愛媛の伝承文化

大本敬久。民俗学・日本文化論。災害史・災害伝承。地域と文化、人間と社会。愛媛、四国を出発点に考えています。

江戸時代に伊予から渡った太鼓台

2011年10月31日 | 祭りと芸能
先日行われた岡山県倉敷市玉島の乙島祭り。戸島神社の祭礼である。この祭礼は千歳楽(いわゆる太鼓台)、御船、獅子だんじりなどが登場するもので、毎年10月最終土日曜日に賑やかに行われる。

この戸島神社の祭礼は江戸時代後期にはほぼ現在の形が完成している。文政9(1826)年の養父母宮(戸島神社の旧名)の「御神幸行列帳」には、「御船」、「御輿太鼓」(現在の千歳楽、中山、川崎、船堀、高地地区)、「男獅子」、「女獅子」(畑、堀貫地区)の記録が見える。

千歳楽や御船は「大場物」といわれ、その巡幸の順番は祭礼に取り入れられた時代順、つまり制作年代順となっている。千歳楽で最初に出るのは、写真で紹介している中山地区のものである。

実はこの中山の千歳楽は、愛媛県に関連する伝承がある。

文政3(1820)年、伊予国で中古の千歳楽(太鼓台)が売り出されていたものを、地元中山の猪木與五兵衛義直が大半の金子を寄付し、購入したものだという。

これは平成7年に乙島祭り保存会が編集、発行した『乙島祭り写真集』に記載されている。

いまから約190年前に、伊予から岡山に太鼓台が渡っていることは非常に興味深い。今回は神社関係者や自治会長さんから事前に電話でお話をうかがって、現地では祭りで出ている中山の千歳楽の撮影に終始したが、文政年間に購入した経緯等を記した一次史料を確認することはできなかった。

しかし、祭礼の巡幸の順序が千歳楽導入の時代順となっており、しかもここでは詳細は省くが中山地区の歴史的な位置づけをいろいろ調べてみると、江戸時代に瀬戸内海を越えて千歳楽(太鼓台)を購入したという伝承には、無理がないような印象を持った。

伊予の側からいえば、東予地方では四国中央市にて「神輿太鼓」が寛政元(1789)年には登場し、同年には近隣の香川県大野原でも「ちょうさ太鼓」が登場している。また、文化3(1806)年には「神輿太鼓」が5台出ていたことが川之江の「役用記」からもわかっており、1800年代初頭には既に四国中央市では祭礼屋台の主流は「神輿太鼓」(いまの太鼓台)であった。1820年に売り出されて中山が購入したという話も、当時の伊予の祭礼の状況を考えても不可思議ではない。

なお、太鼓台といえば新居浜が有名であるが、新居浜における太鼓台の初見は文政5(1822)年であり、1820年に中山が購入が新居浜からだったかどうかは判断できない。新居浜の祭礼については文政9(1826)年の一宮神社の記録に「近年になってみこし太鼓というものがあらわれた」という旨の記述があり、1820年代頃に新居浜も太鼓台を導入したと推察されている。これについては新居浜市が発行している『新居浜太鼓台』に詳しい。

そして新居浜以西には、太鼓台は今治市、上島町、松山市沖の旧中島町、そして南予地方各地あるものの新居浜以東のような彫刻や刺繍飾りの発達したものはみられない。

以上のことから、中山の千歳楽は、四国中央市(川之江、三島)から購入されたと推測するのが妥当だと思われる。

参考までに10年ほど前、愛媛県内から県外に払い下げられた太鼓台を私がリスト化したことがあるが、そのリストメモを紹介してきたい。(大本敬久「愛媛の祭礼風流誌」『愛媛県歴史文化博物館研究紀要』第6号)

