどの見識もこだわりもなく、そんなもの、とりわけ服とか鞄のブランド名称なんかに盲目的に固執するのは田舎物の所業である、という程度のお寒い主張しか落ち合わせていない浅学の人間なので、同じくヘアスタイリングにおいても表参道・青山界隈でことをなす必要もなく、この1年ほどは、町内の随一のおしゃれさんで、しかし残念な感じの理髪店を、家から徒歩1分という理由だけで愛用していた。しかし、調髪中に執拗に繰り返される店主のビリーズ・ブート・キャンプ体験談に辟易し、それだけでなく度を越した熱弁に「あんたのような身体つきの人間こそ入隊したほうがよいのではないか」という他意すら感じるに至り、しばらくは、円天でも使えない限りはお世話になることはないなと思っていたので、以前、利用していた、カット料金にして1.6倍、その分おしゃれ度も1.6倍のヘアサロンに再帰することにした。行く道すがら、件のビリーの店を覗き見たところ閑散としており、どうやら隊長の帰国と同じくして栄華も零落したようで、一介の隊員であった店主にはなんの責任もないとはいえ、一時の流行に企業のビジョンを委ねてしまうことの怖さを感じた。
1.6倍のヘアサロンは、しばらく行かない間に、まるでエステティックTBCのような妖艶なつくりに意匠変えされていたため、男性の理容は廃業したのだなと確信し、その華麗な装飾の気恥ずかしさから一刻も早く解放されたい一心で、反射的に踵を返してはみたものの、ブート・キャンプに再志願するというのもきまりが悪いので、もう一度踵をひねり返して、意を決して、店頭にたたずむキャバ嬢に「ここは1年ほど前まではメンズが栄え誇っていた場所ではなかったですか」とたずねてみたところ、「いまもやってます。おんなじシステムです。いまなら5分で案内できます。こちらでお待ちください」と、そのパープーなさまからは想像し難い、一点の曇りもない手際のよい回答を得ることができたので、一切を委ねることにした。待合で、これでは読者をバカにしていると、とらえられてもしようがないんじゃいかと思えるほどイージーな貫成人の新刊「入門・哲学者シリーズⅠ ニーチェ すべてを思い切るために:力の意志」に目を通しながら、こうして過ごした目的や充実のない1日を前に「これが生きるということであったのか。わかった、よしもう一度」と永劫回帰を呑み込むことに成功した自分を称えた。そして、整髪後は書店に赴き、「入門・哲学者シリーズⅡ フーコー 主体という夢:生の権力」も、購っておこうと易きに流れた。
以下続刊。
『カント――わたしはなにを望みうるのか:批判哲学』
『ハイデガー――存在の贈与: 存在論』
『デカルト――絶対確実なもの: コギト』
『ホッブズ――欲望と国家: リヴァイアサン』
『スピノザ――すがすがしい従属: 永遠の相のもとに』
『ヘーゲル――近代精神の完成: 絶対精神』
『マルクス――人間の条件: 唯物史観』
『フッサール――生きられた現実: 現象学』
『ウィトゲンシュタイン――意味から自由であること: 言語ゲーム』
『サルトル――わたしである自由: 実存主義』
『メルロ=ポンティ――世界の手触り: 身体的実存』
『レヴィナス――わたしはいつ脅かされるか: 他者の顔』
『ラカン――自我の構造: 構造主義的精神分析』
『デリダ――西洋哲学という不可能: 脱構築』
『ドゥルーズ――現代社会の深層: 生産する欲望』
『ボードリヤール――作られる欲望: シミュラークル』
『ネグリ & ハート――グローバリゼーションとはなにか: 帝国』