愛媛の伝承文化

大本敬久。民俗学・日本文化論。災害史・災害伝承。地域と文化、人間と社会。愛媛、四国を出発点に考えています。

聖霊動物としての牛

2002年10月25日 | 信仰・宗教

『大分県の祭礼行事』(大分県立宇佐風土記の丘歴史資料館、平成7年発行)に大分県湯布院町の蝗攘祭という虫送り行事が紹介されている。「湯布院町では、湯布院盆地祭りの一環として蝗攘祭りを実施している。八月十五日の夜八時、十数頭の牛に乗せられた藁人形『実盛どん』が湯布院小学校から出発し、町内中心部を練り歩く。行列の最初に法螺貝を吹き鳴らす男が二人進み、鉄砲と弓矢を持つ足軽が続く。その後を旗と幟を押し立て、松明を持った数十人の男達が進む。その後を実盛どんの乗った牛を二人ずつ男達が引いて行く。実盛どんは藁で作られ、隈取りをした恐ろしげな顔を描いた布を頭部に巻いており、胴体には矢が刺さっている。男達は空き缶をたたきながら、『実盛どんのゴウ(強)死んだ。あーた(後は)富貴万福利』と唱えながら練り歩く。行列は、最後に白滝川と大分川との合流地点まで進み、足軽役が火矢を山と積んだ木の中に射込む。そして、大きく燃え上がった焚き火の中に実盛人形を投げ込む。」とある。
 盆に行われる行事の中で実盛人形が登場する例は珍しいが、その実盛を牛に乗せるというのは興味深い。この蝗攘祭では、実盛が送られる虫を象徴していて、一種聖的な存在だが、それを牛に乗せるというのは、牛が聖霊の乗り物であることを意味している。例えば、日本では、絵馬の起源を語る際に、馬が神霊の乗り物であり、馬形を神に奉納することが発展して絵馬の習俗が始まったとよくいわれる。牛が聖霊の乗り物もしくは、供奉する事例として、愛媛県南予地方の牛鬼が挙げられることは筆者が主張していることである。祭礼の際に神輿の先導として牛鬼が登場しており、神に供奉する牛としての性格が見られるのである。一般には馬が神に供奉する動物である事例が多いのだが、聖霊としての牛文化というものを取り上げてみる必要があると思っている。

2002年10月25日

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