香川県 丸亀市 上分の太鼓 昭和初期頃に川之江の上分より
香川県 丸亀市 二軒茶屋の太鼓 昭和初年に川之江より
香川県 坂出市 新浜太鼓台 昭和3年に新居浜田之上より
香川県 坂出市 浜西太鼓台 昭和5年に新居浜中須賀より
香川県 坂出市 新開太鼓台 大正10年代に新居浜より
香川県 観音寺市 西下太鼓台 明治時代後期に新居浜より
香川県 観音寺市 西上太鼓台 大正時代末期に新居浜より
香川県 観音寺市 明下太鼓台 明治32年頃に川之江方面から
香川県 観音寺市 新田太鼓台 明治時代中期に愛媛県から
香川県 観音寺市 室本太鼓台 明治時代中期に新居浜より
香川県 観音寺市 出作北太鼓台 明治28年頃に愛媛県より
香川県 観音寺市 出作南太鼓台 昭和12年頃に東予より
香川県 観音寺市 丸西太鼓台 昭和6年頃に西条より
香川県 観音寺市 丸中太鼓台 昭和11年に新居浜より
香川県 観音寺市 信末太鼓台 大正時代末期に伊予三島より
香川県 観音寺市 奥谷太鼓台 明治20年頃に土居より
香川県 観音寺市 常次太鼓台 明治10年代に愛媛県より
香川県 観音寺市 下野太鼓台 明治時代初期に伊予三島より
香川県 観音寺市 下出太鼓台 大正3年頃に新居浜より
香川県 観音寺市 山田太鼓台 明治18年頃に西条市飯岡より
香川県 満濃町 木の崎太鼓台 明治15年頃に伊予三島方面より
香川県 満濃町 杉の上太鼓台 明治30年頃に愛媛県より
香川県 山本町 下河内太鼓台 愛媛県から購入。年代不詳。
香川県 山本町 山本西太鼓台 昭和初期に新居浜久保田より
香川県 大野原町 本村太鼓台 大正5年に川之江川滝より
香川県 大野原町 中林太鼓台 昭和10年頃に東予より
香川県 財田町 大野地太鼓台 明治時代中期に伊予三島より
広島県 三原市 能地だんじり 明治時代に新居浜大江より大長を経る
広島県 豊町 大長櫓 明治20年頃に新居浜より

このリストメモを見ると、県外へ出た時期はすべて明治時代以降である。今回の中山の千歳楽(太鼓台)が江戸時代の文政年間に伊予から購入したという話は、これまで把握していた太鼓台県外流出の年代観を覆すものであり、1800年代前半には伊予の太鼓台(当時の呼称からすれば神輿太鼓)が新調を重ねるほど定着していたことが見えてくる。岡山県倉敷市の乙島祭り(戸島神社祭礼)は、伊予の祭礼の歴史を考える上で重要といえるのだが、これは乙島祭りに限ったことではない。瀬戸内海近県の祭礼を見ないと愛媛の中だけの材料で祭礼史を理解するのは難しい。




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南予の人形屋台2

2011年10月29日 | 祭りと芸能
西予市明浜町高山の秋祭りに登場する人形屋台の人形。地元では太閤様と呼ばれる。豊臣秀吉である。明治3年製作といわれ、旧明浜町の文化財冊子には「太閤様の山車」と紹介されているが、指定文化財にはなっていないものである。人形屋台で賑やかなのは八幡浜市保内町の三島神社秋祭り。3台の人形屋台があって、お練りで曳かれる。宇和島市吉田町では御車(人形屋台)は出してもお練りの中で祭りの担い手の減少で曳かれることなく安置されるものもあるが、保内、あと伊方は賑やかな屋台行事である。江戸時代から南予地域の祭礼の様態を今に伝えるものとして、保内や伊方の祭礼は貴重といえる。


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牛鬼~明浜町狩浜2~

2011年10月28日 | 祭りと芸能
西予市明浜町狩浜の牛鬼。神輿が海上渡御(船御幸)するのにあわせて、牛鬼も船に乗って渡御する。船に乗る牛鬼。珍しい光景ではあるが、同様の事例は宇和島市吉田町でも見られるし、八幡浜市大島でも牛鬼が船に乗る。神輿の船御幸自体はさして珍しいことではなく、そこの祭りにお供としての牛鬼が登場していれば、牛鬼の海上渡御は成立しうる。写真左が牛鬼船。右が神輿船。


