『利益や売上げばかり考える人は、なぜ失敗してしまうのか』(ダイヤモンド社)というタイトルからは想像しにくいと思うけれど、じつは、紺野登+目的工学研究所の本。つまり、フロネシス、知識デザイン、さらに場、創発などの考え方から派生的に「目的工学」というものを提唱している。
「高次の目的(パーパス)と個々の目的、その目的によって実践される手段との間においてしかるべき関係性が求められます。…それを偶然に任せるのではなく、また無手勝流で試行錯誤するのでもなく、何らかの方法論を見出し、体系化しようというのが、われわれ目的工学研究所のミッション」
ということだ。「目的」なんてそんなに難しく考えることなのか?と思ってしまいがちだけれど、やはり、なんの戦略も見識も技術もないまま「利益や売上」を盲目的に大目的として捉えてしまう人が少なからずいることをみるにつけ、「目的論」のようなものはあらためて正式に学習プログラムとして加えたほうがいいのではないかとも思う。
目的工学研究書の基本認識として以下のことが掲げられていて、言うまでもなく紺野登先生(と野中郁次郎先生)の考えを敷衍しかつ凝縮させているような考えではあるのだが、基本的なことではあるが慧眼でもある。
「第一に……「アリストテレスの実践的三段論法」です。これは、目的の時代において再発見されるべき思考法であり、目的と手段の判断、そして実践という過程のなかに「フロネシス」(賢慮/実践的な知恵)を埋め込むものです。」
重要な話であるが、これは彼らの研究のすばらしいダイジェストである『知識創造経営のプリンシプル』で充分に語られた話であり、つまり「目的工学」が「知識創造」を前提にしているということの宣言にすぎないで、着目したいのは二つ目の基本認識だ。
「第二に、一人ひとりの目的(パーパス)や思いに基づく行為を調整すること、すなわり、組織的なオーケストレーションを図ることです。」
きっと重要なのは「調整」なのだと思う。とりわけ中小規模の組織であれば、この「調整」こそが組織と成員を大きくかえていく、小さなトリガーになると思える。
基本的には「組織の目的」があり、その目的の枠内で成員が調整しながら「個人の目的」を設定してくわけだが、個人が自律的で創造的であればあるほど「個人の目的」が成長し、「組織の目的」に調整・変容を要求する状況がうまれてくる。そして組織は、枠に収まりきれなくなった個人を受け入れるために、「組織の目的」を調整する。このあくなきチューニングの繰り返しこそが、個人の変容を前提とした組織の変容を生み出す。こんなふうに理解したい。
つねに目的意識をもつ。こう書いてしまうと当たり前の話に見えてしまうが、「目的意識」を見失わせてしまうような外環境を与えてしまう、といったことはありがちだ。たとえば、以下の例の前者のように。
「人間が何かを達成する過程について、異なる2つの考え方があります。一つは、物事を達成する道筋をタスク(作業)の積み重ねと見なし、分業によって遂行しようとする考え方です。もうい一つは、人間が何かをなすのは、個々の意識的な努力、つまり目的(パーパス)と意志に基づく主観的行為の連携からなるとするものです。われわれは後者の考え方に立っています。ですから、そのために目的群の調整が重要なのです。」
正解である後者は、言ってしまえば「内発的動機づけ」ということでもある。こういったことをゲーミフィケーションと理解してしまう人もいるのかもしれないが、「達成する意味のある目的」を用意し、「達成後の個人の成長・変容」を企図するという点で、少し位相が違うと思う。
そういったことを、自然体で理解するために、この本は役に立つんじゃないかな。というか、やはり研修しないといけないかな。