あいかわらず、パソコンと討議と移動の毎日。一昨日と昨日も、得意先の研究所まで出向いたのだけど、たくさんのドキュメントが必要になるため、Victorinoxの「ウェブ・マネージャー」がネコ型未来ロボットっぽく膨張している。PCがY4に変わって超軽量化がはかれているとはいえ、総重量は限りなく河原の石に近い。
それでも、移動に合間に読むための本は捨てられないわけで、そういった場合は、仕事&趣味で2冊を厳選することになる。幸いにも、今週は迷うことのない2冊がエントリーされた。
◆
仕事の本は『新訳 経験経済~脱コモディテイ化のマーケティング戦略』。もうほとんど題名以上の解説は必要ないような内容なんだけれど、物語(ストーリーorコト)マーケティングなどを肉付けしていくためにはよい材料となる。
企業が顧客に提供する価値は「コモディテイ」⇒「製品」⇒「サービス」と進化してきており、現在では「経験」というステージに直面しているというマーケティングアイデアを、事例やいくつかのフレームと箴言を中心にして解説しており、著者のこれまでの考えである「マス・カスタマイゼーション」を基盤にした論が展開されている。
「経験経済」にとって必要な機能は「演出」であり、特性は「カスタマイズ」を超えて「個人的」であり、「思い出に残る」ことを重要なと特長としなければならず、それゆえに需要の源を「感動」としなければならない、というのはたとえばディズニーランドなどをベストプラクティスとして語りつくされた感はある。
しかし、これまでは「サービス業」の枠内でしかとらえきれなかった方法論を、たとえば「“製品”はあくまで“小道具”として“物語”をつくっていくという発想」のもと「製造業」にも展開できるフレームとして提供したところは、2005年現在汎用性が高い。5年前、(日本では)多少は尚早に感じられたアイデアが、ちょうどタイムゾーンに入ってきた。それゆえにアイデア自体がコモディテイ化しているという考えもあるかもしれないが、製造業はもちろん、自身の仕事を「サービス業」とは認識できな販売の現場では、まだまだこれからのコンセプトである。
◆
趣味の本はスティーブ・エリクソンの『アムニジア・スコープ』。待ちわびて、待ちつかれて忘れていた10年ほどの前の作品が、柴田元幸の訳でようやく。だいたい、集英社ってところは、なんの前触れもなくこういった重要な本を出しちゃうんだよね。いまではほとんど文芸出版がなくなっている集英社が、それでもこの手の翻訳を出し続けるのは、過去連綿と続く集英社の世界文学なるものに対する矜持があるからだろうけれど、それならぶだんからもっと翻訳してくれっての。権利関係がうまくいっているやつは徹底的にやるんだけどね。ロスとか。まあ、それはどこでもおんなじか。
スティーブ・エリクソンの作品は、それが島田雅彦や越川芳明はもとより柴田元幸の訳であっても、構造の分断とズレや時制の倒置による複雑性、幻視などの重層性により、読みの速度が加速するまではかなりの助走が必要になる。そのため、ディープなファンは一定数存在するのだけれど、日本はもとよりじつは本国でも不当に評価が低いらしいのだが、読み進めていくうちにエリクソン節の要諦がつかめれば、つまり、壮大で濃密なエネルギーの発信にもかかわらず核心と確信が見つけにくいという事実これこそがエリクソンの世界である、といことを受容できれば(それに慣れることができれば)、ほかにはない読書体験ができる小説ではある。あきらかにフォークナーとガルシア・マルケスの子どもであり、その点から、とりわけマジック・リアリズム的や土着性みたいなものへの匂いが楽しみたい人にとってはもってこいのストーリーではある。
そんなことなので(というか例によってほかにもたくさんの考えごとが多くて)、『アムニジア・スコープ』は、まだ加速はしていないんだけれども、どうやら、前述したようなこれまでのゴシック的な作品とはずいぶん違っているようだ。自伝的といわれているだけあって、彼がいくつか発表しているアメリカを憂うノン・フィクションのようでもあるが、いずれにしても、世界は狭くてわかりやすい。
震災後のL.A.がいくつもの炎の輪で寸断されているところや、理由はよくわからないけれどいくつもの「タイムゾーン」ができていて、しょっちゅう時計を進めたり遅らせたりしているところはあいかわらずだけど、明らかな現代性はこれまでの作品とは違った魅力がある。冒頭を読む限りでは、デリーロのような印象もあるが、そのあたりは読み進めていくうちに変容していくだろう。
『黒い時計の旅』が、白水Uブックス化されたときには一部で話題になったことでもわかるように、すでに手に入りにくくなっているエリクソンの本が、こういった機会をへて、新訳も含めて流通活性化することを願うばかりだ。
そして、ぼく自身が、こういった愉しみがたっぷりつまった本をじっくりスローペースで読める時間が確保できるようになることを願うばかりだ。来月だって、ブローディガンやカポーティの『冷血』やら村上春樹の『東京奇譚集』なんかが待ってんだから。