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牛鬼~明浜町狩浜1~

2011年10月27日 | 祭りと芸能
先日10月22日(土)に行われた西予市明浜町狩浜の牛鬼。担ぎ手は胴体の中に入っている。宇和島周辺では外に出て担ぐ事が戦後には多くなったが、三瓶や明浜などでは中に入って担ぐ。宇和島でも戦前に描かれた牛鬼の図を見ると中に入っている。牛鬼の担ぎ方に関して古くからの形を伝承している。

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四国霊場43番札所明石寺の梛(なぎ)の木

2011年10月25日 | 自然と文化
今年の夏に和歌山県田辺市に盆行事の調査に行く機会があった。せっかく和歌山に来たのでいろいろと町歩きしてみたいと思ったが、スケジュールの都合で昼間は時間が割けない。というわけで早朝に市内の寺社を歩きまわってみた。

そのお散歩で行ってみたのが闘けい(鶏のつくりが隹)神社。熊野三山(熊野本宮大社、熊野那智大社、熊野速玉大社)が勧請されていて、熊野権現の三山参詣に代替できるという三山の別宮的存在でもある神社。その境内に梛(なぎ)の木があって、案内標識もあった。

「梛は凪(風が止み波が穏やかになること)に通じる事や、なぎ払うと言う意から罪穢、災厄、病魔を祓い、平和と幸運を招来する熊野の御神木として尊ばれてきた。又、葉は容易に切れ難い為、縁結びの信仰や、実は二つ並んで実るので夫婦円満の目出度い樹とされ、他に海上安全など海の信仰もあった。古くは梛の葉を鏡の裏や御守に入れ災難除けにしたが、特に熊野詣の人々は梛の葉を懐に入れ道中安全を祈った。」

以上のように書かれていて、熊野信仰と梛の関連がわかる。

実は、愛媛県西予市宇和町にある四国霊場43番札所明石寺(めいせきじ)に梛の巨木があり、寺の言い伝えでは熊野修験が持ってきて植えたものという話がある。

この明石寺には熊野曼荼羅図が寺宝の中にあったり、寺の隣接地には熊野十二社が祀られた神社があるように、熊野信仰とゆかりの深いところであり、この境内の地蔵堂の前に、樹齢250年とも300年ともいわれる梛の巨木がある。近隣ではこれほどの梛の巨木は珍しいということで、お先達さんに以前、この木について説明したもらったことがあった。

和歌山県田辺市の熊野信仰の拠点である闘けい(鶏のつくりが隹)神社で梛の木があるのを見て、すぐに明石寺の梛を思い浮かべた。熊野からの修験が伝えたという伝承は本当かもしれない。そんなリアリティを感じた夏の朝のお散歩でした。


写真は闘けい(鶏のつくりが隹)神社の梛の木。



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獅子舞~大洲市北只~

2011年10月24日 | 祭りと芸能
大洲市の獅子舞が宇和島、八幡浜に見られる獅子舞とは異なり、中予の獅子舞に近い証左に狐や猿、狩人などが演じられることにある。これらは大洲以西の南予には見られない要素である。この写真は大洲市北只の獅子舞で演じられる狐。中予型獅子舞の西限地域の獅子舞である。

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獅子舞~大洲市松尾~

2011年10月23日 | 祭りと芸能
大洲市松尾の獅子舞。毎年10月17日の秋祭り。シシツリと呼ばれる子供が獅子を連れて各家々をまわる。この獅子舞は愛媛県中予地方で見られるもので、この松尾より西、南になると宇和島・八幡浜型の獅子舞(唐獅子、荒獅子)となる。大洲地方は獅子舞でいえば中予文化圏。

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南予の人形屋台

2011年10月22日 | 祭りと芸能
南予地方の秋祭りには御車(おくるま)とか練り車(ねりぐるま)と呼ばれる人形屋台が各地で登場する。三崎、伊方、保内、明浜、吉田、御荘の秋祭りで今でも見られるし、かつては宇和島や八幡浜、宇和などでも出ていた。江戸時代後期の宇和島一宮祭礼で取り入れられて、それが起点となって各地に伝播したもので、旧宇和島藩、吉田藩領内にて見られる屋台の形である。ただ、地元では屋台とは呼ばない。山車(ダシ)ともいわない。だんじりともいわない。これをどのように総称するかは悩むところであるが、人形屋台と呼ぶのが適当だろう。南予の四つ太鼓を、太鼓台もしくは布団太鼓と呼ぶのと同じような括り表現である。他地域との比較をするためにはこれらの呼称を採用するのがいいのかもしれない。これは、今朝の10月22日付愛媛新聞コラム四季録で、胡光さんが「山車という方言」という明快な文章を掲載されたが、むやみやたらに「山車」を使うべきではないとの指摘で、自省させられる内容であった。南予の場合、御車は「人形屋台」、四つ太鼓は「太鼓台」という括り用語でとらえるのが適当だろうかと思ってみたが、地元では屋台とも太鼓台とも言っていない。語彙として地元にないものを採用する難しさはあるが、この括り用語をどのように決めていくのかというのは、日本各地の屋台行事の分布と地域差を明快にする事からはじまると思う。愛媛や南予だけの問題ではなく、全国の類似屋台の比較の上で結論を導かなければいけないという、壮大な問題。「山車」の用語の乱用を慎むことから祭礼研究の進展がはかられる。胡光さんの四季録の文章はいろんなことを教えていただき、考えさせられるものだ。毎週、お祭り関係の文章が載っているが、いろんな示唆を提示されていて、楽しみであり、タメになる。ちなみに写真は伊方の御車(練り車)の人形(加藤清正)。

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宇和島で競演 宮城県鶯沢八ツ鹿踊り

2011年10月20日 | 祭りと芸能
10月10日に宇和島の南予文化会館にて宇和島の八ツ鹿と宮城県鶯沢の八ツ鹿踊りの競演がありました。この写真は本番直前。バスで20時間かけて栗原市から宇和島まで来ていただきました。素晴らしい交流の機会となりました。お疲れ様でした。そしてありがとうございました。

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香川県豊浜のちょうさ祭り

2011年10月19日 | 祭りと芸能
先日行われた香川県豊浜町のちょうさ祭り。ちょうさ(布団太鼓・太鼓台)が有名だが、この「席船」と呼ばれる船型の屋台もある。太鼓台が数多く出る近隣の愛媛県川之江や伊予三島でも数は少ないが船型の屋台が出る。この西讃から東予にかけての太鼓台が賑やかな祭礼では見落としがちだが、この地域の祭礼の歴史的過程を考える上で船は欠く事のできない要素かと思う。

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西予市三瓶町の牛鬼

2011年10月18日 | 祭りと芸能
10月15日に行われた三瓶の秋祭り。牛鬼、四つ太鼓(いわゆる布団太鼓・太鼓台)、五つ鹿踊り、唐獅子(獅子舞)などが出るにぎやかな祭り。この日はあいにくの雨だったが、アーケード通り(大街道)では雨を気にする事なく、お練りを見る事ができた。

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新居浜太鼓祭りと獅子舞

2011年10月17日 | 祭りと芸能
新居浜の上部地区の内宮神社、鳥居前での西蓮寺の獅子舞。60年ほど前に途絶えた獅子舞を3年前に復活。近年、祭りや芸能祭にも出ている。新居浜太鼓祭りでは珍しい民俗芸能。

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宮城県鶯沢の八ツ鹿踊り

2011年10月17日 | 災害の歴史・伝承

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西条祭り

2011年10月16日 | 祭りと芸能
西条祭り。だんじり、御輿(みこし)、神輿(しんよ)の撮影をしています。

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ふるさと怪談トークライブ 東京会場

2011年10月15日 | 日々雑記

ふるさと怪談トークライブin東京

開催の日程、会場がリリースされました。

12月7日(水) 18:30開場 19:00開演

会場は、株式会社ポプラ社 大ホール(東京都新宿区大京町22-1 HAKUYOHビル)

詳細はコチラ。

http://hurusatokwaidan.web.fc2.com/

申し込み方法は、後ほどの発表とのこと。

充実な出演者!





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