それでも、移動に合間に読むための本は捨てられないわけで、そういった場合は、仕事&趣味で2冊を厳選することになる。幸いにも、今週は迷うことのない2冊がエントリーされた。
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仕事の本は『新訳 経験経済~脱コモディテイ化のマーケティング戦略』。もうほとんど題名以上の解説は必要ないような内容なんだけれど、物語(ストーリーorコト)マーケティングなどを肉付けしていくためにはよい材料となる。
企業が顧客に提供する価値は「コモディテイ」⇒「製品」⇒「サービス」と進化してきており、現在では「経験」というステージに直面しているというマーケティングアイデアを、事例やいくつかのフレームと箴言を中心にして解説しており、著者のこれまでの考えである「マス・カスタマイゼーション」を基盤にした論が展開されている。
「経験経済」にとって必要な機能は「演出」であり、特性は「カスタマイズ」を超えて「個人的」であり、「思い出に残る」ことを重要なと特長としなければならず、それゆえに需要の源を「感動」としなければならない、というのはたとえばディズニーランドなどをベストプラクティスとして語りつくされた感はある。
しかし、これまでは「サービス業」の枠内でしかとらえきれなかった方法論を、たとえば「“製品”はあくまで“小道具”として“物語”をつくっていくという発想」のもと「製造業」にも展開できるフレームとして提供したところは、2005年現在汎用性が高い。5年前、(日本では)多少は尚早に感じられたアイデアが、ちょうどタイムゾーンに入ってきた。それゆえにアイデア自体がコモディテイ化しているという考えもあるかもしれないが、製造業はもちろん、自身の仕事を「サービス業」とは認識できな販売の現場では、まだまだこれからのコンセプトである。
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趣味の本はスティーブ・エリクソンの『アムニジア・スコープ』。待ちわびて、待ちつかれて忘れていた10年ほどの前の作品が、柴田元幸の訳でようやく。だいたい、集英社ってところは、なんの前触れもなくこういった重要な本を出しちゃうんだよね。いまではほとんど文芸出版がなくなっている集英社が、それでもこの手の翻訳を出し続けるのは、過去連綿と続く集英社の世界文学なるものに対する矜持があるからだろうけれど、それならぶだんからもっと翻訳してくれっての。権利関係がうまくいっているやつは徹底的にやるんだけどね。ロスとか。まあ、それはどこでもおんなじか。
スティーブ・エリクソンの作品は、それが島田雅彦や越川芳明はもとより柴田元幸の訳であっても、構造の分断とズレや時制の倒置による複雑性、幻視などの重層性により、読みの速度が加速するまではかなりの助走が必要になる。そのため、ディープなファンは一定数存在するのだけれど、日本はもとよりじつは本国でも不当に評価が低いらしいのだが、読み進めていくうちにエリクソン節の要諦がつかめれば、つまり、壮大で濃密なエネルギーの発信にもかかわらず核心と確信が見つけにくいという事実これこそがエリクソンの世界である、といことを受容できれば(それに慣れることができれば)、ほかにはない読書体験ができる小説ではある。あきらかにフォークナーとガルシア・マルケスの子どもであり、その点から、とりわけマジック・リアリズム的や土着性みたいなものへの匂いが楽しみたい人にとってはもってこいのストーリーではある。
そんなことなので(というか例によってほかにもたくさんの考えごとが多くて)、『アムニジア・スコープ』は、まだ加速はしていないんだけれども、どうやら、前述したようなこれまでのゴシック的な作品とはずいぶん違っているようだ。自伝的といわれているだけあって、彼がいくつか発表しているアメリカを憂うノン・フィクションのようでもあるが、いずれにしても、世界は狭くてわかりやすい。
震災後のL.A.がいくつもの炎の輪で寸断されているところや、理由はよくわからないけれどいくつもの「タイムゾーン」ができていて、しょっちゅう時計を進めたり遅らせたりしているところはあいかわらずだけど、明らかな現代性はこれまでの作品とは違った魅力がある。冒頭を読む限りでは、デリーロのような印象もあるが、そのあたりは読み進めていくうちに変容していくだろう。
『黒い時計の旅』が、白水Uブックス化されたときには一部で話題になったことでもわかるように、すでに手に入りにくくなっているエリクソンの本が、こういった機会をへて、新訳も含めて流通活性化することを願うばかりだ。
そして、ぼく自身が、こういった愉しみがたっぷりつまった本をじっくりスローペースで読める時間が確保できるようになることを願うばかりだ。来月だって、ブローディガンやカポーティの『冷血』やら村上春樹の『東京奇譚集』なんかが待ってんだから。